10話 事後......違います、何もありません
日が昇り、朝日が灯の部屋の窓から差し込む。その光に当てられ目を半目にしながら灯は起きた。上半身だけを起こした灯は、やっと腕が開放されたので伸びをしていた。
2人はまだ寝ていたので起こさないようにゆっくり四つんばえの状態でベットから降りた。
すると……。
「おはよう。灯!!」
毎度毎度、何で私が起きたタイミングで私の部屋にいるのか疑問だが、もう慣れた光景。
クロは私の椅子に座ってコーヒーカップを机に置き、灯に挨拶した。
2人がまだ寝ているので声のボリュームを下げていた。
「何か……。灯の顔がツヤツヤしているのか気のせいかしら……??」
「えぇ? そうかな? 特に何もしてないけど……? 気のせいじゃないのかな……」
「まぁ、灯が2人と何をやっていても別に気にしないけどね……。節度を守ってくれるなら私はどうもしないけど……」
「何言ってるの!? 2人とは何も無かったよ!! 信じてよ、クロ」
「灯は私というものがあるにも関わらず他の女に手を出すふしだらな女だと思わなかったわ」
「誤解だよ!! 全く事実無根だから……」
「正直、解せないわ……。私の身体には無反応な癖に同じ年の女の子には興味があるなんて……。そうだわ!! 以前、灯と同じ年位になったから今度から姿を変えて行こう!! そうすれば、灯は手を出すはずだわ」
「あの〜。クロさん……。自分だけの世界に入ってないで少しは私の話を聞きませんか?」
灯とクロの会話を後ろから聞いていた2つの姿。
段々、2人の声のボリュームが大きくなりその音で起きてしまったすずと綾の2人……。
「やっぱり、クロさんは灯ちゃんのこと……」
「いや。あれはただ、戯れているだけだと私は思うけどな……」
朝ーーーー。
生徒達が朝の陽の光に当てられながら学園の昇降口に向かって歩いていると……。
とある3人の姿を見てしまった。
灯達3人の間に流れる空気が一変していることに気が付きながらも、誰も何も言わなかった……。
「ねぇ、2人とも……。周りが静かだけど何かあったのかな……?」
「「さぁ!!」」
「2人とも何か知っているでしょう」
灯から離れ、先を走るすずと綾の2人。そしてその2人を追う灯の光景が周りの生徒の目に焼き付いてしまう。
———放課後。
今日は何故か女子生徒からは羨望の眼差しが、男子生徒からは白旗宣言をされていた。
頭にハテナマークが飛び交っていたが、目下の目的であるキツネ型のソドールを倒す手段を模索するために一旦今日の出来事は頭の中の地平線の向こうに追いやることにした。
鞄を持って教室から出るタイミングでポケットに入っている携帯端末が振動しているのが分かった。
ポケットから出し、中を確認すると差出人は零治(れいじ)さんだった。
From:Sakamoto.tantei———
To :akari———
件名:姫、アイツが来るぞ!!
本文:今夜6時にアイツが情報を仕入れて璃子の家に来る。
まだ、慣れないと思うが我慢してくれ。あれはアイツの生き様みたいなものだから……
P.S.
姫が友達とワイワイしていて嬉しかったよ!!
「零治さん……」
心配してくれると同時にあの人が来るのかと不安もある灯。生まれて初めて、あのような殿方と接したので戸惑いを覚えたが情報は正確だしこれまで何度も助かったことを考えるとあれは仕方がないと思ってしまう……
そういえば、すずちゃんが記者としてファンだって言ってたっけ?
意外と多忙なあの人だから今度、いつ会えるかわからない人だからこの機会に合わせるのも良いかと考え、3人のチャットにメッセージを送った灯。
【灯ちゃんと愉快な仲間たちASA】
灯:すずちゃん……今日家に近藤(こんどう)さんが来るんだけど来る?
すず:!!!?!??!
行く……行きます……てか、行かせてください!!!
綾:おぉ〜 即決だね、すずちゃん……
灯:私、教室に居るから待ってるね!!
すず:Yes, ma’am.
灯:綾ちゃんはどうする?
綾:私も行こうかな……すずちゃんをこんなにする人ーー近藤さんどんな人か興味があるし
すず:てか、2人は別々なんだ?
綾:三守(みかみ)先生に呼び出しされちゃって……今、国語準備室に向かってるの……
すず:OK!! 終わるまで2人で待ってるよ。灯!! そっちの教室に行くから
灯:了解!! 待ってるね!!
私、鈴木綾は担任である三守先生が待ってる国語準備室に向かっていた。
放課後すぐに呼び出しをくらい何かやらかしたのかと頭をフル回転しながら教育棟3階を目指した。
準備室の入り口に着き、ノックをする綾。ドアの向こうから三守先生の声が聞こえ入れる許可を頂き緊張な面持ちになりながら準備室に入る。
「ようこそ。席に座ってくれるかしら鈴木さん……」
いつもの口調で話し綾に席に着くように促す三守。言われた通り席に着いた綾。
綾は席に着くなり恐る恐る質問する。
「あの〜 今日はどういった事で呼ばれたのでしょうか?」
「最近、天織さんと仲良くしているわね?」
「えぇ……はい。仲良くされて貰っています……」
「貴方から見て最近の天織さんどう……?」
先生から灯ちゃんの事を聞かれて内心驚いたが素直な答えを言った。
「初めは高貴な人かなって思ってて……」
「うんうん」
「実際、話してみると意外と可愛い所があって……」
「そうそう!」
「一々何かに驚く顔が好きで高貴さは段々薄れたけどそれも良いかなって思っちゃって……」
「そうなのよ!! 鈴木さん貴方中々、分かってるじゃない!!」
三守先生の顔がいつもの冷たい女王フェイスから蕩けた顔になっていくのが分かる
「あの……先生は灯ちゃん……いや、天織さんとは……」
「上から許可が降りてね。それを伝えるために貴方を呼んだのよ。灯ちゃんの協力者って言えば分かるかしら?」
突然の回答に口が開けっぱなしの綾。
女子高生が口を中々閉めないのは絵面的に不味いが突如として舞い降りた衝撃的な事実に硬直状態になっていた。
口を開くこと数分……
顎が外れたのかと錯覚する位までになったが何とか口を閉じることに成功した綾。
そして……
「それを伝えて私にどうしろというのですか。先生……」
「どうもしません。灯ちゃんに友達が増えることは私達には願ったり叶ったりな状況なの……。灯ちゃんは私達のために青春の全てをソドールの成分回収に費やすのが見ていて辛かったわ。何度も何度も灯ちゃんを説得してもそれを拒んでいた。『自分には全部回収する使命がありますのでそれ以外のことは二の次です』とね。でも、ここ最近の灯ちゃんを見ているとね……とっても楽しそうで私達はホッとしているわ。だからね……灯ちゃんのことをこれからもお願いね!!」
「分かりました……。任せてください!! 先生!!」
そこから三守先生の灯ちゃんの秘蔵写真を見ること1時間……。
今現れているキツネ型のソドールの成分を回収したらクロさん主催の灯ちゃんの写真撮影会が行われることを伝え、大量の写真をお願いされました。
教室に戻ると灯ちゃんとすずちゃんが向かい合って話しているのが目に入る。
「おかえり!! 三守先生と何話していたの?」
「唯の世間話だよ!! それから灯ちゃんの秘蔵写真を見せて貰ったこと位かな……」
すずちゃんが自分のメガネをクイっと動かす。
「ほぉ〜 詳しく聞こうじゃないか……綾!!」
「ちょっと待って……もしかして……1月と2月の写真じゃないでしょうね」
何やら不味い顔をする灯ちゃんだったが私の回答は違った。
「いや、違うよ? 勉強で疲れて机で寝ている灯ちゃんの寝顔だったり休日にクロさんプロデュースの服を着せ替えしている場面だけだよ?」
灯ちゃんの顔が自爆しましたって顔になり向かい合っているすずちゃんの顔を見ると目を光らせ絶対に吐かせると凝視していた。
「1月と2月って何のことかな〜 吐いてもらおうかな灯さぁん???」
「私そんなこと言ったかしら……すずちゃんの勘違いだよ。きっと……」
灯ちゃんの目が泳ぎ、口笛を吹いていた。隠しきれていない表情に更に詰め寄るすずちゃん……
2人の様子を見る綾は微笑み、自分も知りたいと近づいて行った。
「私も知りたいな!!」
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