23話 幸運の眼
貫通した、女怪盗の姿を見るべく、クレーンから伸びていたワイヤーフックを自分の方に戻した。
自分の肩には箱型構造ジブと呼ばれている装置が生えており、これを伸ばすことでさらにワイヤーフックを伸ばす射程距離が長くなる利点があるが、クレーン車はジブを支えるだけの重さを要しているがキリンの姿の自分ではクレーン車と違いジブを支えるだけの胴体がなくバランスを崩すことがある。そのため、資材を持ち上げたりした時に力が緩んで離してしまい地面に叩きつけてしまうことがここ数日あった。
ジブに取り付けてある巻上装置のドラムを使ってワイヤーフックを巻き取り作業を行った。
途中フックが揺れ、女怪盗の死体が落下した。動くこともなくただ重力に則って頭から自由落下した。ワイヤーロープの巻き上げが完了しフックが宙ぶらりんの状態になり死体の方に向かった。
うつ伏せになっていたので足で死体を仰向けに戻して顔を見た。
あいにく、マスクを着用していたため、全体顔は見ることができなかった。
しかし、すぐにおかしいことに気がついた。口からも身体からも血が一滴もついていなかった。
腹部にワイヤーが貫かれた様子をこの目で見たしそのまま動かなくなったのも確認した。
だが、全体を見ても何度確認しても傷跡や血がどこにもなかった。巨大な穴を除いて・・・・・
「あ〜あぁ、酷いことするね!」
「キリンさん!」
「なっ......!?」
そこから背中に痛みが発した。
上から下へ、右から左の連撃を繰り返しこちらにダメージを負わせた。
今度は自分が動かなくたってしまった。
(しっかし、この【カメラ】のデコイはすごいね!!)
建物にもろに激突したのは紛れもなく怪盗である私本人。
そこから【カメラ】を起動し、②【カメラ】は上へ③【カメラ】は壁を映し出し本当の壁と虚像の壁の間に隠れた。本当は残りの一台も使いたかったが①に記録されているのが林間学習に使った足音の音声だったため使用しなかった。切り替えたかったが、研究室で作業ができずそのままここにきてしまった。
②【カメラ】には【レッド】状態の私の姿が記録されている。要は自分の姿をしたマネキンのようなもの。これを上に配置し、あたかも上空からの奇襲をしますと相手に諭させるため。
当然、マネキンのため人間に通っている血は出ず、生傷や擦り傷なども発生しない。
ポーズは撮った姿で固定されるので注意深く見てばそれが囮の人形だと気づく。
しかし、夜で周りがよく見えない状態なので判別ができなかったと思う。
本物の私はキリン型のソドールが上に注意を向けている間に、死角に移動した。
そして、背後からの攻撃。
両肩はザ・重機のように硬いことは明白なため攻撃しても時間がかかるが胴体部分は生物の皮膚で、
以前のアルマシロ型、クワガタ型のソドールと違い硬い皮膚に覆われていない。
何故か最近、やたら硬いソドールと戦ってきて有効な攻撃が当たっていない若干、不遇の
首筋にぶさりと注射器を刺し成分を回収した。
力を失ったキリン型はそのまま人間の姿に戻った。
「あれ......ここは?」
気がついたのか男は当たりを見渡していた。
「怪我はないみたいね! 貴方、ここで何をやっていたの?」
「あぁ、いえ、それは......」
男はズボンのポケットから1枚の紙を取り出した。
聴けば妻が隠したモノを探しためにここに来たが、工事が始まって取り出せずにいた。
数日前に誰かから力を与えられ、焦りからこの工事現場を襲ったとのこと。
(なんとかしてあげたいけどこの状態だと......)
戦闘が行われたため現場は資材の残骸などが散乱していて余計散らかっていた。
「そうだ!! 試したいことがあるんだけど良い?」
『ラッキー』
その言葉と同時にマスクの目の部分が微かに光出した。
地面により光る場所を見つけそこに向かった。
No.56【ラッキー】
上に向かって銃を打つと1枚のコインが出てくる。
コイントスの要領で回転運動され、多くの回転を経て地面に落ちる。その結果で今日の運命が決まる。コインの表裏はシンプルにマルバツになっている。表のマルが成功、裏のバツだと失敗。
成功だと、装着しているマスクが微かに光る。失敗だと、マスクから見える視界が暗くなる。
一日一回限定で自分が欲しいモノの場所に導いてくれる。
成功だと自分の目的のモノが手に入る。失敗の場合、目的のモノは手に入るがその後、様々な理由で使えなくなる。壊れたり、誰かに奪われたりなどの不運が訪れる。
今回は、運よく表が出てくれたので迷いや警戒せずに親切設計で分かるように光り輝く場所に向かった。周りのモノをどかしつつ、地面を掘り出てきた1つの箱。
若干、土まみれになりながらも綺麗に保存されていた箱を男に渡した。
「今すぐ、奥さんのところに行きなさい!!」
男は涙を流しながら箱を受け取った。
「急がないと......」
「待って!! 良い考えがあるの!!」
そう言われ、映画などで良く負傷した人を肩に担ぎ上げて救助している場面のように運ばれた。
担ぎ方としてはうつ伏せにした僕を抱き上げて、僕の腋の下に首を差し入れた後、肩の上に担ぎ上げた。
自分で言うのも変だが結構、体格は良い方だ。それなのにこの怪盗は男の僕をものともせず担ぎ涼しい顔をしていた。
(最近の女の子はすごいな......。何より、この態勢がものすごく恥ずかしい......)
「しっかり、捕まっててくださいね!!」
左手に銃を持っている怪盗は建物の屋上付近に何か白いモノを飛ばし始めた。
そして、そのままの勢いで空中に浮いた。
建物と建物を白いモノを飛ばしながら行き来し上がったり下がったりで気分が悪くなったが、
それでも人間が空中を移動することができるのは中々、体験することができない。
そういった意味ではこれもありだなって思うけど、やっぱり気持ち悪い。吐きそう。
私は男の人を奥さんが入院している病院に届けることに成功した。
(きっと中身を2人で見ているところだろうかな〜〜)
屋上にある落下防止のために施工されているアルミ製手摺の上にバランスよく座り、両足をジタバタしながらそう思っていた。
次の日......。
風の噂であの男の人の奥さんは峠を越えて無事に退院できたらしい。
工事も多少の遅れはあったが今は再開し急ピッチで作業が行われているらしい。
何もかも幸運に向かっている......。
「何があったのか、説明して欲しいんだけど」
私は現在、「バーSIRIUS」の奥にあるテーブル席に座っている。
足を組み、両腕を前に組みながらこちらを凝視している凛田さんが
向かい側にいる状況で......。
私の通っている学園は隔週、第2週と第4週の土曜日は午前中だけ授業が行われる。
なので、本来ならお昼のこの時間までは学園にいるはずだか
2年生は林間学習が終わった次の日ということで免除になっている。当然、私も対象となる。
なので、今は私服になっている。
白茶色のブラウス。フロントに刺繍が装飾され、バックに編み上げが装飾されたブラウス。
葡萄色のスカート。バックルを装飾したハイウエストなスカート。
牛革びクロコダイル柄のメリージェーンシューズ。
優雅でエレガントな貴婦人のような格好になっている。
朝、クロと出かけるために準備していた所、零冶さんから連絡があって
凛田さんが待ってると......。
急いで、「バーSIRIUS」に向かい現在に至る......。
「急にいなくなるから心配したし、あれから連絡がなかったもんだから私がどれだけ心配したかわかる???」
「はい、すみません......」
知らず知らずのうちに私は下を向いていた。凛田さんの放つ威圧感・圧迫感に、そうせざるを得ない空気を感じ取って。
正直、頭が上がらなかった。
あれから、奇妙な現象は起こらず「バーSIRIUS」のスタッフも戻ってきた。
が、私が急に消えたから凛田さんが慌てて探していたらしい。ものすごく心配してくれてた。
「それは、その......」
口をもごもごしながら動かした。
自分の正体のこと、昨日の怪人は私が倒しました! って正直、言えない。
私の正体を知っている人は結構いるが、それは私と一緒にいたクラスメイトの親族だからで、協力者だけ。関係ない人に自分の正体を明かすのはリスクが高い。
凛田さんは小さくかぶりを振って、口惜しそうに呟いた。
「灯ちゃんが何を隠しているかはわからないけど......。せめて、連絡くらい入れてもよかったんだよ」
そのまま、立ち上げり私の方に座った。凛田さんと目が合いそのまま、抱きしめられた。
「心配したんだから」
耳元で囁かれてくすぐったい感じになったが凛田さんが心の底から心配しているのがわかった。
身体を離し、バー・カウンターに向かった凛田さん。
「灯ちゃん、罰として今日も働いてもらうよ!!!」
そして、私はまたここ「バーSIRIUS」で働くことになった。
自然な笑顔を見せながら......。
23話現在、灯が使えるソドール能力。
No.14 ライオン 白黄色
No.25 カメラ 黄茶色
No.33 ホッパー 青ピンク色
No.35 スパイダー 赤紫色
No.37 マント 黄緑青色
No.47 シャーク 青水色
No.48 ボーン 茶橙色
No.52 ダイヤモンド 水白色
No.53 ミラー ピンク赤色
No.56 ラッキー 茶黄緑色
No.59 アイヴィー 緑黄緑色
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No.55 ??? ???色
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