36話 5月23日 Ⅲ
現在、
ルージュという予想外の妨害に遭って、ソドールはもういないのではないかと不安していた。
しかし、その不安は払拭された。
今ここは、楽帯町の商店街通りの途中の『寺木通り』を通り少しずつ、人気のない場所に到着した。
周りは雑居ビルで囲まれている広場。
灯とクロは建物の角で顔だけを出して広場を見ていた。
そこにはある意味、因縁のネコ型のソドールと
ネコ型は標準装備の、右手に猫の手を模したと思われる熊手を所持しており、左手には指先まで伸びている鋭い爪を展開して一心不乱に自分の武器を振っていた。
緑川は後ろに下がりつつ持っている銃で向かい打っている。
「どうする?」
「決まっているでしょう!」
灯はクイーンズブラスターASKを取り出して【レッド】を付けた。
「ふんっ!」
クロもクイーンズブラスターBLACK取り出して【ブラック】を付けた。
「「変身!!」」
「クロは周りの建物の真上から奇襲」
「私は正面突破するわ!」
「了解!!」
クロは雑居ビルの屋上へ向かっていった。
「さぁ、行きますか!!」
(もう少しか......)
【アヒェントランサー】に表示されている情報は全て自分が着ているアーマーのマスクに表示される。そのマスクに数字が徐々に増加しているのがわかった。現在49%。残り1%で使用可能になる力がある。それがあればこの装備に備え付けられている能力が発揮できる。銃で牽制してエネルギーが貯まるのを待っているがそろそろ限界だった。もう1つバックパックに収納されている2番武器を使うのもありだが、敵はこっちが武器を切り替えるのを待ってくれない。現に、目の前で右手、左手に別々に武器を持っている人間サイズのネコの敵が一心不乱にこちらに牙を向けていた。
さぁ、どうするか......
後ろ向きで歩いていたため、地面の状態に気が付かない。そのため、自分がその辺に置かれている石ころにも気づかなかった。後ろ歩きは、前に歩く時とは反対に、かかとで地面を蹴って進みます。その時につま先は上を向く。かかとを後ろに踏み出す時に足の膝を軽く曲げ、足の裏全体で着地する。後ろ向きで歩く過程で何か障害物があればその行動が乱れ、予期せぬ行動が生まれる。足の裏と石ころがくっつき、バランスを崩してしまった。
尻もちをついてしまい、移動ができなかった。
「終わりね!! 楽しかったわ、バイバイ!!」
ネコ型は右手に持っていた熊手を大きく振り下ろした。
私は勝利を確信した。
殺しは専門外だったが自分の目的のためなら何でもやる。
自分が持っている武器を目の前で尻もちをついている警察官に向かって振り下ろした。
突如、自分の背中に激痛が走り、くの字になって吹っ飛び顔面から地面に着地していた。
熊手を離し自分の顔を触った。
幸いにもかすり傷程度だったが突然のことで声を荒げてしまった。
「誰よ!! 私の顔に傷をつけるなんて......」
身体を起こしさっきまで立っていた場所を見ると見覚えがあるやつが足を上げていた。
上げた足を地面に戻してこっちを見て微笑んでいた。
「私よ、猫さん!!」
そこには腰まで伸びている真っ赤な髪、モデル体型のような細い体は烏の羽のような艶のある黒色のワンピース・ドレスに包まれている。ドレスの上に羽織っている深みのある華やかなワインレッドカラーのコートを着た少々、私と因縁がある女怪盗がいた。
「あの時の怪盗ちゃんじゃない!? また、やられにきたのかしら!!」
「この前のようにはいかないよ! ネコさん!」
「ふう〜 楽しみね! で、怪盗ちゃんが警察と繋がっているなんて驚きだわ!!」
「繋がっていないわ......こんな連中となんて」
「まぁ、良いわ......どのみち、正体を知られたからには2人とも生かしておかないけどね」
「今度こそ、あなたの成分頂くわ!!」
緑川のマスクのディスプレイにエネルギー充填率50%になっている表示が現れていた。
ギィイィィインッ!
ギィンッ!!
灯の
灯はネコ型の移動させず、その場に留まられ私が周りを【ホッパー】を起動させながら縦横無尽に攻撃をしかけていた。
ネコ型が熊手と左の爪で私の攻撃を受け流しているが移動できない点がネコ型を焦り始めさせた。
戦闘は、誰かと喧嘩だってしたことがなく自身の手癖の悪さとこのソドールの力だけで今までいろんな人から金品を奪ってきた。
敵とも距離を離しながら、戦っている。武器もただ振り回しているだけで偶々、相手が直撃しているだけ。
今も自分の持ってる武器を敵のナイフにぶつけることしかできていない。
金属音の煩さやそれによって生じる小花火が視界を遮っていた。
「ーーーーッ!」
急に怪盗ちゃんがいなくなり辺りを見渡してもどこにもいなかった。
(どこ行ったの......まさか!?)
自分がいる場所から顔を上げると真上にこちらに落ちてくる物体が1つ。
眩しくて目を全部開けることはできないが、目を凝らしていると女怪盗が空中にいた。
太陽に背を向けた状態でナイフと一点集中のポーズをとってこちらに落ちてきた。
猫の手を模したこの熊手では刺すことがそこそこ難しいが左手にあるこの鋭利な爪なら
貫けると考え、落ちてくるのを待っていた。
あれ?おかしい?いつまで経っても落ちてこない......
なぜ?
「あれは私であって私じゃないからですよ!」
後ろから声をかけられ反射的に身体ごと振り向くとさっきまでいなかった怪盗ちゃんがそこにいた。
そしてこれも反射的にかぎ爪を左から右へ斜めに下ろすように薙ぎ払い攻撃して目の前の女怪盗の胴体に3本の鋭利な線ができてしまい、三枚おろしのようになった。
「ハァ、ハァ、ハァ......ハ、ハハァァ!!!!!」
初めは荒い息がしていたが次第にそれが笑い声に変わった。
「やったわ!! さようなら、怪盗ちゃん!! 後はあの緑色の変な警察官位かな」
「さよならは早いんじゃない?」
「えぇ!?」
腹部を正確に抉り込み、勢い良くアッパーをして、放物線を描くように上へ吹っ飛ばした。
そして、力を失った身体はそのまま頭から地面へ落ちた。
「しっかし、いくら虚像の怪盗だからってこれは、ひどい状態だね......僕のじゃなくてよかった」
倒れている怪盗に手を合わせた
そこで伸びているネコ型のソドールの成分を回収するために近寄る僕、
「さぁ、成分もらうね!」
懐から特製の注射器を取り出し刺そうとした瞬間......
胸の発光装置を光らせ、強烈な閃光が放たれ、僕の目を眩ませた。
「うっ!!!! 目が......!!!」
光をまともに見てしまい、両手を抑えてしまった。
暫くして目が正常に戻り、目を開けるとさっきまでいたネコ型のソドールがいない。
「クソッ!」
青奈:やってくたわね
黄華:これに関してはゴメン......
灯:大丈夫だよ、次があると思うし
青奈:灯ちゃん、こいつに気を遣う必要はないわ
黄華:ギリギリッ (歯をこすり合う)
青奈:まぁ、いいわ サポートは任せなさい
黄華:君が外に出れば良いじゃないの? わざわざ、僕が行かなくてもさぁ......
青奈:嫌よ。男に興味ないし......それに、男っぽい貴方なら適任でしょうしね!
灯:でも、どこから来るか分からないのにどうやってやるの......青奈ちゃん?
青奈:なぁ〜に簡単なことよ、灯ちゃん!!! あの警察官ならきっと......
俺、緑川はビルの1つの屋上にいた。
マスクのディスプレイに表示されている時間が3分を切っているのがわかった。
今いるビルはさっき自分がいた広場から2km離れている。
わずか2分弱でここまで来れない。普通なら。
【アヒェントランサー】盾の真ん中に制御装置【Pパス】を嵌め込むことができる。
制御用変身手帳【Pパス】
対ソドール対策室専用の警察手帳。外側は白黒の身分証明書となっている。【アヒェントランサー】に嵌め込み特定の音声で折り畳まれた【Pパス】が展開され、内側が露出される。それぞれ、紅・緑・灰の色をしている。
展開と同時に強化服が転送され、定着し着装が完了する。パワーと防御性に優れている。
イギリス支部の功績で生半可な衝撃ではビクともしない耐久力を持ち、実弾は弾き返すことが可能。
この盾には能力が2つある、敵の攻撃、属性を【吸収】することができ、【放出】する。
まず1つは、【Pパス】の機能として、細かく言うと、敵の攻撃の場合、こちらに実弾が来ている段階で【アヒェントランサー】を構える。銃弾の威力を吸収し、蓄積される。物質を細かく粉末状に分解しその場で塵になる。蓄積量は100が上限となっており、銃弾1発で1とカウント。
重要なのは属性を【吸収】し蓄積させることで自身のエネルギーに変換できること。
自然となると、風とかの気体や水などの液体に土塊の固体までも吸収できる。四元素的な属性の吸収率が高い。属性吸収は、範囲に関わらず一律、10とカウントさせる。
火の場合、火災などで燃え広がっている炎を吸収でき消火活動としても活躍できる。実は良い事ばかりではなくもちろん悪いこともある。風などの気体の中でも空気中に浮遊しているハウスダストや塵埃、花粉なども吸収でき、エネルギーに変換できる空気清浄機の役割にもなっている。しかし、同時に人類が暮らしている中で身の回りにある空気も吸収してしまう点にある。これを吸収してしまう一般的な空気、複数の気体の混合物が周りから減少してしまい酸欠になってしまう欠点もある。
【Pパス】をはめ込んでいることで必要量だけ吸収することができ、その欠点がなくなる。
最もパーソナルカラーに応じて吸収効率が蓄積10プラスされる。
そして、もう1つ。それは【アヒェントランサー】蓄積率50%、蓄積率100%で使用可能になるシステムで吸収したエネルギーを放出する。
蓄積率50%で
吸収したエネルギーを強化服に様々な能力を付与できるシステム。
強化項目は頭、腕、胴体、足。
頭の中で、さらに適用対象を選択するとその部位だけ能力が上がる。
目を選択した場合、視界がクリアになり遠くの敵も見ることができる。
この5分の間でもエネルギーは吸収可能で再稼働ができる。しかし、再稼働するには3分過ぎないと使用できない。
今回、
目を強化したことで視力が一気に上がる。広がる視野のおかげで遠くで警戒している怪盗の姿を捉えた。
先程の赤色から黄色に変わっていたがそんなことは気にせず、怪盗に標準を合わせ1発放った。
以前もこれで怪盗が持っている銃を弾いた。
今回も行けると確信がある。
「えぇ!?」
こちらの位置がわかっていたのか怪盗が右手に持っていた大きな籠手のようなもので俺の銃弾を防御していた。
緑川のいる方向に向かって笑みをこぼしながら空中を歩いていた。
「どうなってるんだよ」
空中を歩いている怪盗に向かって続け様に撃つ。
しかし、放った銃弾はどれも弾かれたか避けられ、無駄撃ちしただけだった。
緑川のいるビルの屋上の1個下のワンフロア付近に到着した怪盗はこれまたどういう原理か空中でジャンプし、俺がいる屋上に足をつける。
「逃げるなんて釣れないね!!」
「さぁ!! 僕と楽しもうか!! お巡りさん!」
屈託のない笑顔でこちらを見る怪盗。
「生憎、もう疲れたんだ......さようなら」
そう言って超高速でビルからビルへジャンプし、姿が見えなくなった。
「警察が逃げるのはどうなのかな......普通、逃げるのって僕らじゃない?」
1人屋上で呆然としている黄華。
ビルからビルへジャンプしている傍ら、時々、後ろを振り向いていたが怪盗は追いかけて来なかった。
本来、警察官が解答などの悪から逃げるのは言語道断。あの場に燐兎(れんと)がいたら後でどんな目に遭うのかと考えていたが、あんな得体の知れない奴らを相手に長時間の戦闘はきついし何より俺の担当は遠くからの射撃によるサポート。接近戦は苦手分野。
他にサポートがいないと1人ではあれ以上の行動はできない。
マスクのディスプレイに表示されている時間が0になる。
〔稼働時間終了しました〕
機械音のアナウンスにより俺が装着しているアーマーの強化が解け、そのまま落ちた。
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