8.革命の為の生贄

 幕が降り、舞台は終わりました。人形達は微動だにせず、一切声をあげません。代わりに、二階席から暗黒の王がキィキィと興奮した調子で鳴いていました。その後ろでは犬がニコニコと笑いながら、両手を叩いて拍手をし、そのまた後ろでは豚が王と犬を交互に見やり、オドオドした調子で立っていました。

Aはこの支離滅裂で大袈裟なショーが一体なにを意味するのか全く分かりませんでした。



「いかがだったかな劇は」

気がつくと、Aの隣には人形作りの男が座っていました。

 「支離滅裂で何も分からなかった。こんなにナンセンスなモノを見たのは産まれて初めてだ。演出家と脚本家は何をしているんだ」

Aは怒ってそう言いました。

「演出家も脚本家も仕事をしたさ。でも、彼らの意見は全て無視された。彼らは処刑されて、代わりにタコとイカがやってきて劇を仕切り始めた。奴ら、劇なんて見たこともないのにね」

「それにしてもひどい」

「当然さ、彼らの目的は良い劇を作ることではなく、劇を作る過程で生じる利益をボスのクジラに流す事だったんだから。芸術は踏み躙られ、代わりに金が海に流れた」

「そんなことが許されていいのかい?王や犬や豚達はこの劇を理解しているのか。そもそも彼らはクジラのあくどいやり方に気付いているのか」

「気づいているに決まっているだろう。何も言わないのは悪事を暴いても得がないからさ」

「王国の者達は知らないのか」

「全員知っている。でも、何を言ったってこの国は変わらない。だから誰も言わない。いいかね、繰り返し言うが、この世は一部の愉悦の為に多数の弱者が虐げられる。それが世の常だ。君もオタマジャクシが陵辱されて嬲り殺されるのを見たろう。小さな子供達の間でもまかり通っているのだ。大人の世界でも当然存在するシステムだ。観劇を巡る事実は悲劇だが、これはありふれた悲劇だ。そしてシステムは平等だ。クジラも長いこと愉悦を享受してきたが、彼は更に大きな愉悦の為に今殺されようとしている」

「そのシステムから逃れる方法はないものかな」

「二通りの方法がある、血を流してシステムを壊すか、もしくはシステムを一から作り直すか、どちらにしろ必要なものがある」

「それは?」

「生贄」

 

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