22話 キリンの身体はクレーン車に振り回される

(なぜ、見つからない......。絶対にここにあるはずだ......。早くしないと......)

 赤いキリンは焦っていた。









 5年前まで、そこは空き地だった。

 近所に子どもがよく遊んでいるのをよく目撃していた。

 無邪気に遊んでいるのを見て僕はにっこり笑っていた。


 ムギィーーー

 急に左頬に痛みが発した。

「痛ってぇーー。何するんだ、薫(かおる)!!」


「子どもをそんな目で見ないでくれる、怪しい人みたいだから、慎司(しんじ)」


 お互い、銀行に同期入社してすっかり意気投合して付き合ってから2年が立った。

 今日は仕事が休みで2人でデートしていた。


「いや、だってあんなに無邪気に遊んでいると......。なんかこう。わからないか??」


「いや、全くわからない、全部言ってくれないとわからないよ......」


「そうだ、父性だよ、父性!!」


「慎司は父親じゃないじゃん?」


「いや、いつかはその......」

 照れながら僕は後ろ髪をかいていた。


 僕が何かを言いたげなのを察したのか、前に数歩歩き後ろで手を組み、前屈みになりながら僕に話した。

「待ってるから!!」


 その言葉で僕の瞳孔が開いた。いつもより視界がくっきり見えるようになっていた。


「えぇ!? それって......」


「なんでもないよ!!」

 正面に向き歩き始めた薫を追うように早歩きになった。




 そして、5年後ーーーー。


「はいこれ!!」

 病院のベットで横になっている薫が僕に1枚の紙を渡した。

 薫は元々、身体が弱かった。そして、ここ数ヶ月で症状が悪化し病院に入院することになった。

 幸いにも薫の病気は治療法が見つかっているが、長期の闘病生活が待っていた。


「もし、私が死んだらここに向かって」


「縁起でもない事を言うなよ......」


「ごめんね、式を中止にしてしまって......」


「良いよ!! それくらい、薫の身体の方が大事だ」


 手を握って薫を安心させた。



 そこから、薫は懸命に病気と闘い、ようやく完治に成功した。

 定期的に通院することになるがそれでも完治したことを2人で喜んだ。


「そういえば、これ......」

 1枚の紙を薫に見せた。

「あぁ、それか......」


「何が書かれてあったの??」


「もう良いじゃない、そんなの」


「気になるから、見つけるから!!」


「まぁ、良いけど......。見つけても何も起こさないでよ。絶対だからね!!」


 興味本位に紙に書かれてあったメッセージを読み、考えうる場所に向かった。

 ’’いつかの場所で待ってるから’’

 その1文を頼りに探して......。


 ーーーーそして

 最後に向かった、場所。

 いつか忘れたけど、確かにそこを通った。

 あそこを通って、僕が見ていた景色が変わった場所。


 少し通らなかっただけですっかり街並みが変わっていた。

 朧げな記憶を頼りに目的の、あの空き地がある場所に向かった。


 到着した時はそこには工事中の立て札と中に道具を運んでいる光景が見えた。


 まぁ、ただの空き地より何かに作り替えれば効果的かと思いそのまま帰宅した。


 家に帰るとリビングで薫が倒れているのを発見した。

 全身の血が抜けたように真っ青をなりながら薫を抱き抱えていた。


 すぐに救急車を呼びなんとか一命は取り留めたが、まだ予断を許さない状況だ。


 僕はただ立っていることしかできなかった。

 何か薫の勇気になるものがあれば......。


 脳裏に浮かんだのは薫が何かを隠した場所。つまり、あの工事現場だった。

 しかし、もう工事が始まっている。僕の気持ちだけで工事を中止するわけにはいけない。


 待合室の椅子で頭を抱えながら沈んでいると、僕の前に黄色の服を着た男が現れた。


「何か??」


「君の願い叶えてやろうか?」


「えぇ?」


 男は懐から人形のようなものを取り出し私に渡した。

「それに願え!! お前の望みを叶えてくれる......」


 不気味な人形で返そうと顔を上げるとそこには誰もいなかった。


 何かに縋る思い出その人形に向かって会話した。

「もし、叶うなら薫の大事なものを手に入れたい!!」


 その言葉に反応したのか僕の身体を包み込み異形の怪物になっていた。

 最初、その姿に驚いたが、あの男の言う通りこの力は今の僕にとって最適なものだった。


 この姿で暴れれば、工事は中止されその隙に探せる。

 待っててくれ、薫......。



 ジャマするヤツは誰でアろうと容赦シなイ......。



「そこで何をしているのかしら、キリンさん?」


 隣の建物のから飛び降り、華麗に着地をしてみせた、赤色の服に身を包んでいる女が話した。


「誰だオマエハ」


「その力を貰いにきたただの怪盗です」


「ワルイがこれをクレテやるわけにはイカナイ。ボク......オレにはこのチカラが必要なんダァァァ!!!!」


 両肩に備わっているフックが私に目がけて迫ってきた。右に避け、後ろにジャンプしながら攻撃を回避した。

 ワイヤーフックがキリン型ソドールに戻るのに時間がかかっているのか、もしくは地面に刺さっているのかわからなかったが、次の攻撃は来なかった。


 地面を蹴り、キリン型のソドールとの距離を詰めた。

 しかし、首を野球のバットのようにスイングして私の横腹に直撃した。

 首をスイングしたことによる遠心力の影響で、勢い良く飛び建物の壁に直撃した。


 ぶっつけで首をスイングしたため、軽く目眩がしたがすぐに正常に戻り放ったフックが無事戻ってきたことを確認した後、吹っ飛んだ女の方に向かった。

 これ以上、自分の邪魔をしないためにここで息の根を止めるためだ。

 人に怪我をさせたくはないため、夜中に実行していたが、まさか、この力を狙っている奴が来るとは夢にも思わなかった。

 倒れているであろう場所に着いたが、女の姿はどこにもなかった。

 すぐに周囲を見渡したが、人っ子1人いなかった。


「ドコニ行った......。まさか」

 即座に頭上を見ると奴はいた。上からの空中奇襲を仕掛ける予定だったのだろう。

 だが、それと同時に逃げ場がない場所でもあった。

 勝機を確信したのか両肩のフックを奴に向かって放った。

 うまく動けなかったのか2つのフックが奴の腹を直撃し、貫通した。


 そのまま、女怪盗は力尽きたのかぐったりとした様子になっていた。

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