第十三幕
俺の叫んだ声に、吹き飛んだ先で颯は倒れたまま小さい呻き声をこぼすだけだった。凪さんのいる方を向くと、凍える程冷えた金色が颯を捉えていた。
「本当に力を失っているんだな、簡単過ぎる」
今度は一枚の札を取り出して、また颯に向かうよう振るわれる。俺は自由の利く足を使ってその軌道上に飛び出した。
その瞬間バチンと大きな音が鳴って俺の体も吹き飛ばされる。多少痛む想像していたものより大分軽く、耐えられない程ではなかった。
「うぅ」
自分を縛っていた縄はどうやら衝撃で切れたらしく、自由になった手を使って立ち上がる。
「……加護か」
鋭い目で睨む凪さんを横目に、俺は痛む体を無視して急いで颯のもとへ向かう。幸い息はしているようだ。それを確認すると俺は颯を背に仁王立ちで凪さんに向き合う。
「何のつもりだ」
呼び止める声に緊張感が高まる。すらりと細く長い指をした手が再び札を取り出した。
「お、い」
後ろから颯が掠れた声で呼びかける。
「凪は……覚悟を決めたら、やれるやつだ……お前……死ぬぞ」
また聞いていたことと違うことを、必死に声を出して伝えてくれる。確かに、目の前で俺を捕らえる揺るがない瞳は、颯に向けられたものと同じだ。でも、颯に止められても凪さんに睨まれても、怖くない。知りたいと思ったから。
「学校生活、俺もよく知らないんだ。何が楽しいのかなんて気にしていなかったけど、言われて気付いた」
俺が首元の石に手をかける、その一挙一動を凪さんは見逃さず警戒している。いくら覚悟を決めていてもやっぱり人間を襲うことは簡単に出来ないようだ。
「友達と過ごす学校の楽しさ、それを知るまでは」
石を勢いよく引っ張ると紐は簡単に切れた。凪さんはこの石が何か知らないようで、俺が力を利用するのを迎え撃とうと構えている。
「死んでも死にきれないだろ!」
首から外した石を、凪さんの目を真っ直ぐ見返しながら、自分の後ろに投げた。その瞬間強い風が後ろから吹いてきて、その勢いに目を閉じる。
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