2章 6月 涙の暴雨、天舞う朱は侵界を祓う
プロローグ 涙は雨で消せるが、心はそうでない
お昼の時間に雨が降っていてもある程度は視界に移る景色が見えるもの。
雨がどしゃ降りの中、私は大きなスクランブル交差点の真ん中に傘もささず立っていた。
頭から頬をつたり、指先まで雨粒がくる。
駅を出てすぐにあるこのスクランブル交差点がある。ここから色んな所に行ける中心地。人間で例えるなら、心臓のようなもの。
ただ、心臓だけあっても正しく機能せず、そこにはちゃんと血液などの動力源があって初めて機能する。
ここでの血液は交差点を行き来する人間達。
しかし、このスクランブル交差点には閑散としている。多くの人間は存在していない。
では、大勢の人達はどこに行ったのか。答えは簡単だ。逃げたのだ。
雨のせいではない。雨なら傘をさしたり、どこか近くの建物に入って雨が止むまで止まれば良いのだ。
しかし、周りも、近くの建物の中にも人間は人っ子一人いない。
みんな最初に放たれた斬撃で建物にありえないほどの裂け目が出来ており、それを見た人達は一斉にスクランブル交差点、その周りの建物から姿を消した。
みんな死にたくないからだ。
今は声をかき消す勢いで雨が落ちてくる。
しかし、自然的な発生している現象には、さしもの私でもどうすることもできない。
雨はどんどん強まり、横殴りの雨になっていく。
横殴りの雨で目も開けていられないが今ここで目を閉じると命取りになる。
なぜなら、目の前には刀を持ち、いつでも私に対して斬り込む準備をしているソドールがいるのだから。
身長は代々、190cmほどある。身体は一才素肌が見えないように黒色で統一されており、頭にかぶっている兜も豪華な飾りが付けられている。そして、ソドールは鎧を着ていた。戦国武将が着ているような鎧にはマゼンタと紫色の色合いになっている。そんなふざけた色合いでも着ている鎧は重厚かつ絢爛な作りになっていて、私達が持っている武器ーー
その全てが致命傷をつけることが出来ない防御力を保有している。
それだけならいいが、こいつはその重厚な鎧もものともしない速度で私達に襲いかかってくる。
なので、今は防戦一報の戦術しか取れない。
あちらは腰につけている刀に手を置き、居合の構えをしていた。
お互い、車3台分を横に一列に並べた距離で立っている。しかし、あの刀から放たれる斬撃はこんだけ離れていても意味を成さない。
その証拠に周りには赤信号で停まっていた車や発車直後の車があり、その全てが一刀両断されている。炎はこの雨で鎮火せれているが、煙が上へ上へと昇っており雨とミスマッチしている空間が誕生していた。
私が盾にしてしまったのも原因の1つだがそんなことはどうでも良いこと。
防御しても長い斬撃で攻撃され、隙を突いて攻撃を仕掛けても硬い鎧で刃が通らない。
詰んでいる状況で窮地に陥られている。
しかし、完全ではない。
一箇所だけあいつの弱点と呼べる場所がある。
それは......。
しかし、まだ一寸先が見えないほどの大粒の雨が滝のように降るまでに行かないのは、彼女の心がまだ争っている証拠。
正直、それは助かる。
それなら、まだ彼女を助けることができるのだ。
あの怪しげなドリンクの影響だが、いつまで自分の心が正常になるか灯自身も分からなかった。
彼女自身の力がまた、暴走したら今度こそ私は......。
貴方を殺さないといけなくなるからーーーー。
右手で持っているクイーンズブラスターASKを武者型のソドールに向けた。
本当はこんなことしたくない。
でも、これ以上その力を悪用させるわけには行かない。
そして、何より貴方を助けたい。
銃を突きつけられているのに武者型のソドールは刀から手を離し、ただ、立っていた。
「撃たないことはわかっているわ。貴方は優しいし、卑怯なことはしない」
「でもね......。何度やってもおんなじ結果よ。いくら私の成分を抜いても......」
「だとしても、私は貴方を救いたいの......」
「私は今のままが最高に充実しているの、生きている感じがする。そして、もっともっと強い敵を倒すーーねぇ、怪盗さん......。私に回復の力があれば全快になった貴方と戦えるのに......。生憎、私にはゲームのラスボスのように最終決戦前に敵に回復させる手段を持っていない。貴方は逃げ遅れた人間を助けるために無茶して今、そんなボロボロになっている。その状態じゃ、私の攻撃に対処できなくなるよ。立ってるのだってやっとでしょう?」
「それでも、私は貴方を救う!! それに、頼まれたのよ。貴方の妹に......」
(お願い。お姉ちゃんを救って下さい......)
学園のグランドで暴れた武者型のソドールの後を追いかける直前に呼び止められ懇願された。
ソドールは肩で息していた。
「そっか、あの子がね......」
「だから、ここで敗れるわけには行かないーー貴方を止める!」
「言動や行動がまるで正義の戦士みたいだね......。怪盗さんはヒーローになったつもりかしら?」
「私は正義の戦士でもましてや、ヒーローでもないし、決してならない。私は自分が欲しいモノを全て手に入れる怪盗よ!! 当然、その中に貴方も入っているわ」
「優しいのね、怪盗さん。こんな姿になった私をちゃんと見てくれる人は貴方位よ。嬉しい反面、罪悪感が大きいわ。それじゃあ、私も覚悟を決めますか......。来なさい!! 怪盗さんーーいや、灯さん!!」
クイーンズブラスターASKを左手に持ち替え、
彼女も再度、居合の構えをしている。
「「勝負よ!!」」
交差点から少し距離があるビルの屋上ーーーー。
「貴方は何が望みなのかしら?」
「決まっとるわ。天織灯(あまおりあかり)と契約するのよ!!! クロ先輩!!」
クロが立っている左横に浮いている縦長の緑色の箱がしゃべった。
姿は見えないが、昔のままなら、大和撫子を彷彿とさせる見た目をしている、しかし、本来、大和撫子というのは態度や表情が穏やかで、容姿端麗、清楚で言葉使いが美しく、男性を立てるような女性のイメージで確立されているが、この悪魔は違う。見た目は確かに大和撫子の権化となっており、魔界、任務で人間界に行っても誰からも好かれる容姿で人気だった。
京言葉をことなく愛しており自身もよく使っている。
いつも、新緑色の着物を着ていた。スタルジック大人っぽさのあるアンティーク調で大正ロマンに溢れる着物を好んで着ていて所々には花があしらわれていた。清涼感ある扇子を持っていた。ここまでなら完璧だったが、こいつは兎に角、だらしなく、肩は丸見えの状態で着崩した格好をしていて、ある部分が見えそうで見えないぐらいまで着物をおろしている。
「私達に味方して刑を軽くして欲しいのかしら?」
「それもどすが、あたし、頑張っとる女の子が好きなのです。それに、先輩達と一緒に入れば他の悪魔に会える確率が高くなる。そうすれば、いずれ、あのサイコパス野郎に出会える。あんな冷凍保存された姿にした恨み晴らさせてもらう」
毒づく緑の悪魔。
「それに、あたしの力があれば、きっと天織灯(あまおりあかり)の手助けになるわ」
確かにこいつが親から受け継いだ力があればきっとあの武者型のソドールを救うことができるかもしれない。
今までに無いケースのため今まで攻略方法が見つからなかったが......。
「まぁ、良いわ。貴方と契約するのは灯。灯が決めるなら私は何も言わないわ。刑期はまぁ、なんとか交渉してみるわ。でもね、見合った働きをしないと何もしないわよ」
「分かっています。それじゃ、運んでくれますか? 先輩!!」
「はいはい......」
2体の悪魔は灯と鎧武者型のソドールが戦っているステージに向かった。
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