第十一幕

「凪のこと、あんたも思うところがあるんだろ」


 堂々としながらその実不器用で、主という立場に踊らされているようなその男に、俺は話を持ちかけた。


「俺の力を凪に託す。それで俺は社を継がない、自由にさせてもらう」

「本当にそれでいいのか」


 重く、問い掛ける声に頷く。


「分かった」


 自分の中から力が取られていくのを感じる。取られたそれは目の前の男の手の中に吸い込まれ小さな塊に変えられる。


「もうここにお前の居場所は無い」


 出来上がったそれは青紫色に輝く小さな石の様な物体だった。


――その時、山の方から嫌な感覚が響く。


 反射で山に振り向けば、直ぐにその正体が分かった。光も寄れない木々の中、孤独な小さな塊。


「これは……」

「おい! 山で子供が苦しんでる!」


 再び目を向けると、そいつは男の手の上でひとりでに浮き、より強く輝きを増していっていた。俺は咄嗟にそれを奪ってそのまま山へと駆け下りた。焦った気持ちが不快な汗を流す。


 この山は家も同然の場所、そこで哀れな死なんて起こさせない。


 その一心で子供のいる所に着くと魂を吸われきる寸前の状態で蹲っていた。その小さな体をそっと抱えて声を掛ける。


「生きろ、絶対に死ぬな」


 俺は握っていたそいつに改めて力を籠め、子供に持たせた。


    △▼△


 ぼんやりとした意識のまま目を覚ますと、体が縄で縛られていて、見知らぬ場所に寝ていた。とりあえず外のようではあるが、霧がかかっていて今が朝か夜かも分からない。なんとか起き上がって辺りを見た感じ、どうやらここはどこかの神社のようで、俺は参道から外れた脇に放られていたらしい。

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