4話 勇気が欲しい天使様・・・・

木ッ菩魅烏きぼみいうら学園高校 7つ目の処刑人? なにこれ?? 近藤さん。また、変な題名つけたんですか?」


「まぁ、その題名はあいつの趣味というか生き様みたいなものだから、気にするな!! 詳しくは資料に書いてあるらしいから俺も詳しく知らない。」


 早速、読もうとしたが、そこでクロが「ねぇ、時間大丈夫?」


「えぇ?」


 灯は、妙に凝っているアンティークの大時計を見ると、8時丁度。


「ヤバい、遅れる!!?!!?!」


 いつもは、9時30分スタートだが、新学期の始業式ということで初日は9時スタート。

 この時間は朝の通勤ラッシュのため、電車が込みやすい。私は、いつも早く出て、学園の中にあるカフェで時間と潰している。学園に通い始めて1ヶ月で満員電車の洗礼を味わい自分には無理と感じ、クロに起こされている。

 私は、テーブルあった食パンを1枚取り、封筒を鞄に閉まってから急いで部屋をでた。


「あぁ、待って灯」

 璃子さんに呼び止められ、振り向くと横長のケースを渡せれた。

「眼鏡ケース?」


「この前の試作品が完成したの、今日1日、それを付けて過ごして! 後で、感想聞かせてね!」


「行ってきます!!」


 灯が出て行ってから、数分後。

「では、お2人とも私も行ってまいります」

 いつの間にか、メイド服から医療用のような服装になっていた。

 レディース白衣を完璧に着こなし、生地にはシルクのような美しい光沢があり、上品さ・大人っぽさ・洗礼された印象を与えていた。また、機能性を重視している作りになっており、ポケットの多さや充実した機能を備えていた。

「表にも裏にもポケットが多いからいろんなものを入れても怪しまれないし、教師でも良かったけど、養護教諭なら生徒の悩みも解決できるだろうし、あいつらのことやソドールの情報が来るかもしれない。まぁ、一番は灯を守ることだけど」


 クロは学園に向かう。


 一方、その頃、灯は再び満員電車の熱い洗礼を受けていた。


 木ッ菩魅烏駅は地下に設置されており、基本ここに通っている学生位しか降りない。

 降りるとすぐに改札口が存在し、そこを通過すると野球場位の広さはある広場にでる。いつもなら、学生棟がある北側に向かうが、今回は大聖堂がある東側の道に進まなくちゃいけない。

 木ッ菩魅烏大学付属高校 生徒数1500人を超えており1学年500名ほど在籍しており、15クラスある。

 長いエスカレーターに乗り、出口を待っている間、璃子さんに持たされた眼鏡ケースを開けると、そこにはサングラスだった。シルバーフレーム ライトブラウンカラー

 リムと蝶番の間に存在している智に小型カメラが搭載されていた。テンプルの先っちょ、蝶番よりの部分にパソコンなどを起動させるためのボタン、「電源」が左右についていた。

 そういえば、ケースの中に紙切れが入っていた。


 〈最初は左右の”電源”を同時に押しなさい〉


 指示通り、左右の”電源”を同時に押すと、レンズ部分が薄い青色のディスプレイの変わり、そこに、璃子さんが映っていた。

「これが見えるとゆうことは、ひとまず成功だということね。一応、言っておくけど、この声はあなた以外聴こえないようになってる。サングラスのモダン寄りのテンプル部分に骨伝導が可能な振動ユニットを搭載されている。モダンを改造してイヤホンが出るような仕組みにしようとか色々考えたんだけど、そのサングラスに取り付けた機能はどれもあなたの怪盗活動に必要なものがあるし、イヤホンをずっと付けていると、外部の音が聞こえにくく敵に後れを取る可能性も考慮してとこのシステムにしたわ。初めに右を1回軽く叩いてみて。これは安心して作動させていいわよ」

 言われた通り、右を1回軽く叩いてみた。

 右ディスプレイに心拍・呼吸・血圧・体温の4つの項目が表示されていた。

「それは、今のあなたのバイタル情報よ。あなたの場合、強いストレスや自律神経の乱れには気を付けないといけないからね」


 そう、私はあの実験棟でそれに目覚めてしまった。別に悪いとは思わないし、むしろ、違う自分を知れて嬉しかった。本来の症状とは多分違う。



「本当は、右の”電源”を2回軽く叩いて欲しいけど今、灯がどこにいるか分からないから、人気のない所で、後で使ってね。右を2回軽く叩くとすると認識阻害が発生し、あなたの姿が周りから見えにくい状態になる。これを使えば、ソドールが現れても物陰で変身したり人目を避ける心配もなく、変身後、サングラスの効果が切れるようになっているから何もない所から急にあなたが現れ、奇襲を食らわせることができるようになるわ。だから、これからは、バイタルを見て大丈夫そうなら認識阻害を起動させてから変身してね。次は左側なんだけど......」

 左側の機能を聞く前にエレベーターの出口、大聖堂の前に到着していた。

 まぁ、後で聴けばいいか。

 サングラスを外し、制服の内ポケット、左胸あたりに位置するポケットにサングラスを収納した。


入口の前にクラス表が張り出されていたので確認し、自分が2年4組とわかるとすぐに大聖堂の中に入った。

 組ごとに分けられていたので指定されている自分の席に座った。私は、一番後ろになっている。理由は、いくつかあるが巌さん曰く、病弱設定にしておけば急に出て行っても(怪盗行為)怪しまれないし、辛くなったらクロがいる保健室に行けるためらしい


(あぁ! 天織さんだ!)

(一緒のクラスになった奴ら、羨ましい)

(今日も綺麗だな!)

(すっごい美人)

(おしとやかって感じだよね)

(彼女に欲しい)

(やめとけ、振られた人数100人超えたらしいぞ)


 ヒソヒソ声があちこち聞こえてくる。

 今日も朝から視線が痛い。

 あくまで学園に通っているのは璃子さん達の命令だし、あんな高校生の青春を送る必要がない。恋も友情も何もいらない。今はとにかく時間が欲しい。

 そんなことを思いつつ、始業式が始まった。


 理事長の巌さんの話が長いこと以外は特に何もなくつつがなく始業式は終わった。


 そして、編入時にも体験したがーー


「天織さん連絡先教えて」

「どんな男性が好きですか。ちなみに、自分なんてどうですか」

「こいつみたいなより俺はどうですか」

「お姉様って、呼んでもいいですか」


 最後の人、一応同学年なんだけど......

 私は、ニッコリとスマイル笑顔で丁重にお断りした。


 ガラッ!!


 ドアが開き、カツカツとヒールの音を響かせながら教卓に向かうのはスーツ姿が良く似合う若い女性だった。

「皆さん、席に着いてください。新学期初のHRを始めます」

 肩くらいまである黒い髪、知的で鋭い眼、あまり化粧っ気がない、ナチュラルメイク。

 すらりとした体躯に少し残念な胸を覆う、紺色の上着に、ミニスカート姿。


「まずは、皆さん、2年生への進級おめでとうございます。今日からあなた達、2年4組の担任になった三守真実みかみまみよ。受け持ちは国語、まだ3年目だけど1年間よろしくね。早速だけど、クラスの自己紹介しれもらおうかしら」

 1番の人からどんどん自己紹介が行われていた。中には、部活の目標だったり、夢や将来のことを言ってる人もいた。


「次ーー天織さん!」

「......天織灯あまおりあかりです。  えー......………………よ、よろしくお願いします」

 何も考えていなかったので、頭が真っ白になり、紅葉のように頬を赤らめて、ささっと席についた。

 こんな、口がどもるような感じになってめっちゃ、恥ずかしい。

 そりゃ、あまり人と接する機会がなかったし、あっても、身内ぐらいしか気軽に話せないし

 などなど、色々頭で高速で思考を巡らせていると。


(やべぇーー!! ガチ恋なんだけど)

(今日は最良の日だ!!)

(明日、死ぬかもしれない)

(尊い!!!)



 ガッツポーズしたり、机に突っ伏したり、涙を流す人までいた。

 私が声を発する度にこれだ。

 多少、慣れたけど、やっぱり恥ずかしい。

 そんな、クラスの様子をそっと、視線から外し、席が窓際の一番後ろだったので空を見つめた。







(普通にしゃべれる人間になろう)

 密かに、心の中で思った、今日この日。



「それでは、明日から通常通り、授業は開始されます」


 今日は始業式だけだったので、午前中に学校が終わった。


 とりあえず、クロの所に行って、今朝、貰った資料を一緒に見ようかな。

 このサングラスもまだ試していないし、早く家に帰って、昨日回収したソドールがロールアウトできているだろうから性能チェックしないといけないし、組み合わせも考えないと。

 やることが多すぎる......人生ってままならないな......

 そんなことを考えていると

天織あまおりさん。少し先生と一緒に国語準備室に来てくれるかしら」


 三守みかみ先生に呼ばれて、先生がいる教卓に視線を向けると鋭い眼がこちらを見ていた。

「大事な話があります」


「わかりました」


「それじゃあ、遅れずに来てください」

 それだけを言い残すと、三守先生は教室から出て行った。



 学生棟より北にあり、3階にある学生棟と教育棟を行ききする連絡橋を進み、2階奥にある国語準備室に着いた。


「失礼します」

 礼儀正しく、教わったマナー通りにノックを3回。

 向こうから「どうぞ、お入りください」という声が聞こえたので、私はゆっくりとドアを開けて、中に進んだ。中は、国語に必要な資料や本で一杯の部屋。特に面白みがない部屋だった。

 中央に机が4つ、向かい合う様に置かれており、奥に三守先生が座っていた。

「準備室って、初めて来ましたけど、なんかものすごい閑散としてますね。もっと資料や本が山ずみになっていて足の踏み場がないくらい散らかっていると思っていました」


「まぁ、国語の準備室はここ以外にもあるし、そこは割と散らかっているわ。私は、こう見えてキレイ好きだから、掃除は徹底してから。さぁ、本題に入りましょう。天織さん いえ......」


 先程の鋭い眼が段々、柔らかくなり、私に向かってハグをしてきた。

「灯ちゃ~~~~ん」


「ちょっと、先生。苦しいです」


「だって、灯ちゃんいつみても可愛いんだもん。日々のストレスも可愛いものを抱くと癒されるし、幸福度も上がるから次の仕事も死ぬ気で働けるわ」

 段々、三守先生が早口になり、途中から熱く語ってる。

「それに、妹がいるってやっぱりいいね」


 少し低いトーンで話をして、私はビクっとした。

「ごめんなさい、まだ......」


「もう! 何度も言ってるけど、そんなこと気にしなくてもいいわよ」


「あなたが生きているそれだけで、私は幸せなんだから。勿論、仕事の方も大事だけど、折角、高校生になったんだから青春を謳歌しないと損だよ!! 目標や夢に向かって進んで、そして、あなたは幸せになりなさい」

 私は、その言葉を聞くなり、三守先生から離れた。


「出来ません」

 制服の袖を強く握った。

「私は、一刻も早くみんなの魂を回収しないといけないから......」


「灯ちゃん......」


「じゃないと、三守先生だけじゃなくて他の協力してくれている人達に申し訳がたちません」


「そっか、そうだよね......」

 少し罪悪感がありそうな眼でこちらを見ている様子の三守先生を尻目に


「それにこの生活も案外、楽しいですよ」


 私は、先程、クラスメイトにしたような作り笑顔ではなく、本心のスマイルな笑顔で三守先生を見た。

「ありがとうね......」


「それで、本題の件ですけど、まさか私とハグするだけじゃないですよね??」


「それだけだけど??」

 さも、当たり前のようなすごい、澄んだ眼でこちらを見ていた。

 私がジッーーーと三守先生の方を見ていると

「もう!! 7割はホント。残りはこれよ」

 そういって、私に携帯端末を見せてきた。

「まさか、この学園の関係者がソドールの対象者だなんて驚いたわよ」

 今朝、私が見ることが出来ず、後で、クロと見ようとした資料の中身だった。


<木ッ菩魅烏学園高校 7つ目の処刑人>

 木ッ菩魅烏学園高校には、学園7不思議は存在している。

 ・1つ目 血を吸う壁

 ・2つ目 鳴りやまない音楽室の魔王

 ・3つ目 光る銅像

 ・4つ目 増減する階段

 ・5つ目 真夜中の授業

 ・6つ目 開かずの理事長室

 ・7つ目 鏡の中の処刑人


 ・1つ目 血を吸う壁

 部室棟5階の奥にある壁が放課後までは、なんともないのに次の日、見ると壁一面が赤く塗りつぶされていた。慌てて、警備員や教師を呼びに行き、連れてきてみると、そこにはいつもの、真っ白な壁一面があった。


 ・2つ目 鳴りやまない音楽室の魔王

 夜中、見回りの警備員が巡回中、音楽室で何かが聴こえるのを感じた。不審に思い、音楽室に向かいと、作曲家フランツ・シューベルトが作曲した『魔王』が鳴り響いていた。音楽室の扉を開けるとそこには、誰もいなく、ピタッと鳴りやんでいて、後には静けさしかなかった。音楽室を後にすると、また、鳴り響き始めた。


 3つ目 光る銅像

 去年、創立100周年記念で現理事長の大文字巌さんの胴体と顔だけの銅像が作られた。

 しかし、半年前からこの銅像の眼が光るようになり1回だけではなく、何回も不規則に光り始めている。まるで、なにかと交信しているみたいに


 ・4つ目 増減する階段

 学生棟3階と4階の間の階段を上り下りすると、必ず階段が1つ増えたり、1つ減っていたりしている。どうやら、夜にはこの現象は現れず、なぜか、昼間に現れることが多い


 ・5つ目 真夜中の授業

 真夜中、2年のある教室に入ると机1つ1つに動物のぬいぐるみが置かれている

 そして、教卓の上には何かのアニメの教師のフィギュアが置かれている

 今の授業はスクリーンに投影される教科内容を使っているので、あまり黒板を使う機会が減ってきてるはずなので綺麗なのだが、その教室の黒板だけ汚れがある。なぜなら、びっしりと何かの記号が黒板一面に書かれていた。


 ・6つ目 開かずの理事長室

 現在、理事長は教育棟最上階(11階)に位置している。

 しかし、半年前は10階に理事長室があったが、開けることが出来なくなった。

 カギは特注品なので、世界に1つしかない。

 時々、中に入ることが出来ないはずの部屋からすすり泣きような声が聴こえる・・・


 ・7つ目 鏡の中の処刑人

 これは、出来立てほやほやの不思議。

 前までの7つ目は 保健室の幽霊だったが、半年前からピタッと幽霊の話が無くなり、この半年間、6不思議になっていたが、3日前、部室棟2階と3階の階段の真ん中に大人が全身入るような大きな鏡がある。

 そこで、鏡をバックに写真と撮っていた部活で休憩中の学生の背後から人間サイズの蟷螂が現れ、鋭い鎌で襲い掛かってきたそうだ。



 2日かけて、情報を集め、正体が分かったため、写真も同封しておく

 検討を祈る      近藤一輝より



 7つ目だけでも良かったけど、他の6つも知りたくなってきた。

 確かに、人間サイズの蟷螂なんて現実にはいない。

 恐らく、ソドールの人形を手に入れた誰かが変身し、襲ってるとみて間違いない。

 しかし、なぜ、新学期が始まる前に行動を起こしたのか?

 襲うという行為をした時点で相手の恐怖に歪めた顔を見て楽しむ愉快犯かもしれないので、多く人がいるであろう新学期後の方がやりやすいだろうし、注目され、一気に話題になり、7つ目の不思議になり、学園中の噂になっているだろうに・・・

 今日、学園生活を送っても、この話を噂している人はいなかった。

「今は昔と比べて、こういう怪談を信じている人は少ないわ。私が、小学校の時は学校の怪談は結構、流行っていたけど、科学文明が発展し、幽霊や怪談のような非科学的な物はないと考えたり、誰かの悪戯でしょって済ます人もいるわ」


「ふ~~~ん、そういうものか」


「でも、ソドールのような都市伝説は信じるんだ?? 人間は、自分が信じたものは信じるのを優先しちゃう傾向があるけどね」



 人は、繰り返し目や耳にすることを信じてしまう傾向がある。

 また、人は『正確であること』よりも『自分が信じたい内容であること』を信じる傾向があるため情報の出どころや根拠を確かめない。


「何はともあれ、対象者が分かっているなら、後は実行だけね」

 毎回思うけど、協力者の中で、情報収集のプロの人達はこうも素早く、情報を入手し、さらにはソドールの対象者まで見つけてくるのか本当にわからない。

 でも、これで仕事の効率が早まるのもまた事実。

 初めは、この情報収集の速さに驚き、疑惑を向けていた。しかし、それは思い過ごしだった。

 もしより、自分の家族の形見と呼べるソドールの人形を回収するために嘘や独りよがりな情報で私達を躍らせる必要はなく、むしろ、本業より力を入れている人がほとんどだ。


 ただ、問題は......

 この写真の生徒に今から会いに行っても、きっとはぐらかされるだろうし、物的証拠がないからし、色々、怪しまれるのは明白だ。


「どうしましょう??」


「おびきだせばいいんじゃない??」


「そうね!! でもどうやって実行するの? あれ?」


「数時間ぶりね、灯!」


 灯と三守先生の間にクロが顔だけ出していた。

「えぇ!?!?!?!!!?」


「なんでクロがここにいるの???」


「だって、待てど待てど、一向にあなたが保健室に来ないから探したのよ。ふ~~~ん、今回のターゲットはこの子か。一旦、家に帰って作戦会議しますか」


 怪盗活動スタート。

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