◇10◆ 私にだって、与えられる!
―◆◇〖リィナ side〗◆◇―
太陽は沈んだ。私が裸足で駆け抜けた、あの夜が再来する。安心しきって眠りに落ちたはずの私が、ふいに目を覚ますと――消えたベッドサイドランプの脇に、潰れた影。唸る【混沌の筆】の牙から忌まわしい唾液が糸を引いて滴り落ち、
私はアイに問う。引き留めたいのか、震えを消せない私の恐怖を塗り替えて欲しいのかも分からずに。仲間となっても弱い私は……彼女を待つことしか出来ない。
「本当に……行くの?」
「行くよ。それが、私が……〖太陽の救世者〗として決めたことだから」
塗り潰された夜へ向かい合うアイは、
「アイは、夜が怖くないの。【混沌の筆】に……殺されるかもしれないんだよ。何故、行くの? 」
置いて行かないで。そう告げる代わりに私は、アイも抱くはずの恐怖を探して躊躇わせようとした。あまりにも自分勝手だ。それでもアイは私に答えてくれる。答えを自らの内に探すように、睫毛を伏せながら。
「暗いのも、死ぬのも怖いよ。でも私は、リィナみたいに色鮮やかな人達に惹かれているんだと思う。だけどそれだけじゃないって……私はリィナに出会って分かった。私、大好きな自分の世界を守りたいだけなの。リィナに会って、私の世界の一部は、貴方になった。私……世界の一部になるかもしれない人達の
高く結い上げた
アイの覚悟に、私はもう一度名前を呼ぶことも出来ず、
「……貴方も、私を置いて行くの? 」
アイに【混沌の筆】が狙うであろう
「
ネリアルの言葉は、『赤ちゃん』のように他人の好意を受け取ってばかりだった私の愚かさを浮き彫りにした!
十三歳になっても家事一つ出来ず、パパとママに『赤ちゃんみたいね』と甘やかされるままで。自分で海にも踏み出せず、キレヲに手を引かれ。今だって、アイに優しい言葉すら何も返せずに見送るまま……。
「だって……だって、私は無力だよ!! 返せるものを何も持っていない!! 」
私は自分自身に対する劣等感のままに、火をつけられた苛立ちを吐く! パパとママに私を思い出して欲しいと、アイ達の仲間になったのに。その為に出来る事すら、まだ見つけられていない。自分の弱さを自覚して、変わりたいと願っても!
―― ムカつく程に、私は空っぽだ。
「本当にそうか? 返せない、とお前が思っているだけだ。別に
苛立ちに擦られた
可能性の燈になった。
「私にも出来る
「アイを追いかけろ。立ち止まっていては、成せる事など無い」
可能性の光源に影が強まるように、輪郭の無い『未知』が疑念に変わっていく。
この違和感は、最早一人で抱えきれない。だが、吐き出すべきは今では無い。伝えるべきアイは、ここには居ないのだから。
私は『沈黙の夜』の街へと駆け抜けて行った、アイの軌跡を追う! 背後――『追いかけられた恐怖』の幻影に耐えながら、独りぼっちでも私は走る。アイも独りで戦っているはずだから!!
【ワフォオオオオ――ン!!】
私は肌が粟立つ。【混沌の筆】の遠吠えだ! 色狩りはもう、始まっていた! 曲がった角の路地裏、〖純白の槍〗が旭日旗と共に漆黒の夜に翻る!
「今度は多勢って訳!? 三十匹 VS 一人とか卑怯でしょ!! せっかく眠る
アイは、やっぱりたった独りで【混沌の筆】と戦っていた。
その時、私の
【
見知らぬ女の人の声がしたと思うと、【混沌の筆】の群れの動きは統率された。狩りの獲物へ網を投げるかのように一斉に、アイへと飛びかかる! アイは動けないまま、
「アイ!!! 」
強く叫んだ私はアイの元へ、勝手に身体が動いていた。このままママとパパとの『思い出』すら取り返せずに、私を救ってくれたアイすら喪うなんて、
荘厳の
ふわふわの黄色い玉子焼。赤いタコさんウィンナーに、優しく茹でた緑のブロッコリー。
もう、行動することを諦めたくない。私も、
―◆
私が纏うエプロンは【汚れ】を防ぎ、体を
〖
【クゥンッ!? 】
突如現れた防壁に阻まれた【混沌の筆】達は、地へと弾き返された!
「どうして、リィナがここに!? この防壁、リィナがしてるの!? 」
初めての防壁の展開に集中する私は、驚愕するアイに振り向けない。
「後で伝える! 私の
アイへの攻撃は防ぐ事が出来た。だが、【混沌の筆】達自体はダメージを加えられた訳では無い。再び起き上がった彼らは、私の展開する防壁を喰い破ろうと牙を立てる!
植え替えが出来ない
〖
「このままじゃ、【混沌の筆】にずっと囲まれたまままだよ! 防壁を解いて! 私が隙をついて【混沌の筆】のボスを穿つから! リィナが持たない! 」
「大丈夫! 」
私とアイを
〖
【ヴヴヴゥ……】
濁った【混沌の筆】の
「リィナ!
「やってみる! 」
防壁の一部、
「ラッキー☆ この瞬間を狙ってたの!! 」
防壁の隙間。ウィンク☆したアイは〖純白の槍〗の高い明度の槍先で、
【グヴェオオオッ!!! 】
額を貫かれたボス:【混沌の筆】は、光源〖純白の槍〗の強烈な輝きにより
「はい、さよなら! 中々スリリングだったけど、結果オーライ! 」
胸を張るアイの横、安心した私は
〖
「アイ……聞いて欲しいの」
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