8話 幻覚的摩訶不思議体験
「入ったわね……。ようこそ、ワタシ世界へ」
「綺麗な場所ですね!! これが貴方の言うアートならここに長居したいけど……」
「うん? 何いってるのかしら? 唯の教会には興味ないわよ。ほら、貴方も見えるでしょう! 上をご覧ください」
「え? 上……!?」
さっき仰向けの状態で上を見たがアートなんてステンドガラスぐらいしかないと思ったが
「……...キャァァァァアァァ。何これ……」
私は上の惨状に視線が釘付けになる。思わず身体の力が抜けたようで尻もちを着いてしまった。
いくつもの細長い物体が小刻みになって揺れていた。
タロットカードの大アルカナ12番目のカードである【吊るされた男】。【THE HANGED MAN】が存在する。カードの絵柄には人が吊るされている男性の絵が描かれている。
なんでこんなことを思ったのか。何故なら、その吊るされた男性と同じように上下逆さまに吊るされいる人が見える範囲で2人いたから……
【吊るされた男】と違うのはカードに描かれている男性の顔はどこか穏やかな表情を浮かべ、何かを悟っているかのような様であるが上にいるのはそんな表情とは真逆な表情だった。
何かに怯え、目が全開に開いた状態で口も大きく開いている表情だった。
首には何かに切られた後がうっすら見えていて、何かが落ちてきた。
ピチャっと下にある木製の椅子に当たったことでそんな音が聞こえた。
私はお腹に溜まっている物を吐き出す寸前までいったがなんとか出さずに済んだ。
あんな姿のを見るなんて……。
「良いわよ。その反応が見たかったのよ!!」
「はぁ……はぁ……、何よこれは!!!」
あまりの悲惨な現場を見たため、怒りの籠った一言をキツネ型のソドールに言い放った。
「何って、何度も言ってるじゃない。ワタシのアートよ」
何なのよ、そんな当たり前なことを見たいな表情でこちらに向かって話すキツネ型のソドール。
「上だけじゃなくて周りも見てくれるかしら」
木製の椅子にも人だったモノが何人も上手に座っている体勢になっていた。
表情は上と全く同じだった。
急いでこんな悪趣味な場所から脱出しないと段々、おかしくなると感じ灯は行動することにし、走った。
出入り口は1つ。それを門番かのように立っているキツネ型のソドール。
「1つ言い忘れたけど......下、気をつけてね」
「うわっ! イった……」
床に何かあったのか足が滑り又、仰向けの状態になってしまった。
しかし、先程とは決定的に違うことがあった。それは……。
「てか、いつの間に水なんてあったのよ」
床に水らしき液体があった為滑ってしまった灯。
左手に持っていたクイーンズブラスターASKが滑った反動で手から溢れてしまっていた。
幸いに液体の下に落ちたことでどこかに転がっていくことがなかった。
左手で拾おうと手を伸ばすと自分の手の平から液体が落ち続けているのが分かった。
灯が自分の手の平を確認すると……。
「きゃああぁぁっぁぁ!!」
血だった。手の平だけでなく服にも倒れた拍子についているが分かった。
「良いわ、良いわ、その声が聞きたかったのよ。やっぱり貴方が欲しいわ。あれのようにしてあげるわ」
キツネ型が人差し指を上に上げ私を再度、標的にしていた。
灯に向かって走り、ジャンプする。
空中で前のめりになりながら右手に持っていたレイピアを後ろに引き、正確に灯を当てるためにブレないように左手を前に出している。
落ちると同時に引いていたレイピアを前に突き出し、灯の脳天を刺そうとしていた。
(ヤバい……。キャッ!!)
回避するために即座に立ち上がる予定だったが、床に広がっている血のおかげでその場で後ろに豪快に滑った。右手が後ろに引っ張られかのように伸び、左手は下の方向に曲げ、右足は膝が曲がり膝部分が上にいき、左足は少し曲がった状態で身体は反るような体勢になってしまった。
反ったおかげでレイピアの剣先に当たることがなくなった。キツネ型のソドールは剣先が床に刺さり逆さまな状態になっており、着ていたウェディングドレスと尻尾が重力の影響で下に落ちておりキツネ型のソドールの中が見えるようになった。中は特別変なものがない。人間サイズのキツネとなっているので褐色の被毛が露わになっている。
灯はというと両手を床につけ、同じく逆さまになり、手を勢い良く離し、それにつられ両足が前にいき、キツネ型のソドールの背中を直撃した。
背中からの強烈な一撃で持っていたレイピアを離し、奥に吹き飛んでしまった。
逆さまでキツネ型のソドールの吹っ飛ぶ姿を見ていた灯は違和感を覚えていた。
(あれ? さっきまで縦長の机があったのに。いつの間にか横長の机になってる?)
灯の言う通り、いつの間にか机が変化していた。
横長の机の上には男性が横たわっていた。170cmぐらいの男性で白いタキシードを着ており、微動だにせず、両手を胸あたりで組んでいた。
そして、キツネ型のソドールは机にお腹からぶつかりそのまま倒れ、ぶつかった反動で机にいた人がキツネ型のソドールの背中目がけて落ちていった。
灯は体勢を戻し、落ちている自分の武器を回収していた。
無事に回収し終えた灯は臨戦体勢を取る。
「え!?」
そこにいたのは、キツネ型のソドールが男性を抱きかかえている様子だった。
「ごめんなさい。貴方を汚してしまって……。待っててね。もうすぐだから……」
男性に向かって謝罪していた。今なら……。
あの状態なら逃げれる。今成分を抜くことはリスクが大きいため一旦、退散することにし、クロ達と作戦会議することにした。
床の血を気を付けながら後ろ向きに教会の出入り口の方向に歩いていく。
1歩1歩少しずつ歩く灯。そして、教会の出入り口から差し込む外の光で後1歩か2歩の位置に到達したが……。
キツネ型のソドールは横長の机を戻し、そこに男性を置いた。
ーー刹那。
勢い良くこちらに向かって走り出すキツネ型のソドール。
刺さっているレイピアを引き抜き、斜めに持ちながら灯に向かう。
灯は後ろ向きから前向きに戻し、【スパイダー】を装填し起動した。
外にある大きな時計にクモの糸を付着され上へ逃げようとしたが、キツネ型のソドールによってクモの糸が切られ、灯のお腹を蹴った。
「ぐはぁぁ!」
上に逃げることはできなかったがなんとか教会から外への脱出に成功した。
「どうなっているのよ……」
キツネ型のソドールが持っているレイピアだが、先ほどまで何も変哲のないレイピアだったのにクモの糸を切ったレイピアは違った。
燃える炎を纏うレイピアだった。
そして、キツネ型のソドールが着ていたウェディングドレスも純白のドレスじゃなくなり、黒と赤を基調としたドレスになっていた。首元から胸の上部分とお腹の位置辺りは漆黒の黒色になっていて胸部分は黒と赤が融合した色合いになっている。足を隠しているドレスのスカートは燃える炎、煮えているマグマを彷彿されるものになっていた。
「よくも……、よくも……、ワタシの大事な人を汚したわね。貴様をアートにするのはやめたわ。八つ裂きにしてあげる」
初めてあった時と同じように階段をゆっくり降りすキツネ型のソドール。
(どこまでいけるか分からないけど、やるしかない……)
手を後ろに回し、【
周りが騒ぎ始めた。近くに住んでいる人達なのか。徐々に人が増えていった……。
キツネ型のソドールが周りを見渡す。
「この状況はあまりワタシにとってよろしくない状態ね……。今日は見逃すわ。次会った時は覚悟してもらいわ」
そう言ったキツネ型のソドールは一瞬のうちに黒と赤のウェディングドレスから黒と緑のウェディングドレスになっていた。燃えていたレイピアも鎮火されている。
そして……。
キツネ型のソドールは自身を中心に渦巻き上の竜巻を発生され、空へ飛んでいった。
(私も逃げないと……)
再び、【スパイダー】を起動してその場から逃走した。
逃げている最中の灯……。
空を飛んでいる様にクモの糸を使っていたため、下の存在を忘れていた。
「しまった! 服に付いている血が下に落ちる……。あれ?」
着ている服にはいつの間にか血が落ちており、いつもの怪盗服になっていた。
服だけではなく手にも血が一滴も付いてなかった。
「どうなってるの?」
不思議なことだらけな出来事を持ち帰り、灯は家に帰っていった。
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