37話 5月28日 Ⅱ
5月28日(土曜日)
今日の天気は、昨日の雨模様の天気が嘘かのような晴れ渡った青空が広がっていた。
5月も後半戦。6月に入れば本格的な梅雨シーズンに突入してしまう。
本日、5日間に亘る中間テスト最終日。残すとこあと2教科を残すだけ。
それが終われば、ようやく悪夢から解放される。私の場合、テストから解放されてもソドールを見つける大事な使命があるので気が休まない。
ネコ型ソドールは23日の月曜日以来、行方をくらませており、彼女が起こしていた連続強盗事件もここ数日は発生していない。幸か不幸なのか分からないが、テストは集中して臨むことができたため、今回も張り出し組になるだろうとクロに言われた。別に頭を良くしたいと考えたことはないけどやったことがちゃんと結果で出てるのは気持ちがいい。
そう意味ではやってよかったと実感もしてしまう。
などと考えながら学生棟の入り口に向かっていると綾ちゃんがいた。
綾ちゃんには珍しく白いハチマキを巻いて単語帳を熟読していた。
残り2教科という状況は多少、気が抜けてしまう生徒がいるが、綾ちゃんはむしろ逆。
1つまた1つと教科が終わるにつれてやる気が出ていた。
(よっぽど嫌なんだね)
声をかけようとしたがあまりにも集中していたので声を掛けずに静かに教室の自分の席に行った。
そして......
最後のテストの終わりを告げるチャイムが鳴り響き、回収したテストを試験官を務めた教師が教室から退去した瞬間。
「終わったぁぁぁぁっぁぁ!!」
「しゃぁあっぁっぁぁぁ!」
教室に、歓声の爆音が上がった。
綾ちゃんが私の方に歩いてきて、抱きしめられた。
「灯ちゃん、ありがとう!!」
「その様子なら大丈夫みたいだね!!」
「もちろん......多分......」
最初は元気に笑っていたが、段々声が小さくなり斜め下を向いてしょげていた。
そして、そのまま私の席も前の席に座り両腕を机に置きその上から顔を伏せていた。
「うん? どうしたの?」
「いつもなら、テスト終了と同時にみんなでカラオケなどに速攻行く気分でテストのことは早く忘れていたけど......今回は妙にソワソワしていて、本当にあの答えで合ってるのかとか、計算ミスとかしてないかとかどんどん不安要素が増えていって落ち込んでいるの。せっかくみんなが私のために泊まりまでして勉強を教えてくれたのに、これで、赤点があると思うと元気になれないかな......こんな経験初めてだからどうしたらいいかわからない......」
「2人ともお疲れ様!!」
「あぁ、すずちゃん!! 中間テストお疲れ様」
「灯は大丈夫そうだけど......」
「後は、神に祈るしかない。高得点は期待しません、どうか赤点だけは......」
外を向いて天に祈りを捧げている修道院のシスターのようにお祈りをしていた綾。
「大丈夫だよ!」
「きっと回避できているよ。テスト勉強期間の1週間頑張ったじゃんね!!」
「そうだ、灯〜 今回の結果、どうよ?」
「うぅ......。張り出し組には入ると思うけど上位はどうかなって、クロに何されるか、今から恐怖してる......。てか、順位ですずちゃんに敵うわけないし」
「まぁ、来週の火曜日には結果がわかることだし諦めよう。帰りにどっか寄ろう!!」
「あ!? それなら、いい場所知ってる」
座っていた椅子を勢いよく後ろにずらし背筋をピンとして起き上がり、さっきまでひどい顔だったのに正気をとり戻りていた綾ちゃん。
手際よく携帯端末を操作し、あるサイトを私たちに見せた。
「これは......」
「お〜お!?」
そこに映し出されていた建物。
先月、出来たばかりのショッピングモール『ウィル・バス』
敷地面積は678,900平方メートル この国一番のショピングモールになっている。買い物だけにとどまらず、飲食やレジャーまで楽しめて、丸1日いても飽きないとのこと。特に巨大なショッピングモールでは1日では全ての店を回りきれないとのこと。
何でも、このショッピングモールの近くにはホテルもあるらしくそこに泊まり全ての店を回る猛者の人達がいるとか何とか。
さらに、近くにはこの国と世界との玄関口、『クロースボルト』空港。
長さ5,000mの滑走路が4本と4,000mの滑走路が4本、計8本の滑走路を擁し、空港敷地面積は約3,000平方メートルに及ぶ。国際線と国内線を合わせた利用者数は年間約1億人に上り、この国で一番忙しい空港とされている。
早速、3人は空港近くのショッピングモールに向かった。
「そんな、巨大なショッピングモールに行くの大変じゃない?」
「心配ご無用!! 『ウィル・バス』への移動手段はいくらでもあるの。徒歩、専用バス、ローカルバス、電車、直通のモノレールまであるの」
学園と通る電車だと遠回りになるらしくバスで『ウィル・バス』に向かった。
最寄りのバス停に降りた私たちは驚きしかなかった。
ショッピングモールの巨大さにもそうだが、周りは人々の山。マンションの最上階から見下ろせば黒一色の景色が広がるだろう。
私たちが乗っていたバスにも『ウィル・バス』に向かう客が大勢乗っており、過ぎ去っていくバスの中は閑散としていた。
『ウィル・バス』は6階構想となっているが上3階分は全部駐車場らしい。
階ごとにそれぞれ直通の通路があり、私たちは1階の専用通路を歩いていた。
「まだ、オープンしてひと月ぐらい経っているのに客の数が減るどころかどんどん増えているね」
「そりゃあ、こんなデカいショッピングモールができたんなら興味を持たないわけないじゃん。しかも、今日は土曜日」
休日ずっと家にいると家族全員おかしくなりそうなので、エネルギーを発散させるために、ショッピングモールなどの商業施設にでかける人たちもいるらしく偶然にも多くの人が考え、行動した結果がこれである。
専用通路を歩いてる。
「車も渋滞してるね」
綾ちゃんの言葉で私とすずちゃんが下の道路を見た。
専用通路は橋になっていて、1階の下に道路がある構造になっている。
1階の専用通路を潜るとショッピングモールの駐車場入り口に入れる。
ボカーン
何かが爆発する音が聞こえた。
私達は周りの人達につられ、爆発音が聞こえた方向に身体を向けた。
爆発音があったのは『クロースボルト』空港の方で白煙が徐々に上へ昇っているのがわかった。
そして、もう1回爆発音が聞こえ、煙が段々黒くなり、火柱が見えていた。
それを見た周りの人達は悲鳴を上げたり、携帯端末で何かいじっている人がいる。
制服のポケットに入れていた携帯端末が振動した。
取り出して見ると璃子さんからのメールだった。
内容はあの爆発を起こしたのはネコ型のソドールが現れた報告だということ。
「2人ともごめん。行かないと......」
「灯、頑張れ!!」
「灯ちゃん!! 頑張って」
すずちゃんと綾ちゃんはサムズアップしてくれた。
私は周りの人達の波から抜け出し、人気のないところで変身し、現場に向かった。
「私って、爆発にやたら縁があるんだけど......気のせいかしら??」
大きな炎を背にネコ型のソドールは嘆いていた。
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