24話 5月28日 Ⅰ

 警察官は市民の平和を守ために日夜、犯罪と戦っている。中には命を失うこともある。


 俺、緋山燐兎ひやまれんとは警護という名目で木ッ菩魅烏高校の林間学習のスタッフとして同席したが、そこで未確認生物【ソドール】とは違う未知な者と交戦した。


 1人の女子生徒を救うために川に飛び込んだ。

 正直、あの対ソドール用の装備の防御力がなければ死んでいただろう。

 しかし、例え無事でも川に流せれていたら身動きが取れず溺死していた。


 まさか、助けたのが先日、取り逃した女怪盗だったとは夢にも思わず唖然とした。

 奴らはどういう訳かソドールを捕まえることに躍起になっている。


 どういう手段を用いているのかわからないが必ず我々、警察よりも早く現場に到着してはソドールと交戦している。

 1度出現したソドールは我々の前に2度と現れていない。正確に言えば、ソドール体が現れず、その力を使って悪さをしていた人が見つかる。ここ半年はこれの繰り返しだ。


 今回の林間学習でも女怪盗がいたということはもしかしたら、ソドールが出て女怪盗が始末しているのではないかと疑っている。現に、林間学習から帰っても俺が戦った、クワガタみたいなソドールからの被害は1件もなかったと報告を受けている。


 市民を守るはずの警察官が怪盗風情に遅れるなど許されない。

 ましてや、助けられるなどあってはいけないのだ。


 自分にもっと力があれば、そう思った俺はすぐに警察署内にあるトレーニング室に向かった。



 なんとなく走りたくなった緑川颯みどりかわ はやては警察署にあるトレーニング室に向かった。そこのランニングマシンを使って軽く汗を流すことにした。

 中に入るともうすでにいろんな人がトレーニングをしていた。

 肩、胸、足などを各部位ごとにトレーニングをしている人たちがいた。

 今はそんな気分になれずランニングマシンが置いてあるブースに向かった。

 向かっていると30、40あるかと思われるダンバルを使ってトレーニングしている男がいた。

 俺の同期で今は未確認生物【ソドール】の対策室実行部隊の隊長を勤めている緋山燐兎(ひやま れんと)だった。


 同期で長いこと一緒に活動していた俺が思うにあいつは今何か考えている様子だ。

 というのも、緋山がトレーニングするのはもう少し後でダンベルを使ったトレーニングも軽量ダンベルから徐々に重くしていくやり方をやっており、周りに聴いたが初めからあの重さで初めてかれこれ30分やっているとのこと。


 考え事している最中にトレーニングをしていると怪我する恐れがあるからやめろと何度も注意したが、あいつにはこれでいいと謎の考えがあるらしい。


 怪我してからじゃ遅いがこれまで1度も怪我していないので少し安心している。

 どうやら、あいつなりのリフレッシュなのだと勝手に思っている。


 さぁ、後から言うとごちゃごちゃ言うから今のうちに挨拶だけ済ますか......


 そうやって、俺は緋山の方に向かった。




 ......9.........10


 10回を何セットやったか途中から分からなかったが、だいぶ冷静になってきた。

 昔から緑川に何度も注意を受けたがこうでもしないと冷静に物事に望めず、大事な場面で命取りになる。


 ダンベルを元の場所に戻り長椅子に座り少し休憩をすることにした。

「ハア、ハア、ハア......ハア、ハア......ハア......ハア......」

 下方の一点を見つめたまま、俺の視線は動かなかった。


「しっかり、水分とれ!!」


 そう言われ、頭にタオルと椅子にペットボトルが置かれた。

 顔を上げると緑川が苦笑していた。


「お前、また何か考えていたな......」


「大きなお世話だ......」


「当ててやろうか、例の怪盗のことだろ」


 怪盗という言葉に反応したのか身体から湯気がでているのがわかった。

 寒い冬の日に息が白く見えるのは体温と外気温との差で起きる。あれは身体近くの空気は体温に近い温度に温められる。そこに水分が蒸発して全て水蒸気になる。外気温が露点温度以下になると水蒸気が凝固され水滴になる。これが湯気の正体とされている。


 そう、外が寒いとなるのであって今、緋山に起こっている現象は異常だった。

 それだけ、あの女怪盗にご執心なんだな......。

 内心、呆れていた。感情が沸き上がると、怒る感情が生まれる。怒りすぎると何か事件を起こしたり酷いことにもなる。まぁ、損をしたくない場合は、あまり怒らない方がいいと思う。


 湯気と一緒に怒りのオーラが見えていた。緋山の周りに無数の赤色の痛々しいトゲトゲで埋め尽くされたすっごい嫌な状態になっていた。


 ズボンのポケットが振動した。

 ポケットに入れていた携帯端末を取り出し画面を見た。

 表示された名前は見るや目の前の赤蛸に声をかけた。


「管理官が呼んでいるぞ!!」

 俺の言葉に反応した緋山はシャワー室に向かった。


 緋山が未だに使いものにならないので俺が説明する。

 ここは対ソドールとして設立させた警察機構日本支部だ。半年前にイギリスと日本の2つに支部があり一応、イギリスが本部となっている。

 イギリスにもソドールが複数体目撃されており、日本と同じように戦力部隊が設立されている。


「緋山くん、怪我はもういいのかしら??」


 鬼寵玲奈きちょうれいな??歳

 年齢を聞くのは禁句となっている。金青こんじょう色の髪はストレートで長く、右目が隠れている。小顔に少しばかり吊りあがった大きな瞳と、すっきりと通った鼻すじ。肌は透き通るほどに瑞々しい。身体はモデルのように細く腕と脚が長い。

 シンプルな黒のデザインの胸元が大きく裂けているセクシーカットソー。その上から身体のシルエットがくっきりわかる白いスーツに白のズボンのエレガントなつくりの服に身を包んでいる。


 外見だけ見れば、クールな見た目のバリバリのキャリアウーマンの女上司なのだが、本性を知っているのでアタックしたいとは思わない。それは俺に関わらず、緋山や賢人(けんと)も同意見だった。


「はい、ご迷惑をおかけしました」


「良いのよ、あなたが無事なら......治ったお祝いに今度どう??」


「いえ、結構です。」


 雷が管理官の頭を直撃したように感じて呆気にとられた顔を一瞬見えたが、すぐに何も起こらなかったかのように落ち着いている顔になり髪をかき上げていた。


「まぁ、いいわ......早速、本題に入るわ!!」


 対策室の中央にディスプレイが表示させた。

 そこには、空港からここ警察機構日本支部のルートが表示されていた。

「現在、イギリス支部から極秘に持ち込まれるある物が輸送される。あなた達、3人は空港からここまで警護として護送の任務についてもらう」


「ある物とは......??」



「今回、ここに送られるモノはイギリスで封印に成功した悪魔2体よ!!」


「あ、悪魔??」


「悪魔って悪しき超自然的な存在や悪を象徴する超越的な存在のやつですよね??」

 賢人が首を傾げながら頭にクエスチョンマークが浮かんでいた。


「確かにそうだけど、そんな漫画やアニメに出てくるようなキャラがこの現代にいる訳ないと思うのですが??」

 俺は管理官に呆れた表情で話した。


 少し間が空き、静寂が漂っていた。その中で最初に声を出したのが意外にも......


「いや、悪魔はいる」

 意外にも、緋山だった。俺と賢人は目を開き、驚嘆しており想像もしなかったモノに遭遇したことで、驚いて心を奪われる表情を浮かばせた。

 緋山はどちらかって言うと熱血生真面目な男性警察官。

 少々、融通が効かなく頑固な男で超自然的なモノに疎いはずだ。

 そんな緋山が悪魔はいると言ったのだ。驚くのも無理なかった。


「お前、頭に血が上ってて正常な判断が出来ていないんじゃないのか......」


 緋山は呆れ顔で俺の方を見た。

「颯(はやて)、俺は正常な判断をしているぞ。この前の木ッ菩魅烏高校の林間学習で黄色変態と戦った。そいつは、明らかに人間離れした戦いを俺に見せた。今でも信じられないがさっき賢人が言った通り、超自然的なやつはいると考えたほうが納得がいくんだ」



「まぁ、色々、言いたいことがあるだろうけど、警護はちゃんとやるようにね。出動!!!!」


 その掛け声と共に3人の警察官は空港に向かった。


緋山ひやま先輩!! 修理終わりましたよ!」


「サンキューな賢人けんと!」


「いえいえ、これ位容易いですよ。いつでもお気軽に頼ってください。ただ、吸収したエネルギーがリセットされているのでまたゼロから集める必要があります」


「わかった、ありがとう!」



 七上賢人しちじょうけんと

 中性的な顔立ちをしており、顔が小さく、男性らしいゴツゴツした雰囲気が少ない。

 肌の色も白く、なんとなく透明感がある。顔立ちとしては目がクリクリとぱっちり開いており、童顔で可愛い系の顔つきをしている。1年下の後輩。

 しかし、本人は警察官ではなく科学捜査の研究および鑑定を行う科学捜査研究所に所属している研究職員。

 半年前に俺や颯(はやて)と同時期に警察機構日本支部の部隊に配属になった。今は科学捜査を行う傍ら、メカニック担当になった。白衣を愛用しており俺達の装備の整備及び開発を専門にやってくれている。時には、本人も闘う。

 少々、人見知りなところがあるが、気を許した相手には優しく明るい人当たりが良い性格をしている。


 賢人けんとが修理したデバイスを受け取り、左腕に装着した。


 対ソドール吸収式制圧盾 【アヒェントランサー】

 円型の小型の盾。戦闘時の通信機器としての役割がある。基本状態でも小型の盾として運用することが可能であるが、装備している対象者の音声で認識し、起動する。小型の盾が左右に展開する。

 盾の真ん中に制御装置を嵌め込むことができる。


 制御用変身手帳【Pパス】

 対ソドール対策室専用の警察手帳。外側は白黒の身分証明書となっている。【アヒェントランサー】に嵌め込み特定の音声で折り畳まれた【Pパス】が展開され、内側が露出される。それぞれ、紅・緑・灰の色をしている。

 展開と同時に強化服が転送され、定着し着装が完了する。パワーと防御性に優れている。



「まずは、国際空港を目指す」



「そういえば、この前のネコ型のソドールどうするよ?」


 ここ1週間ばかし出没しているソドールで灰色の猫の姿をして人を襲っている。俺は思っていたより怪我がひどく約2週間ばかし療養していたため、颯と賢人だけで戦っていた。そして、今日5月28日にようやく仕事に復帰することができた。


「しかし、何も2週間絶対安静の対応をされるとは思わなかった」


「以前、路地裏で怪盗達と交戦した時、先輩、出力最大で戦っていましたよね......前にもお伝えしましたが、この装備を出力最大で運用すると変身者の身体が負荷に耐えられなくなり身体がバラバラになります」



「善処します......」



 賢人に注意されつつ、3人で目的の空港に向かった。








 一方その頃、灯達は......

 学生にとっては悪魔のような1週間をなんとか潜り抜け、学生は気分が高揚していたり落ち込んでいたり、妙にすっきりとした顔で帰宅する者もいた。


 2年4組、一番後ろの教室の端にある2つの机で1人はいつも通りの高得点を取れただろうと納得した顔とある意味、終わった顔は見えず頭を抱えている光景が見えた。


 私、橋間はしますずがその光景を廊下で見て、やっぱりとある種、100%想像していたのを見て苦笑いしていた。


「2人ともお疲れ様......」


「あぁ、すずちゃん!! 中間テストお疲れ様」


「灯は大丈夫そうだけど......」


「後は、神に祈るしかない。高得点は期待しません、どうか赤点だけは......」

 外を向いて天に祈りを捧げている修道院のシスターのようにお祈りをしていた綾こと、鈴木綾すずきあや


「大丈夫だよ! きっと回避できているよ。テスト勉強期間の1週間頑張ったじゃんね!!」


「そうだ、灯。今回の結果、どうよ?」


「う〜ん、張り出し組には入ると思うけど上位はどうかなって......てか、順位ですずちゃんに敵うわけないし」


「まぁ、来週の火曜日には結果がわかることだし諦めよう。帰りにどっか寄ろうか!!」


「あ!? それなら、いい場所知ってる」

 座っていた椅子を勢いよく後ろにずらし背筋をピンとして起き上がり、さっきまでひどい顔だったのに正気をとり戻りていた綾ちゃん。


 手際よく携帯端末を操作し、あるサイトを私たちに見せた。


「これは......」


「お〜お!?」


 早速、3人は空港近くのショッピングモールに向かった。





 ーーーーとある場所

 この場所はみんな誰かと待ち合わせするのによく利用している。

 真ん中の銅像が有名ということもあるがここから、何処かに行くのにアクセスしやすいのだ。


 少し太い大きな木が立っており、近くにはゴミ箱が設置されていた。

 女は木にもたれ掛かりながら時間を潰していた。

 ここ最近、順調に狩りができており大変ご満足。次のターゲットを品定めしていた。


「お久しぶりですね」

 後ろから話し掛けられたので反射的に振り向くと、そこには私にこの力をくれた男がいた。


「携帯端末を出して耳に当ててください」


 そう言われたので、私は耳に携帯端末を当てた。

「それで、いかかですか? 楽しんでおられますか?」


「えぇ!! あなたには、感謝しかないわ。聞いていた話とは違ったから少し戸惑ったけど......」


「あぁ〜、あの噂ですか......確かに願いが叶うと自我を失って人を襲うのは正解ですよ。ただ、人形の中に封じられている力と波長が合う人が使うと自我を失わずそのまま活動できます。ただ全員が合うわけではないので、こればかりは運の要素になりますかね。強制的に波長が合うようにでき、なおかつ力が増す方法はありますが今はまだ試験中なのでーーあなたにお渡しすることができません」


「まぁ、いいわ。私は今のこの力で満足しているし」


「それは、何よりです、ところで......実は、あなたの腕を見込んで1つ仕事を頼みたいことがあるのですが引き受けて頂けますか?」


「良いわよ!! あなたにはお世話になったし仕事の1つぐらいやれるわ」


「それでは、よろしくお願い致します......」


 しばし、相手の声が聞こえなくなり振り向くとあの男はいなかった。

 代わりにゴミ箱に1枚の封筒と分厚い封筒が入っていた。


 真新しいどこにでもありそうな白い封筒だった。


 急いでそれを回収し、その場を離れ人気がないところで開封した。

 分厚い方に中身はシンプルにお金だった。束からして100万円。


 もう1つの封筒の中には、仕事内容と1枚の写真だった。

 内容の方は実行日時やどこで襲撃するかの詳細なメモ。

 写真の方には回収してきてほしい物があった。

 そこには、アタッシュケースの中に2つの銀色のカプセルが入っていた。


 1つは緑色の人形、もう1つはオレンジ色の人形がそれぞれ冷凍保存されている状態の物だった。


「何かな、これ?? まぁ、いいか」


 ふひっ


 必ず成し遂げてあげるわ

 待っててね、お宝ちゃん!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る