終幕 我々は空を飛ぶツバメである
デウスエクスマキナとAはハッキリとお互い顔を見合わせました。
「君は人形作りの男が作った最後の人形だ。ミスターキャタピラーから脚本家の称号を受け継いで、神と言う役割を担っているだけの哀れな操り人形というわけだ」
デウスエクスマキナはニコリともせず、Aの言葉を受けて言いました。
「お前が何を言おうがこれにて物語はおしまいなのだ。これ以上の幸せはない。人形である事を受け入れろ。じゃないと生きていけない」
「この世界と僕はイコールだったんだ。僕は世界で、世界が僕だったんだ。僕を縛り付けていたのは僕で、システムは僕が作り上げたものだったんだ。だから、そこから出ていくことも僕なら出来るはずだ」
「それは不可能だ。現実は甘くない」
「その通り、しかし、夢の世界も甘くはない。これは大きな繭だったんだ。この暗黒の世界も、人形達の外皮も。もう十分眠っただろう。起きる時間なのだ。本当の人生を歩む時間なんだ」
「そんな事をしたら暗黒の世界は無くなってしまう!!!」
「犠牲の上にしか成り立たない世界など無くなってしまえばいい。ミスターキャタピラーはお前に脚本家の称号を与えたが、僕こそが僕の人生の脚本家だ。今、演者達に告げる。脚本はこうだ。『全員自由にこの世と言う舞台で生きろ』」
そうAが言うや否や、人形達の木でできた皮膚はバリバリと裂け、中から大きなツバメが飛び出しました。無論、デウスエクスマキナの身体も裂け、彼もまた一羽の鳥となりました。
そしてAの身体も割れ、中からツバメが飛び出しました。
遂に暗黒の王国が滅亡する時がやってきたのです。
城も地面も崩れ落ち、瓦礫はその下に出現した海に落ち、大きな波がざぶざぶと立ち上がりました。
そして、飛び立ったツバメ達は登りゆく朝日に向かい一斉に飛び立ちました。
暗黒の王国は無くなったので、彼らは海を渡り自分だけの楽園を探さねばなりません。
彼らのその後を語るのはあまりにも無粋であり、更に言うならば彼らは誰にも見守られる事なく、一人一人の力でこの海を渡らねばならないのです。
彼らは朝日がキラキラと反射する海の上で、空を切りどこまでも飛んでいくのでした。
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