9話 川の字って親子がやるものだよね
すずちゃんと綾ちゃんも呼んで璃子さんの研究室に集合した。
2人は狂人じみたキツネ型のソドールに顔を見られているため今日はここ泊まることになる。
「2人ともこれ持っていて……防犯グッズを作ったから用心のために渡しとくね」
璃子さんが2人に渡したのは2つの防犯グッズ。
・グローブ型の改造スタンガン
・少し厚いカード
グローブ型の改造スタンガンは嵌めていない時はブカブカの薄く黒色の手袋となっている。両手に嵌めて手の甲の部分を1回叩けば、嵌めた本人の手の大きさに自動的に合わせてくれる。全部の指先部分には電導糸と呼ばれている通電性がある糸を組み込んでいるため、携帯端末で採用されている静電容量方式タッチパネルも難なく画面操作できる。いちいち手袋を外す手間が省ける。しかし、この手袋の真価は手袋内部に強力な護身用スタンガンで使われる電圧まで使用可能な点である。スタンガンの形状は今まではペン型や警棒型などがあったが、それらは必ず抜く動作が必要になる。相手が鈍間なら大丈夫だけど全ての変態がそうではない。
更に人は恐怖状態にいる時、ちゃんとした思考ができなくなる。そのため、毎回護身用スタンガンを抜く手間を省くため、手袋型にした璃子さん。この手袋は防水性、粉塵無効、耐衝撃もばっちり完備しており、建物から落ちても先にこの手袋を地面に付けば落下の衝撃を100%吸収してくれて手袋を嵌めている人は無傷になる。ぴっちりしているのに通気性がよく蒸れることがない吸湿性に優れている。肌触りも心地良くなめらかな構造になっている他、デザインも良いため普段のファッションでも使える点も高い。
急速充電可能、電池もボタン電池位の大きさが内蔵されており、24時間フル稼働時間も1ヶ月使用可能とのこと。
使用可能にするには手の平にどの指先でも良いので2回叩くことで使うことができる。
それと同時に手の甲にゼンマイ式のタイマーが浮かび上がり時計回りに電圧を調整できる仕組みになっている。
2つめの少し厚めのカード。カードサイズはヨコ59mm×タテ86mmとなっており、制服の胸ポケットにも簡単に収納できるカード。これはカードを持っている人を外的ーーソドールから身を守ってくれる代物。
例を挙げると今日、遭遇したソドールは鋭いレイピアを所持しており灯や他2人の命を狙ってきておりその動きに躊躇いもない。そんなソドールの攻撃、突きや剣を振り下ろし肉体に傷を負う瞬間にこのカードをその攻撃に対して向ければ防ぐことができる。
耐久性は戦車の大砲も耐えれることが可能。大砲を防ぐことができることは可能だが、このカード単体だと持っている人が衝撃に耐えることができなくなる。そんな時に1つ目のアイテムの手袋が必要になる。衝撃を吸収してくれるため耐えれることができる。
一通り使い方の説明を聞いた2人の顔はハニワの顔になっていた。
暫し、その場から微動だにしなかった。
「ねぇ。灯……2人ともどうしたの?」
「さぁ〜? よくわかりません……2人とも大丈夫?」
「灯……貴方は璃子が製作した様々な武器などを使っているから感覚が麻痺しているけど、あんな高度なテクノロジーを簡単に渡されたらあんなになるわ」
クロは灯と璃子に向かって苦笑しつつ説明してくれた。
「そ、そっか……すっかり忘れてた。大丈夫だよ、2人とも!! 璃子さんは2人の安全のために渡したから使っても良いよ」
「私、思うんだけど……ほんの少しだよ。灯と出会わなければ良かったって……」
「だよね……なんか普通の生活から段々、離れていく気がする……どうしようーーいつの間にか灯ちゃんが着ている怪盗服を着ているかもしれないのが怖い……」
「あぁ!? それ良いわね! 綾、そのアイデア頂いたわ!!」
そう言って璃子さんが自分の作業スペースに戻っていった。
「嘘だよね……私達もソドールと戦うの?」
「それは安心して。璃子さんは2人に対して身を守る鎧だけ渡すだけだと思うから。ソドールとの戦いはこの灯さんに任せなさい!!」
灯は自分の手を握り左胸を叩き、宣言した。
「本当に着ることがあるかもしれないのか……綾、今の内に覚悟を決めておこう」
「そうだね……」
「2人とも私の宣言、聞いてよ……」
灯の話は2人には聞こえず、灯は大きな声で独り言を言うだけの光景になり、次第に頬が赤く染まる。
作業スペースにいる璃子さんが何か思い出したのか灯の方に向かった。
「忘れてた。灯にはこれをあげる」
璃子さんに渡されたのは会社勤めの社会人さんが取引相手に対して渡す名刺。それを入れているであろう名刺入れの薄い箱型のケースだった。表面に一部がくり抜かれておる。何かのカードの裏面が一部露わになっている状態になっている。
「あの……璃子さん、これは何ですか?」
「これはね……予告状カードよ。怪盗には予告状があるのが相場でしょう!!」
1枚カードを箱から抜くと灯が良くソドールに対して言っている『貴方の成分頂きます!!』がカードに入っていた。質感も良く紙製ではなくプラスチック製の作りになっている。
「単にソドール相手に予告状として使っても良いし、実はそのカードには簡単に落ちない特殊な塗料が塗られていて逃げるソドールに向かってカードを投げて当たれば塗料が付着するの。塗料の中にはナノテクノロジーでできた小さな機械が入っていて発信機が搭載されている。発信機を辿ればソドールの居場所がすぐに掴めるわ。これは人間に戻っても有効で付着してすぐに透明になるから安心できる。水で洗い流しても簡単には落ちないようにしてあるわ」
璃子さんはまた作業スペースに戻ってしまう。
私達は隣の実践場にいた。
すずちゃんと綾ちゃんは自分達の前にいるロボット相手に渡されたアイテムの動作確認していた。
「はぁっ!! 綾それ強すぎ!! もっと弱めで良いよ」
「そういうすずちゃんだって焦がしてどうするの!!??? こっちにグローブ向けないで危ないから!!」
あれ? 本来の護身用のスタンガンって相手を威嚇したり、相手に電撃を与えることで瞬時に無力化されるのが目的の代物だったはず……。人間を含む動物は、電気の火花や感電のショックを本能的に恐れている。スタンガンは通常、相手を威嚇するための護身用品。スタンガンによって体に電流が流されている相手は、全身の神経に激しい痛みを感じ、叫ぶができない状態になる。そして体中の神経と筋肉がこわばり、動く事が困難になる。今はロボット相手なので動物のように神経がない。(ロボットの場合、ショートするかもしれない)いくら電圧の強弱が可能になっているからってなんでロボットが焦げて煙が立ち込めているのか灯は2人の現状を見て不思議に思っている……。
この実験場内で大炎上が起きない限り火災報知器は発生しないようになっているから多少、煙の量が多くても作動しないが、あれはどうなのか……。
自分がいかに璃子さん印の武器やアイテムに毒されていて感覚が麻痺しているのかが今わかった気がする。あれは普通の女子高校生が持っていい代物ではないね……。
きっと璃子さんのことだからもしもの時の安全装置が付いていると思う。
そう考えた灯は横目で2人と見つつカードで投げて遊んでいた。
ちょっと語弊があるかもしれないが、決して遊んでいるわけではない。歴とした訓練中である。
カード投げなんて生まれて初めてのことだから狙った場所に向かって投げることは簡単だが、コントロールが上手くいかなかった。
取り敢えず、トランプ投げをしている人の動画を見つつ、5m先にある的に向かって投げている最中。このカード投げは上手く出来るかで今度のソドールとの戦いが変わる。
今までは私達位しかソドールを関わって来なかったが、最近になって警察も特殊な装備を着てソドールと戦う場面が多くなった。先日のネコ型のソドールとの戦いも私達がくる前に居場所が掴めていたのか先に戦っていた。あそこで私が【
このカードを上手く活用できれば、ソドールに逃げられても警察より必ず先回りが可能になる。
カードを持つときは軽く肘を曲げて、右手の人差し指と中指でカードの右上の角を挟みながら、カードの右下部分を親指の付け根に押し付けた。そのまま投げてみたが的に当たることなくカーブしながらあらぬ方向に行ってしまった。
(次は手首を上手く使うしかないか……)
私達は渡されたアイテムの実施テストを終え、就寝している。
灯の中ーーーー。
灯:あれ、何で私……こうちゃんに両手を後ろに回され動けないよに拘束されているの?
黄華:許せ……灯……僕はもう駄目だ……1回身代わりになってくれ……。
灯:えぇ!? 意味が分からないんだけど……。
黄華:暴走したあいつを止められるのは灯だけだ!!
灯:あいつって……まさか……。
青奈:待ってたわよ。灯ちゃん!!
黄華:灯の拘束に手伝ったことだからもう僕にやるなよ……。
青奈:えぇ!! これで契約完了ね!!
灯:こうちゃんーーまさか私を売ったのね……何でよ……。
青奈:さぁ、灯ちゃん……!! 覚悟は良いかしら!!
灯:待ってよ。この前のだって私関係なくない??? こうちゃんが勝手にやったことで私は強要されただけじゃん。
青奈:灯ちゃん。連帯責任って言葉知ってるかしら?
灯:お願い。早まらないでよ。てか、手を滑らかに蛇の様に動かすの止めてくれない。段々、私の横腹に自分の手を標準させないでくれないかな……。
「はぁっ!!」
勢い良く目を開けた灯。
灯は自分の中で行われた青奈の苛烈な行為に耐えきれず急いで外に戻ってきた。
外を見ると夜だったが、灯がいる部屋は夜をかき消すほどの光の空間に包まれていた。
さっきまで、ある意味貞操に危機に瀕していた己の身体を守りながら回避した灯は喉が乾いたので水を飲もうとした身体を起こそうとしたが、動けなかった。金縛りではない。何者かによって身体の自由が利かなかった。
「何で……??」
あまりの衝撃的な光景に思わず発してしまった。
自分の身体を上から覆う布団が大きく膨らんでいるのが分かる……。
その膨らみが下から上へ……。つまり、灯の顔の方に徐々に向かって来ていた。
灯の鎖骨部分の布団から出てきた2つ……。すずちゃんと綾ちゃんの頭だった。
そして、灯のクロや璃子さん位は無いがそこそこある豊かなものの上に顔が乗っけている。
「……おはよう、2人とも。どうして2人は私の布団の中にいるの……?? 水飲みたいから開放してくれるとありがたいんだけど……」
右にすずちゃん、左に綾ちゃんの頭があり、灯の腕に自身を密着させている状態になっていて身動くが取れない。段々、ピッタリと抱きついてきて更に自由が利かなくなる。腕だけではなく足も同様に灯と2人の足が絡められた状態になっていた。
2人は灯の上半身だけ起こしたが開放されなかった。
「はい!! お水……」
あらかじめ、用意していたのか綾ちゃんにコップにストローが入っている水を貰う灯。
手が使えないので、コップに入っているストローを使って飲んだ。
「ありがとう……綾ちゃん」
「良し! 飲んだな……さぁ、寝ようか灯」
すずちゃんの言葉でまた寝かされたが未だに身動きが取れない状態は続いている。
「ねぇ……2人ともどう……っ!?」
いい加減2人に事情を聞こうとした灯だったが、口をつぐんだ。
灯の腕から伝わってくる2人の震え……。
大きな振動ではなく、小刻みに身体が震え出していた。
(そっか……普段通りに振る舞っていたけどやっぱり……)
「2人とも怖い思いさせてごめん……」
灯のその言葉に2人は顔を上げた。
「灯は悪くないよ……あの時、青奈に成分を取られてラッキーだったって安心と、もしあのまま自分が暴走していたらキツネのソドールと同じ道を辿る未来もあったって考えちゃって身体が震えたの……灯にしがみついたのは安心出来たからだよ……」
「私は見ることしか出来なかった……何度も灯ちゃんが戦っているのを……そうだよね。あんなおかしい人に人形が渡る可能性もあるんだよね……だから、灯ちゃんがちゃんと私達の所に戻ってきて良かった。もしこのまま会えないって考えちゃってしがみついたの……」
灯を見つめる4つの眼には心配と安堵の眼をしていた。
(そっか……私はこんなに良い友達を持ったんだ……)
灯は2人にどこか優しい、慈愛を帯びた眼差しを向け、口角も少しあげる。
「さて、と……寝ましょう!! 2人とも……」
さっきまでの身体と身体の密着からは開放された。今は3人、川の字に寝ている状態になった。当然、私は2人に挟まれている。
2人は緊張が解けたようでものの数分でスヤスヤと寝息を立てながら寝ている。
お互いの手も何故か絡んだ状態になっている……。
寝ているから離せると思ったが緩み気配が起きなかった。
灯はため息を1つ零したが、煩わしさは欠片もなかった。
灯もまた天井を見つめていること数分で自分の瞼が落ちてくるのが分かり、争うことなく眼を閉じた……。
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