◇4◆ 可愛い妹には、槍を持たせよ。
冴え渡る
異世界でも存在する『月』は白銀だった。現代から甦った私から見れば、寧ろ
がらんどうの夜の街。冷えた月下で歩む『太陽の救世者』である私は異端。それでも、強く歩を進められるのは……手を繋ぎ
漆黒の夜を味方につけたように、ネリアルは
暗い灰みの青紫である
遂に私は、張り詰めた緊張に耐えかねて言葉を零してしまう。
「静かだね。みんな眠ってるんだ」
ドキリとしたのは、憂いのある美貌に宿る繊細な睫毛の奥……
「
「……一体どうやって
刺すような双眸に抗えず、私は逃げるように睫毛を伏せる。繋いだ手が僅かに力が込められた気がした。
「【混沌の筆】。為政者の使い魔たる彼らが、ベッドから眠る
「
私が選んだ『救世者』と言う道には、命が天秤に載る……。今更嵌められた重い枷が、覚悟を探す私の歩みを止めさせた。
「
私は耳を疑い顔を上げた! 私を真っ直ぐに見つめるネリアルは笑みなど浮かべる様子は欠片も無い。
「
「アイは忘れているようだけど、俺は為政者なんだ。協力してあげられるのは
祈るように見つめられて繋いだ掌を引き寄せられたのに、私は否定に首を横へ振った。
「私は救う
「アイが生きていなくちゃ、望む
瞬きに閃光が散った! 自らの
「確かに、ネリアルの言っていることも分かる。だから
ネリアルはため息をつく。無謀だと言うように。
「時間は限られているから本当は効率的に、救う
手を繋いだまま私の頬に触れたネリアルは、私の黄緑色の
「……お兄ちゃん? 」
瞬く私に、ネリアルは不意に美しく微笑した。
「
ちろりと見えた
「その……ありがとう……」
本当に私の
「誰かっ、だれか居ないの!? 私以外本当に誰も
暗い路地から、漆黒の
だが、助けを求めているはずの彼女は止まる事無く走り去る。一体何故……と呆然と混乱する私の前を、理由が駆け抜けていく!
――ギラリと飢えた野犬の群れだった。絵の具をパレットでぐちゃぐちゃに混ぜたように、まだらに濁った色の獣達は筆のような尾を引き歓喜に吠える! 追われる彼女は、狩りの獲物なのだ……。
「【混沌の筆】の色狩りが始まった」
私を解放したネリアルの冷めた一言に、我に返る。
「早く助けないと! このままじゃ
息を吹き返した焦燥感で、ネリアルのタイブローチ事しわくちゃにしがみついたが……何故か丁寧に指を解かれてしまう。……え?
「【混沌の筆】を穿つのは
ぞわりとするような魅惑的な微笑を浮かべたネリアルから滲む、嫌な予感に片頬が引き攣る。固いはずの地面がふわふわと
「微妙に間違ってるし、何で
「やだな。可愛いからこそ、鞭打つんだよ。さぁ、『 習うより慣れろ』だ! 」
荒々しく叫んだネリアルが両手で一拍打つと、波打った地面に
「嘘でしょぉぉおおおおっ!? お兄ちゃんの馬鹿ぁっ!!」
「こうなったら
だが固い地面と、新たな
俯いた
「やだ、
彼女の言葉に、堕ちる私は背筋を貫かれた!
迫る【混沌の筆】の群れが、私を喰らった
―◆
「あんた達に、もう二度と
喉が焼き付くほど強く叫んだ私は、無彩色の〖
私は旭日旗を柄に翻す〖純白の槍〗をバトンのように踊らせ、襲いかかる【混沌の筆】を地面へ叩きつけて返り討ちにした!
【クゥン……】
新たに現れた
【混沌の筆】も
「怯えたって許してあげない。【
【ヴヴヴゥゥッ……】
怯える【混沌の筆】達の中、一体の大きな【混沌の筆】が影より現れる。ははぁ、あれがボスってわけ。額には、美しく輝く
「ぐちゃぐちゃな色の【
ボス:【混沌の筆】が、生臭い咆哮と同時に牙を剥き出しに迫る! 〖純白の槍〗を振るう前にその牙に咥えられ、私の苛立ちは決壊を切られて大噴火した!
「醜いヨダレを、真新しい〖純白の槍〗に垂らさないでくれる!? 命懸けで具現化した新アイテムなんだから!! 」
〖純白の槍〗に喰らいつく、ボス:【混沌の筆】は中々重たい。雑魚みたいにぶっ飛ばせない。ならば……!
「あっ! あんなところに美味しそうな『
クルッと、牙を離し私の指さす方角を嬉々として振り向くボス:【混沌の筆】。私は可笑しくてペロリと舌を出す。色とみれば尻尾なんか振っちゃって……あんたも私と同類か。
「隙あり! 」
ギラリと強烈な輝きを放った高い明度の槍先で、振り向いたボス:【混沌の筆】の
【グギャッァァァアッ!!! 】
光源、〖純白の槍〗が強く放った輝きに呑まれたボス:【混沌の筆】はぐちゃぐちゃな
成程……今後はボスを狙えばいいのか。
私が息を吐いて振り返ると、
「もう大丈夫! 貴方は助かったんだよ」
私の声に肩をビクつかせ、おそるおそる少女は顔を上げる。よく見ると、とんでもない美少女だった。涙を溜めてくりくりとした
「貴方は……? 」
美少女の言葉に、私は救済した後のシュチュエーションを一切考えて無かった事に気がついた。無計画なのは、初めからなんだけど。……妹を放り投げたシスコンの兄も。
「えぇと……そうだな…… 異名が〖太陽の救世者〗になったばっかりの新米救世者で……」
きょとんとする美少女を安心させる言葉を、必死に脳内本棚から引っ張りだす。彼女はかつての私のように、命の危機に瀕していた。不安を取り除いてあげたいんだけど……こう言う時……言うべき言葉は……。ピンと、私はある一冊の言葉に閃く!
「私は、貴方を救いに来た! 」
漫画本に載ってた
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