16話 林間学校 1日目

現在、私達は爛れた都会から何もない山奥に飛ばされかれこれ1時間位山道を歩かされている。

 初めはみんな楽しい行事になるだろうと思い馳せており歩きながら歌を歌う生徒までいた。

 しかし、1人また1人と口が締まり、黙々と歩く行列ができていた......。


 その様子はさながら、修行僧の一団。


 生徒全員、ただ前の地面を見つ目つつ進んでいった。上の景色は変わり映えのしない木・木・木だらけだが下の地面は石ころが不規則に置いてあったり、石だけでも巨大な岩やヘンテコな形をした岩など様々な石が散乱している。

 さらに木の根っこが剥き出しになっていたりと漫画を1ページ1ページめくる度に違う風景が描かれているように今現在、生徒達の楽しみはその変わる地面だけだった。清涼剤と言っても過言ではある。


 さらに30分過ぎ、ようやく学校所有の施設が見えてきた。楕円形の立派な木造建築。大きさは東京ドーム1個分あるらしい。5階建構造になっており、1階が主にスタッフの仕事スペース。2階が男子用の宿泊施設。3階が大ホールと食堂。4階は女子用の宿泊施設となっている。5階は屋上となっておりテラスとしての役割も持っている。


 時刻は正午になり、昼食後簡単なサバイバル訓練をするらしい。それで今日は終わりとのこと。就寝の11時までは自由時間らしい。施設の周りに柵が設置されておりそれを超えることは禁止されたが中なら大丈夫とのこと。

 なので、施設にあるボールなどを使って遊ぶ相談をしている生徒がちらほら。



 お昼が過ぎ、生徒は二手に分かれた。

 片方は3階の大ホールでもし大地震や災害が発生した場合のシュミレーション映像、もし遭遇した場合どのように行動するのか、判断するのかをモニターで見る。

 そして、今私がいるのが野外での訓練。火を扱うため細心の注意が必要。私の場合、火以上に厄介な奴やと戦っているため注意はするが周りの生徒のようにそこまでびくつかない。注意といえば今、講師がホワイトボードで絵を描きながら私達生徒に教えている傍ら後ろの方にいる3人が私には気が気でなかった。

 この前、三守先生が言っていた、警察官が警護する話で実際来たのが3人。彼らと2泊3日過ごすことになる。別にそこは問題ではない。問題があるとすれば彼らの肩書きの方。



 出発前ーーーー。

 理事長の大文字巌(だいもんじ いわお)から出発前に生徒に説明した。

「今回、この林間学習に警察の方が同行されます。4月に起こった学校での騒動、工場跡地での火災事故で我が学園の生徒が軽症ではありましたが被害に遭い、それが今、巷を騒がせている怪物のせいであることから。生徒が狙われいることからその怪物に対抗する組織の方々が警護をされます。本当なら今回の林間学習は中止する考えもありましたが将来社会を担う皆さん生徒を成長させるために警察の警護という形で実行することにしました。もちろん、学園の警備も強化していく方針です。皆さんが帰ってくる頃には警備強化が終わるようにしておきます」


 未確認生物「ソドール」の対策室実行部隊所属

 ・緋山燐兎(ひやま れんと)

 ・緑川颯(みどりかわ はやて)

 ・七上賢人(しちじょう けんと)


 先日、クワガタ型のソドールと黄色の悪魔との交戦中に出現した謎の者達。それがこの3人らしい。(巌さん情報)

 この林間学習ではバレずにソドールの成分を回収しないといけない。

 そう思いながら、ポケットに入れていた写真を見た。

 あのクワガタ型のソドールの正体。名前は堂門伊吹(どうもんいぶき)

 すずちゃんのクラスメイト。すずちゃん曰く、やたら女子生徒の情報を多く持っており詳しい生徒らしい。高校という多感な年頃でも少々、行き過ぎた行動を取ることがしばしばとのこと。


 他の生徒は警察ということで少し不安になっていたが、隊長の緋山は190cmあり、筋肉モリモリのイケメン。緑川は死んだ目男子のようなイケメン。七上は中性的な顔立ちのイケメン。

 イケメンだらけで女子はソワソワし、男子は邪気を放っていた。






 もしも、災害などで物資が不足している時、必要になるのがサバイバル知識。

 課題であるのは”居住”、”水”、”食料”とされている。


 この3つももちろん大切だが電気が使えない状態の時、今までは暖房だったりと身体を温める手段はいくらでもある。

 電気がない時に暖を取るのに最適なのが火。太陽の場合、日が昇ると気温が上がり暖を取ることができる。しかし、日が沈めば冷え込みやがて死んでしまう。さらに、暗闇の中だと不安に襲われる。その為、心の拠り所が必要。闇を消すのはいつだって光。つまり、火である。

 と、色々、熱弁されたので時短で火がつく方法のレクチャーを受けている。


 火を起こす基本技でライターやマッチで焚き火をする方法を実践中。


 ライターやマッチで焚き火をしてもうまく火がつかないことがある。それは、薪に直接つけること。薪に直接火をつけると薪が燃えるだけで焚き火にするのは力が足りない。確実に火をつけるには焚き付けが必要でこれを使うことで炎が安定され焚き火としての役割が確立される。

 他にもライターやマッチがない時に使える技も実践した。



 ・レンズ発火法

 ・乾電池とアルミホイルで発火

 ・弓ぎり式発火法



 色々なやり方、毎日便利で快適な生活をしていると味わえない経験ができた。


 楽しいとはこういうことなのかな......。


 普段できないことへのワクワク感、冒険しているみたいで心地良い。それにこの自然。なぜか森林で深呼吸する度に心が洗われる感じでリフレッシュされる。


 不意に風が後ろから吹き、髪が耳の辺りで揺れた。焚き付けとして集めていた枯れ葉や風の影響で運ばれた葉っぱが宙に浮いているのを見ながら髪をかきあげた。

 私が髪をかきあげた仕草を見ていた周りの生徒は神秘的な絵を見ているように見惚れている者、法悦の笑みを浮かべる者もいた。


 楽しい時間というものはすぐに終わる。


 そして次のプログラムで私は窮地に立たされていた。


 夕食はそのまま広場でカレー作り。材料はあらかじめ学園が用意しているため生徒がやるのは料理工程だけ。


 10年も実験で隔離され最低限の知識しか与えられず、脱出してから怪盗に高校に入るための学習をしてきたため、家庭的なことを何1つやってきていない......。


 家事全般は基本、クロがやっていた。でも、蔑ろにしていたわけではない。クロに何回か教わり洗濯や掃除はできるが料理が絶望的だった。なぜか、私がやると見た目が良いのに味がおかしくなる。料理本に記載されている分量でやっても変わらなかった。身内はやたら胃袋が強いのか今まで大事に至らなかった。


 問題は今、生徒で共同作っているカレーだ。触らず裏方に回るのもありだったがクラスメイトからの要望でカレー担当にさせられました。なんでも、私が作れば天使の料理きっと最高だってクラスメイトが盛り上がっている。

 こんな空気では作れませんとは言えず非常に困っている......。



 黄華:灯、交代!!


 青奈:あなたーー料理ができたの????


 黄華:バカにしてるの?? 貴方よりは多少、心得があるよ


 青奈:ふふぅ〜 てっ、冗談よ。でもねーー訂正して。私しはできるわよ!!


 黄華:いやぁ〜 君の場合、極端に薄かったり濃かったりの料理じゃん。2人は見ててよ 僕がちゃんとやるから!!


 灯:でも、黄(こう)ちゃんーーいつ、料理身に付けんだろう??



 青奈:(灯ちゃん......。やっぱり、知らないんだね)



「さぁ、ぼ、いや私が美味しいカレーを作るよ!!」




 男子はお腹が今にもはち切れるぐらいにカレーを食べたおかげと朝から長時間山道を歩いかされ疲れ果てたおかげで部屋でうめき声を発しながらベットで横になっているらしい。

 女子は女子で大浴場でお風呂タイム。



 お風呂に入る前に一仕事......。

「天織さん、どこ行くの??」

 クラスメイトの子に呼び止められた。


「先に行っててください。ちょっと、お手洗いに......」

 真っ直ぐ、非常階段がある方に走りながら向かった。



「トイレなら反対側なのに??」





 天使からの献上品を完食し明日のウィークラリーについての確認をクラスメイトと話し合った後、自分の部屋に戻り、お腹を抱えながら布団でうずくまること30分後......。


(頃合いかーーーーーーーーーーーー)


 まだ、全部は消化できていないため激しい運動はできないが見るだけならそこまで問題ないか

 そう思いながら、その場で立ち上がり、自分の部屋を静かに開けた。

 左右確認し、誰もいないことを確認。

 OK〜!!、OK〜!!


 部屋を出て、あらかじめこじ開けておいた非常階段の扉を開けた。運の良いことにこの非常階段に監視カメラが1台も存在しなかった。

 入ってすぐにソドールになり念の為、透明になった。

 透明と言っても完全に透明になっているわけではない。


 正確には外の景色を短時間とはいえ同化しているだけ。その謎はこのマント。普段は虹色に彩られているが能力を使用するときはマント以外にマント着用している者にも色が付き、外の景色に合わせて身体の色が変わり、外敵の目から逃れたり、奇襲をかけたりできる代物。


 しかし、当然デメリットもある。同化できるのは10秒程度。それ以上は増えない。

 一度能力を使用すると次を使用するのに2分間、使えない。


 音を立てずに階段を上がっていた。

 この時間帯は女子のお風呂タイム。最初の1・2組は逃したが本命の4組には間に合いそうだ。


 くくくくく!!

 覗くしかない!! 

 覗くしかぁない!!

 ノゾクシカナイ!!


 自然に溢れる笑み。湧き上がる衝動に駆られながらオレは徐々に階段を上がる速度が上がってきた。

 3階にたどり着くと上からヒールの音がした。


 一瞬、驚いたがすぐに冷静になり3階の扉を開け、やり過ごすことにした。


(なんで、ここに人が......。女子の大浴場に入るのに扉を壊したのが裏目に出たか)


 警戒するために見回りの先生が入ってきたか。


 次第にヒールの音がなくなりことなきを終えた。


 また、外に出ようとしたとき目の前のそこそこ大きな鏡に目が入った。


 これから神聖な行為が行われるので身嗜みを整えないと・・・


 顔を近づけチェックした。まぁ、顔や見た目はまんまクワガタだからチェックする必要がないが雰囲気というものは大事だ。


 すると、後ろに腕組みをしながらこちらを見ている赤色の衣装に身を包んでいる女が1人がそこにいた。


 すぐに後ろを見たが、誰もいなかった。


 身体中に湧き上がる冷や汗をかきながら、ゆっくり元の正位置に戻ると目の前に女が現れ、非常階段の方にくの字のように吹っ飛ばされた。


 顔を下向きに落下すると、下にいた黒色の衣装を着た、この前、悪魔の兄さんと戦っていたやつ、そしてやつの周りから何かが伸びオレの身体に巻きつき宙吊りになり身動きが取れずにいた。


 蔦でぐるぐる巻きになり宙づるにされているクワガタ型を見下ろしていた。


「まさか、こんなにうまく行くなんて......」


 哀れな目で私こと【レッド】が呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る