31話 5月21日 Ⅱ

私、橋間(はしま)すずが天織灯(あまおりあかり)に案内されたのは何度も勉強会で使用した会議室だった。

 会議室といってもリビングも兼ねているらしい。壁一面本棚に設置されており、白を基調とした内装に、ナチュラルな木目調と透明なガラスが合わさって清楚さが印象になっている部屋を見渡していた。家具もダークブラウンで統一させており、シックで落ち着いた雰囲気のある。社長室を連想される上質な空間になっている。

 灯が部屋の右奥の本棚を弄っていると本棚が左右に移動し、隠し通路が出現した。


「凄い......」


 それしか言葉が見つかんなかった。


「こっちだよ」

 灯に誘われて奥に進んだ。

 少し、長い通路を抜けるとそこには研究室があった。そこは、会議室のように落ち着いた雰囲気のある部屋とは違い、サイエンス色が強めな開発ラボに何か作業をしている天織璃子さんがいた。


 入って目の前に、大学の研究室で使われているらしい黒色の机。

 左側には上部分が半透明で中が見えている縦長の冷蔵庫のような形の箱が設置されており、後ろには、その箱と直結しているスーパーコンピューターが置いてある。奥で背を向けながらパソコンで何か操作している天織璃子さん。

 そして、黒色の机にファッション雑誌を読んでいたのがメイドのヴィオラさんだった。先程までの銀髪のモデルのような長身のメイドではなく、黒髪でラフな格好をしていた。


 椅子を回転させ、こちらに顔を見せた天織璃子が言った。

「ごめんなさいね、疲れているところに来てもらって」


「いえ、それは問題なのですが......」


「橋間すずさん、あなたはもう知っているだろうけど、灯は怪盗で私達はそのサポートをしている」


「はい、よく知っています」

 そう、天織灯は女子高校で怪盗の2重生活を送っている。怪盗っていっても金品を盗むのではなく、巷で暴れているソドールの能力の回収が主な活動。特殊な注射器を使用して暴れているソドールの成分を採取している。抜かれたソドールは徐々に怪人の姿から元の人間の姿に戻る。そして、力を使った代償でソドールの力を身体に取り込む前の記憶しか覚えておらず、ソドールだった記憶がゴッソリ消えている。今まではそうだったらしい。今までは......


 1番、他人に知られてはいけない最重要施設の存在を教えて、ここに招待されたのは私がソドールとして灯と対峙した記憶を持っているからだ。正確に言えば、灯の中にいる人格の1つである、青奈と呼ばれている人格。最初会った時、背筋が凍るかと思った。見事に負け成分を向けれて人間に戻ったが使っていた時より晴れた気分になっていた。


「まどろっこしいことは言わないわ、ここに来てもらったのは貴方の事を調べさせてもらいため、協力してくれるかしら」


 私は軽く頷いた。

「喜んで協力します」



 結論から言うと何もわからなかった。ただ、健康な身体だけだった。


「はぁ〜 ただただ、健康な身体だったわね」

 璃子さんが落胆した顔で話した。


「璃子、貴方が組織にいたんならソドールの研究内容全部、覚えていないの?」


「10年分の研究データなんて全て覚えていないわ。それに、私はソドールを兵器に転用していたの......人類の進化には興味なかったわ」


 研究室にいた全員が腕組みをし、眉を八字によせて長い間考えこんでいた。


 その沈黙の中、研究室に保管されていたソドールの力が内包されているマガジンの中にある1つが光出し、すずちゃんの所に向かって飛んできた。


 すずちゃんが両手で包み込むように持ってからそのマガジンは光出すのをやめた。

 飛んできたのは、以前すずちゃんがソドールとして使用しており璃子さんが私達にでも使えるように浄化した【カメラ】だった。


「これって、灯が使っているやつだよね?」



「うん、そして、すずちゃんが使っていたソドールを浄化したものだよ」


「これが......なんか......」


「うん? どうしたの?」


「いや、なんか不思議とこれを持っていると安心するっていうかやっぱり運命的なものを感じるの......」


「運命か......いや、相性かしら?」

 璃子さんが何かぶつぶつ呟きながら、何かを思いついたのかパソコンに齧り付いていた。



「えぇ、どうしたの一体?」


「一つのことをやると決めたら、寝る時間も忘れるぐらい没頭する人なの、璃子さんは......」



 あれが静まるまで時間がかかるのでその場にいた3人は璃子さんを見ないようにした。


「ところでさ、貴方はもしかして......うちの学園の養護教諭の黒咲濡羽(くろさきぬれは)先生ですよね? なんでここに?」


「どうしてだと思う、橋間すずさん?」


「えぇ、嘘!? 貴方もですか!?!?」


 クロは立ち上がり私の後ろに移動しぶつかられた。

「ち、ちょっと、クロ!?」


 急に自分の背中にぴったりくっついてきて驚き、香水を普段から付けていないのにやたら魅惑的な香りに自分の鼓動が速くなってしまうのを無意識に自覚したが、クロの行動はいつものことなのですぐに冷静になった。


「黒咲濡羽(くろさきぬれは)改め、悪魔のクロよ!! そして、この子と契約を結んでいる......よろしくね!!」

 魔性の微笑みを浮かべていた。


「っ!」

 悪魔? えぇ? 冗談だよね? 契約?

 灯の方を見たが灯はすぐに頷いた。



「信じられないって顔ね。まぁ、仕方ないわ。これなら信じてくれるかしら」


 そう言って、クロは指を鳴らしすぐに銀髪のメイドのヴィオラになった。


 あまりに突然のことですずちゃんが椅子から転げ落ちていた。


「大丈夫? すずちゃん?」

 手を差し伸ばしすずちゃんを立たせようとした。


「ありがとう」



「まぁ、これは力のほんの一部......こんなこともできるよ」

 そう言ったクロは自分の背中から黒い羽を出現させた。


「実は、羽は出せるんだけど、理由があって飛べないの」


「てか、契約って何を願った......いや、そうか。私と戦ったあの人間離れした力が......」


「本当は色々、教えてあげたいけど、もう夜も遅いから部屋で休みな」




「あぁ!?」

 突然、クロが眼球が飛び出るくらいの衝撃を受けるかのような顔をしていた。


 研究室の入り口、すなわち隠し通路の出口に1人の女の子がいた。山吹色の明るめの髪、ふんわりと膨らんだ髪型。身長160cm位。普段から明るい性格をしているため男女両方から好かれている。

 その特徴を持ち、それに該当していた人物はこの家に1人だけだった。


「あ、綾ちゃん......」

 私は無意識に怯えた魚のように目と口をぱちぱちさせ、背筋に氷を当てられたかのように身震いしていた。




「ねぇ......何、ここは? 何それ......」


 隠していた研究室とクロの本当の姿に、綾ちゃんは恐怖で顔が歪んでるように見えた。




31話で灯達が使えるソドール能力。

No.14 ライオン 白黄色

No.25 カメラ 黄茶色

No.33 ホッパー 青ピンク色

No.35 スパイダー 赤紫色

No.37 マント 黄緑青色

No.47 シャーク 青水色

No.48 ボーン 茶橙色

No.52 ダイヤモンド 水白色

No.53 ミラー ピンク赤色

No.55 クレーン 煉瓦橙色

No.56 ラッキー 茶黄緑色

No.59 アイヴィー 緑黄緑色

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