第九幕

 下校中も周りを気にしてソワソワとしてしまう俺を見て、颯が語る。


「別に凪は誰かを殺そうとするやつじゃない、ほぼ人間程度の力の俺に、狐の力で捕えようとした事故みたいなものだ」


 次が起こらないとは限らないがなんて付け足して語る颯は、ニヤニヤと楽し気だ。昨日もそうだが、時々颯にはからかわれているようなそんな気がする。


   △▼△


 その後寮の部屋に戻ってからまた同じやり取りを繰り返していた。昨日話した時と同じ状態で、昼よりは冷静に言い合う。颯の髪と目は元に戻っていて、卓上ライトと月明かりの照らす中、動く度に微かな光を反射して煌めいていた。


「要するに、元々これは颯の物だったってことだろ。何で断るんだよ、昨日は奪い取ろうとしてきたのに」

「あの時は少ない力を酷使して多少正気を失っていたんだ。だから、己の力に無意識に釣られていた」


 昨日の荒れた獣みたいな状態を思い出しているのだろう、顔を顰める颯は嘘だとか遠慮をしている感じには見えなかった。それでも、正気の有無に関わるぐらい重要な力なら猶更持っていた方がいいと思うけど。そんな俺の疑問を見透かしたかのようにまた石を指差して説明する。


「そもそも、それは俺が主に頼んだことで契約みたいなものなんだよ」

「神様が作ったものだったのか」

「俺の力を託すからっていうので渡したんだけどな」


 それが本当で颯が神様と交渉してこの石が出来たなら、神様はどうしてそれを俺に渡したんだ。子供が苦しんでいたからにしても、神様なら石を渡さなくてもどうにか出来そうだけれど。


「何で……」

「力の量が多いだとかで、次期柱に俺が期待されてたんだよ。凪の方が努力家で、社のことも一番考えてるのに、誰もそれを認めなかった」


 俺の呟いた言葉を颯は勘違いして、抜け出した理由について教えてくれる。


「それと人間の生活、特に学校に興味が湧いたんだ。お堅い指導よりも学校生活、こっちの方が面白そうだと思った」


 そう言っている颯の表情は、俺もよく知った感情を抱えているんだと一目見て分かった。


「俺と同じじゃん」

「違うだろ、俺は凪のことがなければこれ程の決断はしていない。一石二鳥だって気付いてやってんだよ。一人で突っ走るお前と一緒にするな」


 ついこぼしてしまった一言に不服そうに否定された。その扱いに俺も不満に思う。


「弟のためにやったことで弟に狙われるなんて。俺より明確に命懸かってるだろ」


 ボロボロの体で横たわる姿を思い出して、何だか報われない気持ちになってしまう。

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