35話 5月23日 Ⅱ
「嘘でしょう......」
何故......おかしい。だってあいつは......
ルージュが出したモヤが人のサイズに変わりその容姿が次第に判明してくる。
体色は黄緑色に黄ばみ橙色の斑点がある蜥蜴(トカゲ)で、左腕全体には赤緑色をした蔦で覆われており、左手に青紫色の野球ボール位の大きさがある球根を持っている。
見間違えるはずがない。だって私はかつてこいつから、成分を奪ったのだから。
「.........!?」
なんで? 意味がわからない? どうして?
目の前にいる蜥蜴(トカゲ)型のソドールは3月に私が倒して成分を抜いたはず。
「あれはあいつの持ってる鎌の影響よ」
「あいつの持ってる鎌はーーーー死神の鎌(デスサイズ)」
死神の鎌(デスサイズ)
これには”生命を刈り取るもの”のイメージに由来するという説や、東欧の風習に由来するという。 それは、土葬した死者が蘇って来ないように、首の前に鎌を添えて棺に入れたもので、こうすると蘇って立ち上がろうとしたときに首が切れてしまい、現世に立ち戻ることができないとされた。
「デスサイズって死神が持ってるっていう武器のことだよね? それに死神って......」
死神と聞いて人は何を思い浮かべる。多くは、黒いローブの下に骸骨を隠し、三日月型の巨大な鎌を持つ姿を想起するとされてる。
多くの文化では、神話の中に死神を組み入れている。人間の”死”は”誕生”と共に人生にとって重要な位置を占めるものであり、性質上”悪の存在”的な認知をされている。
そして、死神には”生死を操る能力”がある。
「本来のあいつなら”生死を操る能力”を使って仕事していたの。でも、その能力はあくまで上の申請、つまり私が了承すれば使用できていた」
クロの部下は全員、正規の方法で人間界に来ていない。正規の方法で来ていたら使っていたであろう能力も今は使えないらしい。
「しかし、今のあいつにはその能力と似た能力を使えている」
「ソドールの力が保有してあるモノ限り私の能力を使えるようにしました。色々、実験したのですが流石に人形をそのまま使うことができませんでした。でも、以前そちらの女の子が面白いモノを使っていましてね!! 技術を流用させて頂きました!!」
やっぱり、あの時の私との戦いが今の状況を生んでしまった。
その事実を思い知らされ下唇を噛んでいた。
急に頭をポンと叩かれる。
「大丈夫よ!! 一度、戦った相手に遅れを取る必要もないわ。それに前に灯がいったじゃない、『奪われたら』......」
その言葉で私は下唇を噛むのを辞めて、口角が上がった。
「奪いかいして見せるわ!!」
2対2の戦闘となった。
私の
クロはかく乱させてルージュの死角から攻撃を加える構えを取った。
私は【ホッパー】を起動して空中を移動しながら加速して上空からルージュを斬りかかった。
私は横に吹っ飛び近くの店だった建物に直撃した。
「イったぁあぁぁ!!」
横腹を抑えながら起き上がった。
負傷している私の前に歩いてきたのが蜥蜴(トカゲ)型のソドール。
蜥蜴型の左手に持っていた球根から蔦が飛び出しており、だらしなく伸びていた。
あの時、戦った蜥蜴型は球根を地面目がけて投げておりコンクリートの道路を気にせず地面の栄養を吸って蔦を成長させ攻撃してきた。
でも、私の前にいるソドールはそんなことをしなかった。
クロとルージュは目で追えないほどの斬戟を繰り広げていた。
「相変わらず、良く鎌で攻撃をやるわね、素直に感心するわ」
「意外と大変なんですよ、これ」
基本的に鎌というのは”あてがって引く”ことによって切るとされている。
”肉に突き刺す”ことはできても、”切断する”ことはできない。
もちろん、適切な角度で、なおかつ高速で振り抜くのであれば話は別。
高速で振り抜く場合、先ず先端を突き刺して、そのまま振り抜く。すると、先端が食いこむと同時に両側が割けていき、最終的に切断できる、と。
ただ、最大の問題は重心が柄の先に集中しているということ。しかも、根元から刃先まで重量が分散している。等身大ぐらいのでかい鎌となると、振り抜くには簡単な言い方をするとものすごい腕力がない扱うことができない。下手すると持ち上げたときに自分を切ってしまう可能性がある。グリップが甘いと小手が返ってしまったりもするとされている。
等身大の鎌の重量を支えられる柄で、なおかつあれを振りまわせる腕力があるとすれば、柄をぶつけられただけで即死になる。
クロは思う。璃子(りこ)大先生には感謝しかないと。クロ達が着ている怪盗服のおかげである程度のダメージを抑えることができる。
仮にあんな鎌の攻撃を直撃してもなんとか死ぬことはない。しかし、限度はある。
お互いは後ろに退いた。
「あの蜥蜴、簡単な動作しかできないみたいね」
「えぇ、前だったら生物の魂に直接干渉して複雑な動きも出来なんですがね〜」
苦笑しているルージュ。
「もう少し時間があれば全員の力が全開放した状態でこっちに来れましたのに、あの時、邪魔が入らなければ......」
「......あの時、貴方達の計画を聞いた悪魔達のおかげね。彼らは、貴方達の攻撃後、すぐに死んだわ......」
「そんな昔のことはいいじゃないですか。今を楽しみましょう!! お互い弱体化した状態でどこまで戦えるのか」
「行きますよ!!」
右肩の鎌の柄を乗せていたルージュが加速してこちらに向かってきた。
避けるか
「レッド!?」
「ごめん、あいつの攻撃を避けて移動していたらこっちまで来ちゃった」
今、私とクロは敵に囲まれている形でお互い背中と背中がくっついている状態になっている。
「私が合図したらジャンプしてよ」
「信用しているからね」
「信頼の間違えじゃないの、クロ!」
私達はお互い口角を上げながら、目の前の敵がどのように攻撃してくるか注意深く警戒していた。
ルージュの方は低空からの鎌を使っての攻撃、蜥蜴型は私を覆うように攻撃してきた。蜥蜴型の方は恐らく、私を抱きしめ握力で握りしめて再起不能にするのが目的なのだろう。自分の能力を使って蔦で拘束するのだろうと思ったがルージュによって出現したソドールは簡単な動作しかできないのだろうと考えられる。
「今よ!!」
その言葉で勢いよくジャンプした。
私とクロは2体の攻撃を回避することに成功し、ルージュの鎌での攻撃はそのまま蜥蜴型の胴体を切断して上と下の2つに分離していた。
「あぁ、ヤベ......」
思わず、自分が出現させた蜥蜴(トカゲ)型ソドールを切断させてしまったことで今までの陽気で美声な声ではない頓狂な声が出ていた。
しかし、すぐに切り替え私とクロが真上にいることを確認してルージュも真上にジャンプし攻撃を仕掛けてきた。
こちらは先にジャンプして最高到達点に既に達していたので、そのまま落下の一途を辿るしかないがルージュは今真上にジャンプし加速し続けているため追いつかれるのも時間の問題だった。
「その命貰います!!」
下から上へ鎌を持ち上げるように振りかぶって私達の身体目がけて攻撃してきた。
鎌の刃先は私達の届かず、それどころかルージュの姿がいなくなり代わりに私達の目の前に鏡が出現していた。
灯とクロは無事に地面に着地する。
鏡の方はそのまま落下しており地面についた時には衝撃で割れている。
力を受けた点を中心に周囲にひび割れが広がり、鋭利な角を持った大きな破片が生じていた。
「クロ、今のって?」
クロは自分のクイーンズブラスターBLACKからマガジンを取り外し私に向かって投げた。
投げられたマガジンを見た。【ミラー】だった。
No.53【ミラー】
こいつを撃つと、人の身長が全部見える鏡が出現し、中に入ることができる。中は【ミラー】が映したものと同じ世界になっている。【ミラー】の中は入ってくる人以外は居らず、左右が逆になっている。【ミラー】の中に入れられるのは最大で5分となっており、それを過ぎると中の世界が徐々に縮小し世界に押し潰されてしまう。その後、出ることはできるが捻れた状態で出てくる。試しに中身が入っている缶を5分以上、【ミラー】の世界に入れたら捻れた状態で押し出されたところてんのように排出されていた。
「5分も等身大の鏡を放置していたら、あいつはすぐに出てくるから」
「割った方が得策よ!」
爽やかな顔でなんてえげつない事を発しているんだ、クロは......
「でも、いいの? 仮にこんな粉々の状態の鏡からルージュが出てきたとしてもちゃんとした身体が出てくるとは限らないよ? もしかしたら、死んだかもしれないし......」
「それに関しては心配してないから。だってほら......」
クロが粉々になった鏡の方を指を差していた。
割れている鏡の一部から押し出されるようにルージュが出てきた。
鏡から出てきたルージュは捻れた状態になっていた。
「等身大の鏡じゃなくてもこうなるんだね......気を付けよ」
「でも、不思議だね?」
「何が?」
「身体は捻れているのに鎌は元の状態だし」
「まぁ、何事も例外はあるんでしょう」
「ねぇ、クロ。わからなくて雑に言ったでしょう......」
「さぁ〜、何のことかしら。クロ、よくわかんない〜」
「まぁ、いいか。後は封印すればいいんでしょう?」
「えぇ!! 封印は任せて」
「いやー、参りましたよ。こうなっては身動きが取れないですし、王手をかけられた状態ですかね」
「はいはい......そういうのは後でいくらでも聞いてあげるから」
「ここは......」
次第にルージュの身体が消えかかってきていた。
「逃げるとしましょうか!」
ルージュはその場から忽然と姿を消した。
「ねぇ、クロ......これもルージュの力なの?」
「いえ、あいつにこんな力あるなんて知らないわ」
灯とクロは途方に暮れていた。
すると粉々になった鏡の一部から何かが出てくるのがわかった。
灯とクロはそれを確認した。
出てきたのは、人間サイズのクワガタであった。
「あれこいつって......」
出てきたやつには見覚えがある。
林間学習で戦ったクワガタ型のソドール。
女の子の裸を見るために情熱をかけていた哀れなソドールだったと記憶している。
でも、確かこいつには後ろに膝まで伸びている輝く虹色のマントを羽織りっていたはずだが鏡から出てきたクワガタ型のソドールのはマントらしきものが見当たらなかった。
「もしかしたら、【マント】の透明能力を使ったのかもね」
No.37 【マント】
虹色に彩られているマント。取り外しが可能。
能力を使用するときはマント以外にマント着用している者にも色が付き、外の景色に合わせて身体の色が変わり、外敵の目から逃れたり、奇襲をかけたりできる代物。
同化できるのは5秒程度。使用回数に制限はない。
「先輩!!」
どこから発しているのかわからず灯とクロは周囲を見渡していた。
「今日は私の負けです。それから、麗しの怪盗さん!! 貴方の成長を祝してこれを」
そう言われ、どこから出てきたわからないが白桃色のマガジンが私の所にきた。
「あいつ、いつの間に手に入れていたんだ。それは璃子に解析してもらうとして......私達はネコ型のソドールを追いましょう」
「あぁ!? そうだった。まだいるといいけど......」
灯とクロはその場を後にしてネコ型のソドールがいるとされている現場に走って向かった。
灯とクロがいた場所からすぐ近くの建物と建物の間から何かが倒れる音がした。
「いや〜 負けたか」
虹色のマントに包まれながら周辺を見渡していたルージュ。
どうやら、あの2人はいなくなっている。
少し安堵していた。
このままの状態でまた見つかったら今度こそクロに封印される可能性があった。
自分に注意が向かないようにわざとマガジンを渡したのが幸を奏した。
「しっかし、危なかったな、あのままだったら今頃」
ルージュは鏡の中から出られなくなりぶっつけで灯から奪った【マント】を使いソドールからマントを剥ぎ取り使い難を退ける荒技をした。
剥ぎ取ったら能力が使えなくなる懸念があったが何とかなった。
「ハァ〜 面白くなってきた!!」
仰向けになりながらそう呟いた、ルージュであった。
35話現在、灯達が使えるソドール能力。
No.14 ライオン 白黄色
No.25 カメラ 黄茶色
No.33 ホッパー 青ピンク色
No.35 スパイダー 赤紫色
No.47 シャーク 青水色
No.48 ボーン 茶橙色
No.52 ダイヤモンド 水白色
No.53 ミラー ピンク赤色
No.55 クレーン 煉瓦橙色
No.56 ラッキー 茶黄緑色
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No.44 ?? ??色
ルージュが使えるソドール能力
No.37 マント 黄緑青色
No.59 アイヴィー 緑黄緑色
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