33話 5月21日 Ⅳ~5月22日

 私はその場で棒立ちしていた灯ちゃんに寄り添い屋根がある方に移動する。

 椅子に座らせ、持っていたハンカチで灯ちゃんを拭いたが焼け石に水だった。


 灯ちゃんは微動だにせずただじっと前を見ていた。

 しばらくして目に生気が宿った。


「はぁぁぁぁ」

 長いため息をして怪盗服を脱いだ?か分からなかったがすぐにさっきまで灯ちゃんが着ていたと思う私服になっていた。一瞬のことで今度は自分の目が点になった。


「良し、切り替えた!」


「えっと、大丈夫?」


「うん!! ごめんね、急に変な顔になってて」


「私は平気だけど、あのピエロさんが持っていったモノって灯ちゃんの大切なものなんじゃないの」


「そう、あれは私の大切な人達の魂が入っているの......」


「魂が入ってる?」


「綾ちゃんがさっきまで持っていた人形には人間の魂が入ってて、人体実験の結果、人形に魂が宿ったの」



「人体実験......? それに大切な人達って......」


「私ね、小学生の時誘拐されたの、クラスメイト30人と一緒にーー変な人達に誘拐させ変な建物で人体実験を受けさせられたの。事件のショックなのか当時のことは断片的なことしか覚えてなくてーークラスメイトが化け物になりそのまま人形になったこと、それが60体あること、自分も人体実験を受けたことこれくらいだったかな。クロ......さっき研究室にいた悪魔に助けられなかったら今頃、私も......」


「運良く生き延びた私はどこかにある60体を回収しないといけないのーー誰かに悪用されないように、それにみんなが可哀想だから......」


 沈痛な面持ちで過去を話した灯ちゃんを見て私はすすり泣きしていた。


 ボロボロ涙を流して、大泣きしていた。

 そして、不意に灯ちゃんを抱きしめていた。


「ごめんなさい、あの時、急に飛び出したりして」


「良いよ、いきなりあんな姿の人を見たら誰だって驚くよ」


「私には何も出来ないけど応援してるから」


「そんなことないよ」


「綾ちゃんは私に大きなものをくれた」


「友達をくれた。嬉しかった、ずっと出口の見えない暗闇を歩いている気分で。何のためにいるんだろうって。でも、今はすずちゃんや綾ちゃんのおかげで光が見えたの、生きて良いんだって。怪盗活動だけじゃなくて私生活も満足しないといけないって」



「だから、その......また私と友達になってくれますか」


「......はい!」




 あの後、駆けつけたクロのおかげで何とか家に帰り私達は泥のように眠ってしまった。


 5月22日

 昨日の雨が嘘かのように満天の青空。雲1つない空を見ながら歩くのは気持ちいだろう。

 しかし、今私達は笑顔の反対の状態を突き進んでいた。


 至る所に、文字文字文字、各教科の問題文の波に呑まれている最中だ。

 机は教科書やノート、参考書とクロが作成してくれたプリントがあちこちに散っており、ゴミ屋敷かのようになっていた。

 テスト開始まで今日を含めて後2日。最後の追い込みと称して、クロから愛のムチがきた。


 この2人に正体がバレているのに律儀にいつものメイド服スタイルで教えてくれた。


「さぁ、もうテストまで時間がありません。ガンガン教えます! 最悪、一夜漬け、二夜漬け当たり前のようにします。徹底的に漬け込みます」


 メイドの時と普段のクロの口調が入り混じり混乱していても問題文は私達に牙を剥けていた。


 夜ーーーー


 実験室でクロと戦闘していた。

 クロは、17世紀位のレトロ風のコートタイプのペストドクターに、膝までの長さがあるレザーのニーハイブーツ、私と同じクイーンズブラスターBLACKを左手に、右手には40㎝程の黒と赤が合わさった忍者刀【黒志】ブァークを持っている。


 片や私は腰まで伸びている真っ赤な髪、モデル体型のような細い体は烏の羽のような艶のある黒色のワンピース・ドレスに包まれている。ドレスの上に羽織っている深みのある華やかなワインレッドカラーのコート。左手にはクイーンズブラスターASK。右手には【裁紅の短剣】ピュニ・レガを持っている。

 そして、地面には今まで回収したソドールの能力が封じられているマガジンが散乱している。


 今回の戦闘訓練はマガジンが飛び散った時、どこに何があるのかすぐに把握しそれを使うもの。

 1度使用したら、その場に置く。


 素早く立ち上がった私はクロの方へクイーンズブラスターASKを向けようとする。しかしその方向にあるのはダイヤモンドの柱だ。私は少し躊躇ったが、柱の向こうにいるであろうクロに狙いを付けて引き金を引いた。クイーンズブラスターASKの弾はダイヤモンドの柱に直撃し亀裂が走りへこみができる。

 しかし、あまりの硬さで貫通しなかった。私は驚いたがすぐに次の行動を起こした。

 近くに置いてあった、No.48 【ボーン】を装填し、起動した。


 No.48 【ボーン】

 持っている武器の刀身に骨が纏わりつく。最初は敵や物に向かって攻撃してもボロボロ崩れていく。敵や物に多く当てることで徐々に硬度が増し、理論上、どんな物でも粉砕できる能力がある。

 しかし、前述の通り、敵や物に当て続けないといけなく、初期段階などでは必ずボロボロになるので破片が飛び散ってしまい死角をつくられることもある。


 クロへ【裁紅の短剣】ピュニ・レガ+『ボーン』を向けて、ダッシュした。一気に距離を詰めていき垂直に【裁紅の短剣】ピュニ・レガを伸ばした。

 クロはその場で天井近くまでジャンプしていた。さっきまでクロがいた位置に薄い透明な板が出現していた。No.33 【ホッパー】を起動したのだろう。


 空中で回転しながら、マガジンを変えて地上にいる私に向かってNo.14 【ライオン】のエネルギー弾を放った。クロの調整は完璧で、以前私が使ったような威力は出さず、弾を放っていた。


 瞬時にその場に置いてあったNo.52 【ダイヤモンド】を起動し、大きなダイヤモンドの柱を出現させ、【ライオン】の弾をやり過ごした。


 落ちてきた【ホッパー】を拾い装填し、起動。クロと同じ高さまでジャンプし【裁紅の短剣】ピュニ・レガを伸ばした。

 クロは天井を地面のように足を置き、足に力を溜めて勢いつけながらこちらに落ちてきた。

 お互いの得物、【裁紅の短剣】ピュニ・レガ【黒志】ブァークがぶつかり合い、擦れた金属音が実験室に鳴り響いた。



 お互い武器のぶつかり合いを辞め、勢いを殺しながら着地した。

 私は近くに置いてあったNo.47 【シャーク】を起動し、【裁紅の短剣】ピュニ・レガに鮫の牙を付与させた。


 走りながら、3本の牙を全部放出し、クロ目がけて飛んでいく。


 クロの方は、飛んできた牙を【黒志】ブァークで打ち落としていた。


 全部打ち終わったのを確認したクロは神妙な顔をした。私が色々なアクションのポーズで向かっていったのだ。

 No.25 【カメラ】で等身大の私を3人出現させデコイにしようとした。


 クロはその場から飛び退いた。次第にデコイの私はバランスを崩しあるモノはそのまま顔面から落ち、あるモノは前転していた。私は前転していた私の足が上に向いているのを確認し、それを踏み台にしてクロ目がけて加速した。


 そして、再び【裁紅の短剣】ピュニ・レガ【黒志】ブァークがぶつかり合った。


 私とクロの戦闘を安全な場所で見ていた3人。璃子さんとすずちゃん、そして綾ちゃんだった。


「すごい......」


「へぇ、あんな曲芸ができるなんて灯ちゃんスゴい!!」


「まぁ、あの子達はいつもあんな感じだから」


 あっちこっち動いて段々、目で捉えることができなくなってきた。


 そこから10分後、2人は戦闘を辞めてその場に倒れ込んでいた。


 それを確認した3人は実験室がある部屋に向かい2人の様子を見にいった。


「お疲れ様、2人とも......良い実践データが取れたわ」


「2人とも毎回、こんなことしてるの?」


「2人ともサーカスにでも入ったら、すぐに人気者になるよ」


 すずちゃんは呆れ、綾ちゃんは称賛?してくれた。



 そして......

 5月23日、私は警察とネコ型のソドールと対峙していた。




灯達が使えるソドール能力

No.14 ライオン 白黄色

No.25 カメラ 黄茶色

No.33 ホッパー 青ピンク色

No.35 スパイダー 赤紫色

No.47 シャーク 青水色

No.48 ボーン 茶橙色

No.52 ダイヤモンド 水白色

No.53 ミラー ピンク赤色

No.55 クレーン 煉瓦橙色

No.56 ラッキー 茶黄緑色

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る