第2話 ダークブロンドの少女

 始まった、とツバサは肩をすくめた。アルルがテーブルに滑らせた写真には、少し幼い顔のアルルの他に、少年が1人写っていた。不意打ちに撮られたのか、写真に慣れていない様子で少年ははにかんでいた。何だか優しそうな人にベティの目には写った。


 「うーん、私の知ってる限りじゃ見たこと無いけど……アルルの彼氏さん?てっきり彼氏はツバサかと思ってたけど」

 「ダーメダメ、アルル見た目は整ってるけど中身がただのおせっかい女だから俺には彼氏なんか務まらないよ」

 「そこまで言わなくたって良いじゃない」

 「……この人のこと、探してるの?」

 「うん。探してるの、ずっと」

 「大好きなのね、この人のこと」


  何気なく言ったベティの言葉にアルルは少し赤くなった。一緒に過ごしたのは1年も無かった。しかしアルルは彼―レンのことが本当に好きだった。


 「でも、もう私のこと忘れちゃってるのかもしれない」

 「……そんなことないよ。きっと覚えてくれてると思う」


  笑顔で映るアルルとレンはこの時とても幸せだった。アルルが一人ではなかった唯一の記憶の一つだ。二人は地球で出会った。

  レンが別世界へ行くと言った日、約束をした。必ず別世界でまた会おう、と。

  アルルがぼーっと考え事をしている間、ツバサとベティはチーム名は何にするか初仕事は何がいいかと話していた。


 「チーム名、オセロとかどうだ?」

 「オセロ?オセロってゲームのやつ?」


 ベティが首をかしげると、アルルはなるほどね、と呟いた。


 「俺の魔術が分かれば意味が分かるよ。よし!!俺達も仕事に向けて訓練に没頭しなきゃな!ベティもあの女達を見返してやれ!!」

 「そんないきなり戦うような依頼受けるの?そもそも私達チームワークのチすらまだ……」


  やれやれ、とベティが肩をすくめた。どこで習ったのかは知らないが、ツバサは昔から戦闘向きだった。それに負けじとアルルもひたすら特訓したのを思い出す。

  ひとまず新しいメンバー、ベティが加わり"オセロ"は結成されたらしい。これはまだ序章の序章に過ぎなかった。


  「ねえ初仕事が乗り物の修理とかさ、ダサいとしか言いようがないんだけど」


  ツバサは不機嫌そうに半ば乱暴に修理をしていた。そんな事言わないの、とアルルはたしなめた。アルル達はこの数日間で互いに魔術を使ってバトルをし、メンバーの魔術や戦い方がどんなものなのかまでは分かっていた。しかし、やはり戦いを必要とする依頼に手を出すのはまだ気が退けていた。


 「もうちょっとスリル味わいたいわけよ、俺は」

 「そういう感じの依頼って結構ピンキリじゃない?依頼で命落としちゃう魔術士も珍しくないって言うし」

 「ま、まあね……」


  ツバサはベティに口を出されると何故か弱くなってしまう。しかしベティはなおも続けた。


 「でもせっかくだからそういう依頼もいいかもね。逆にそういう依頼を避けてたら訓練した意味も無くなっちゃう」

 「ふっ、そう言うと思って実はいくつかお仕事を見つけてきたんだよねー。ほら、これとか良くない?悪党捕獲」


  得意げな顔で仕事の紙を指さすツバサに、仕事中よ、とアルルが水を差した。結果、次の仕事は"悪党捕獲"というハードルの高そうな依頼を受けることになった。修理の依頼を終えて帰り道、アルルは何度も尋ねた。


 「ねえ本当に大丈夫?死なない?」

 「そんな簡単に死なないよ。まあわかるよ、アルルの気持ちも。レンに会えるまで死ぬわけにはいかないからな」


 真夜中。一人の魔術士が走っていた。追っ手に捕まらないように死に物狂いで走っていた。


 「お前もここまでだ」


  ふと振り返ると後ろには黒いローブをまとった男がいた。前方にはさっきまで追いかけてきていた男がいる。逃げられる場所はどこにもない。一人の魔術士は落ち着いた声でそうはっきりと言った。


 「来るな」

 「ここまで追い詰められてとうとう泣き言を言い始めたのか」

 「俺に近づくな」

 「……そろそろ消えてもらわないと、俺達もボスに怒られちゃうからさぁ?お前はもう後戻りができない。一体何人俺達の仲間をぶっ殺してきたんだろうなぁ!!!」


  黒いローブの男が強風を起こした。魔術士が深く被っていたローブのフードが風によって外れた。へへへ、と気味悪く黒いローブの男らは笑った。


 「思っていたよりも可愛い顔してるじゃねえか。そんなんで手は血で染まってるとは恐ろしいねえ」

 「今すぐ地獄に送ってやるよ!!」


  魔術士はさっと姿を消した。男達が怯んだ時には背後に魔術士は構えていた。既に手に貯めていた真っ黒のエネルギー源を思いきり男達に食らわせた。男達は叫ぶ暇もなく静かにその場に倒れた。

  魔術士はフードをまた深く被り、その場を立ち去った。

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