Ⅲ.三円輪の禁書庫編
◆11◇【疑念】を追え、乙女達。
―◆◇〖アイ side〗◆◇―
「アイ……聞いてほしいの」
〖
リィナは振り向いた。
「私にアイを追いかけるように伝えたのは、ネリアルなの。まるで私が〖
「……まさか」
私と同じように、荒療治で能力を手に入れさせようとした可能性も無きにしも
深く考えようとしなかったのは……兄であり為政者であるネリアルを疑うのを、本能的に避けていたから。異世界に生きる
「ネリアルとアイが信頼し合っていると思っていたから、考えないようにしていたけれど。ネリアルに会ってから、私は漠然とした違和感を感じていたの。一人で抱えきれなくなっちゃった」
苦く微笑するリィナが明かしてくれた違和感の火種は、私の中に飛び火した。私も、自分の内の疑念を明かしたい。けれど、その前に『
「リィナ。私、言っていない事がある。私は別な世界から転生して、蘇った人間なの。前世である『現代』の記憶もある。……信じてくれると嬉しいんだけど」
リィナはやはり
「私を救ってくれた、アイの事を疑ったりしないよ。それに、弱い私なんかが能力に目覚めて【混沌の筆】を倒せた事も……異常じゃない? 」
「そうかもしれない。思えば私も……リィナを助けようとして本能的に得た〖純白〗の力について何も知らない。何故、私が〖 太陽の救世主〗になれたのかを」
異世界だから、摩訶不思議なんでもアリじゃない? と現代の漫画アニメに浸っていた私は感覚が麻痺してたんだと思う。だが異世界と言えど……ここは私が生きる第二の現実だ。
「私達、お互いの『未知』を穴埋めした方がいいみたいだね」
弱々しく笑うリィナに、私は頷いた。
「リィナ。私に、この
「良いよ。私も『現代』や、アイから見たネリアルの事を教えて欲しい」
リィナが教えてくれた『異世界』の現実は、ザックリと三つ。
I. 各地域に自治を持つが、
II. リィナの知識は『学校』で得た情報だけ。“禁書”の存在も無論、皆知らない。この世界を
III. 私達が今いる居住地の一つ『キトゥロ』から、他地域へ赴く者は地域長や教育者以外
『大海原』や『
『現代』から転生した私が、リィナに話した現実も三つ。
一、兄であるネリアルは、私の前世である『現代』の知識がある事。異世界に転生した、ネリアルの妹となる前の
まるで……
二、この異世界に生まれたはずなのに……私は無知だ。おそらく異世界の『太陽』すら知らなかった。それなのに、『外』について記憶や知識があった。時としてリィナより異世界について詳しい場合すらある。……知識や記憶が不自然に偏っている。
〖
三、私自身を導くネリアルを……何故
「疑念は尽きないけれど……私達がやっと掴んだのは『何も知らない事』と『疑問すら覚えなかった事』。……きっと今まで
「その可能性が高いよね。為政者であるネリアルも……アイの記憶を操作していたのかな? 」
私は分かっていても、刺し貫かれた信頼により胸がジクジクと傷んだ。
「……どちらかと言うと、
「為政者は何が目的なんだろう。姿を
「目的は分からないけど……。ネリアルを疑うなら、私の『
小首を傾げたリィナは、可愛らしい眉を難しく寄せる。
「そこなんだよね……ネリアルを、他の為政者と同じように完全に『敵』だと思えない理由。ネリアルに他の為政者とは違う目的があるとしても……私から見て、ネリアルはアイの望みなら何でも叶えてくれるように思えた。やっぱり……ネリアルはアイの事を大切に想っているんじゃない? 」
私はなんだか泣きそうになって、ツンとする衝動を瞬きで誤魔化す。
「他の為政者に敵対してまで、か。それってなんだか」
「私……まだ、ネリアルを信じていたいのかもしれない。やっぱり、ただの『シスコンの兄』でいて欲しいから」
呑み込めなかった信頼を言葉にすると、焼け付くように心臓が鼓動した。
「アイがネリアルを信じていたいなら……尚更、嫌なもやもやを晴らしに行かなきゃ。ネリアルはアイの知りたい事にきっと答えてくれるはず。『シスコンの兄』なんだから」
優しい
私がリィナを救ったはずなのに、今はリィナに私が救われていた。私達はたった一人で戦う訳じゃない。
「そうだね、
私は私らしく笑みを爆発させて、リィナの手をとった! リィナも聖母では無く、年相応の少女らしく笑み崩れた。
「行こう。私より先に〖
頷き合い『仲間』になった私達は、互いの掌の体温を拠り所にするように手を繋いだまま、『沈黙の夜』へと駆け出した。
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