3話 誰かのNAGITMARE
そこは、白い空間だった......
無機質で何もなく、窓は一切なく外の景色を最後に見たことも忘れかかっている。簡易的なベットの上で私は三角座りをして外を見ている。外といっても満開の青空や夜景が見える窓ガラスではない。私の目の前だけガラス張りになっていて私が入っている個室の中が丸見えになっている。
初めは31人全員入るくらいの大きな部屋にいたがいつかは忘れたが1人用の個室に押し込まれた。
ここにきて、もう何年経つのだろうか。
私達がクラスごとこの施設に連れてこさせられ実験対象として様々な実験に付き合わされた。こいつらが作った薬を投与され私以外のクラスメイトが化け物になっていった。虎や鳥、魚などの動物に変貌したり、身体中に植物が咲き誇る姿に変身している者がいた。
そして、31人いたクラスメイトもあと私だけになった。
孤独・心細い・取り残された気持ち・焦り・寂しさ、そんな何年も前に消えたさまざま感情が一気に溢れてきた。
「いやだ......いやだ......いやだ......ここから出して」
透明のガラスに向かって私は強く叩き、私は大声で泣き喚いた。
「いや、死にたくない......死にたくない」
そのまま私は、脱力し、そのまま壁を背にもたれかかるように座っていた。
もうこの実験棟には私達しかいない。
そこで、私の意識は途切れた。
灯は悪夢を見た後のように、尋常じゃない汗が出ていて目が覚めた。
上半身を起こす。呼吸は荒く、動悸も早いことが分かった。
昨日——いや、今日の0時位に戦闘したのが間違えだったのかもしれない。
あんな時間まで戦闘した後だから、興奮しちゃって、余計なエネルギーを使ったから、うまく寝れなかったのかもしれない。
また、あの日々が夢にでてきた。こんなことがないように日頃から気を付けていたのに失敗したな。
でも、久しぶりに見たのか、自分の使命を思い出した。
”
そう、決意し、灯はベットから起きて、制服に着替えるためにパジャマを脱ごうとする。
汗で服が体にくっついっちゃって気持ち悪いので着替えるのもあるが、今日から新学期。
高校2年生になることができた。一応、私の身元引受人になってくれた天織璃子(あまおりりこ)。
私は璃子さんと呼んでいる。
彼女から「折角だし、普通の学校生活でも楽しみなさい」と言われた。
私にはそんなことよりソドール人形を回収することが最優先事項であるが、また私が壊れないようにしてくれているのだと思い、渋々、半年前から高校に通い始めた。
通い始めるまでの半年間、璃子さんや悪魔のクロ、協力者達にいろんなこと叩き込まれ、何とか編入試験もパス、その後の学園生活も自分的にはちゃんとやれていると思う。そして、なんとか進級できるようになった。
制服に着替えるために自分の部屋にある全身が見える鏡の前に立つ。自分でいうのも変だが私は自分の眼——赤く鮮やかな目が好きではない。いつも誰かが私のことを監視しているような感じがするからだ。
パジャマを脱ぎ始めた時、背後に人の気配があり、慌てて振り向くと、そこにメイド服を着て、いたずらっぽい顔をした女が腕組みしながら部屋の扉を背にもたれかっていた。
「惜しかったな。もう少しで、ピチピチな女子高生の裸が見れると思ったのに。残念!!」
「おやじくさいよ。クロ」
「おはよう、
「私が覚えやすい名前が良いの、それともダメだった?」
「いや、ただ安直だなって思ってね。過去の依頼者達は中々な名前を与えてくれたけどね」
クロは携帯端末を取り出し、慣れた手付きで操作していた。
「しっかし、便利な世の中になったわね。最後に人間界に来たのなんて、100年位前だもん。でも、いくら高速で情報が手に入っても、あいつらの情報がまるでないのはどうかと思うけどね」
彼女のいうあいつらとはクロを同じ悪魔のことだ。
クロ達悪魔は、一番に魔王がいて、その下に黒色・赤色・青色・黄色・緑色・灰色・橙色・茶色の幹部悪魔がいて、さらに下が続いていて、企業のピラミッド型組織のような構図になっているらしい。
黒色を関する悪魔であるクロは残りの幹部悪魔7体のまとめ役のような感じだったらしい。でも、ある日、その7体が姿を消した。クロは王の命令で彼らを連れ戻すために現世に舞い降りた。悪魔が住まう世界と私達が暮らしている現世では、時間の流れが違うらしく、悪魔界での1日は、こっちでは、10年経っているらしい。少なくとも、悪魔たちは現世で10数年いることになる。現世に来たものの7体の行方はわかずじまいだったが、悪魔の仕事の内の1つである悪魔を召喚し、願いを叶え、その報酬に対価を貰う悪魔召喚でクロはとあるお金持ちのおじいさんの所にジャンプしていた。
通常なら、この仕事は下級悪魔の仕事があったが、ごく稀に強い思いが籠った願いが上の悪魔に届くことがあるらしい。
孫が10年位、行方不明らしく最後の願いと称して半信半疑で召喚をしたらしい。
その依頼の中、私と出会い、あの研究に悪魔が関わっていることを知り、行動を共にすることになり、今に至る。
「まぁ、今に始まったことじゃないけどね......それより、大丈夫なの?? 凄く、うなされていたけど......」
一瞬、ビクッとしたけど、冷静に「大丈夫だよ」と答えた。
そう、答えた束の間、クロを勢い良く歩いてくる。こちらへ来て、私を抱きしめ始めた。
「ちょ、ちょっと、何するの??」
「あなたはもう1人じゃないのよ。安心しなさい」
そう言うと私を解放する。
「さっさと着替えて来なさい、朝ごはん出来てるからね」
クロは私の部屋から出て行った。
私は部屋を出て、2階にある璃子さんのオフィスに入った。
「おぉー!! よく似合っているじゃん、姫!」
「おはようございます、零冶さん。こんな、朝早く来るなんて珍しいですね?」
探偵と言っても行く先々で事件に出くわし、多くの難事件を解くような死神探偵ではなく、猫探しや浮気調査などを行うある一部の依頼を除けば、一般的な探偵だ。そして、この人は、極端に朝に弱い。なので、こんな朝に来ること自体おかしく、何かを疑うのは自然だ。
「まずは、今日の夜のお仕事お疲れ様。大変だったんだって?」
そうだよ! 零冶さんにあったら一言、言おうとしていたんだ!
「ホントですよ! なんで、あんなにトカゲ型が動けるんですか?? まだ、ソドールになってからそんなに経っていなかったのに——知っていたら、あんなに吹っ飛ばされる羽目にならずに済んだのに」
方向感覚がなくなるってあんな感じだなんて......もう2度と経験したくないリストでNo.2になった。
因みに現時点での不動の1位はクロからの賭けに負けること。ソドールの戦闘意外にもクロはあらゆることで私と勝負をしている。ここ数日は私が連勝しているが、負けるとクロはここぞとばかりに罰ゲームのレベルと上げてきて私に襲い掛かる。
「それは、ごめん!! まぁ、終わり良ければ総て良しってことでね」
「それでちゃんと、ソドールの成分は回収したんだろ?」
「えぇ、でも......」
「分かってるよ。敦、俺の息子のじゃなかったんだろね......」
「はい......ごめんなさい」
灯が今回、回収したソドールで5体目
ソドールは全部で60体存在している。
人間を更なる進化のために暗躍している組織アイズ。
元々のソドールは人間の身体に動植物の遺伝子を注入し、様々な能力を得ることができる人間をつくるのを想定されていた。
1つ目の遺伝子は成功し、人間体のまま様々な動植物の能力を使うことに可能になっていた。
しかし、組織は欲をかき、2つ目の遺伝子をクラスメイト30人に注入。
その結果、クラスメイトが人体実験の影響で化け物に成り果てた。
更に、幼かったのか身体がついてこなくなり、細胞が2つに分裂した。
それぞれ、2つの人形が誕生した。
「気にするなって......全て回収できれば俺を含めて姫に協力している者達は満足なんだから」
「......ありがとうございます。それで今日はどうしたんですか?」
「実は、これを渡すの様に頼まれたんだ、
そう言って、渡されたのA4サイズの茶封筒だった。
私とクロの怪盗行為を手助けしてくれる協力者は一部を除き、私のクラスメイトの親や親族だ。半年前、実験棟から逃げた私は、クロの案内で古い屋敷に連れていかれ、一端、そこで身を隠すことにした。ヤクザの大頭が住んでいそうな日本屋敷の家だった。
紹介されたのは、ヤクザとはほど遠い、高校の理事長を務めている大文字巌(だいもんじいわお)さんだった。
彼から話と聞くと、ここ数年はありとあらゆる方法で私たちを捜索しており、裏の人間を使って探していたそうだ。しかし、誰一人として帰ってきたものいなかったそうだ。諦めかけていた時、趣味で古今東西の文献を収集していた巌は1冊の本を手に取った。
〈悪魔召喚の本〉
エジプトの古美術商から譲りうけたいわくつきの本。
いかにも、胡散臭い本だったが、藁にも縋る思いで悪魔召喚を行った所、クロが召喚され、契約したそうだ。契約内容は、あの日、いなくなった孫含め31人の子ども達を見つけることだった。対価は彼が払えるモノなら何でもだったらしい。
結果、私は脱出し、巌さんにこの10年で何があったのか全て話した。
そして、私は、クロと契約しクラスメイト30人で作られた人形を回収することも話した。
その、熱意に打たれ巌さんは私たちの協力者になってくれた。そして、巌さん同じように子どもを亡くした人たちを集め、協力してくれることになった。
そこで、出会ったのが、零冶さんのような探偵や新聞社の記者などの情報収集のプロだった。
まず、彼らからソドールに関する情報を集めてもらい、変身者、つまり、あの都市伝説で人形を得た人は突き止め、それを、私達に報告し、回収実行するのが私達の怪盗手順だ。
巌さんは、協力者のまとめ役のようなことをし、零冶さんは、主に夜の情報を集めている。このように、協力者にはそれぞれ、担当分野・時間がある。
零冶さんは夜担当、先ほど名前がでた近藤さんこと、
オカルト系出版社【ゴースゥート】の記者
一部のマニアの間では神と崇められている凄腕記者で日夜、全国のオカルト情報を探す勇猛果敢な男。一応、彼も夜情報の担当なんだけど、情報は鮮度が一番を掲げており、どこでも短時間で寝れるという体質のおかげで、昼夜活動できるため朝・昼担当も熟している。
よく、そんな生活ができるな。私には、絶対に無理なことだけど。
「あいつ、締め切り間近でヤバいらしく、それを、俺に渡してきたんだ」
私は、封筒の中身を見ようと用紙を出すと同時に零冶さんが「実は、伝言も預かっている」
見出しには《木ッ菩魅烏高校の7つ目の処刑人》と書かれてあった。
「今回のターゲットは姫の通っている学園の生徒だ」
新学期1日目でこんなことになるなんて。
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