第16話 完全にキレたので屋上行こうぜ?

「あの時は本当にありがとうございました」


「別にいいのよ。それにしても災難だったわね」


 店のカウンターの前でセラの前にて頭を下げているのは先日のギルドでビスチェに吹き飛ばされたパイロジェンとアサマキだ。


 ライリルとミールはコールの着替えを持って病院に行っているので店内には三人しかいない。


「昔はあんな性格じゃなかったんですけど旅をしていてもてはやされる内に段々とあんな傲慢な性格になっていきまして……」


「旅を始めた時は仲間思いの良いリーダーだったんですよ」


 話を聞けば二人共最初は本当にビスチェを信頼していたらしい。


 だが最近では自分達への対応が雑になり、クビをほのめかす発言も多々あったそうだ。


「一回ぶっ飛ばしちゃえばよかったじゃない」


 セラの言葉にパイロジェンは首を横に振った。


「残念ですがビスチェ様の冒険者としての実力だけは本物でして私達では歯が立ちません」


「背中見せた時に魔法をぶち込むとかは?」


 その言葉にアサマキが反応する。


「ビスチェ様の鎧には付与効果で物理半減と魔法無効化のオートスキルが付与されてるんです。元々腕っぷしも強くて魔法も一級品でしたがあの鎧をダンジョンで手に入れてからは無双に近い強さになってしまいました」


 パイロジェンが深いため息をつく。


「昔のビスチェ様に戻って欲しいです……」


「私も……」


「ビスチェの奴のプライドまでボコボコにしてくれる人がいれば変わるかもしれないけど難しい話ね」


「ここにあったか!! おい貴様どういうことだ!!」


「話してたら来たわね」


「ビスチェ様!」


「どけっ!」


駆け寄ってきたパイロジェンは力任せに退けられた。


「パイロジェン!」


 アサマキが棚にぶつかりそうになったパイロジェンの身体をどうにか支える。


 そうして店にズカズカと入ってきたのは顔を真っ赤にしたビスチェだった。


「セラセラ、ただいまっす」


「ハナちゃんどうしたのその格好!」


 ビスチェの後ろにいたハナが出てきたのだが何故かオーエルの服装ではなく葉っぱを糸で縫い合わせギリギリ見えない(何がとは明記はしないが)格好で登場した。


「いやー色々あってっすね」


「色々ではないっ! 危うく死にかけたんだぞ! この女! 魔法は愚かスキルも何一つ使えないではないか!!」


「そりゃあそうよ」


「そりぁそうよじゃない! 魔法は全て特級でスキルも書ききれないほどだったではないか! 事実ギルドでは魔法も使えてたのを見たぞ!」


「何言ってんのよ。鑑定士さんが言いかけてたのに横からあんたが割り込んで来たんじゃない」


「なんだと!」


「ハナちゃんの能力には制約があるのよ。異世界からコッチに呼び出した契約者と距離が近いほど魔法が強くなって使えるスキルが増えるっていうね。逆に契約者と離れたら何も使えなくなるの」


「あー、そういうことだったんすね」


 あの騒動の後に鑑定士から聞いた話だ。


 今回の場合、契約者はコールであり鑑定していた時にコールがハナの横にいたのであの馬鹿げた鑑定結果が出たのだ。


「契約者の変更もできないって言ってたわよ」


「騙したな貴様ら!」


「だーかーらーあんたが話しを最後まで聞かないでゴチャゴチャ勝手にやったんでしょうが!」


 セラがカウンターに平手を打ち、立ち上がる。


「うるさい! 貴様らのせいでこっちは被害を被ったのだ! 違約金と慰謝料を払え!」


「あんたね……」


「小汚い店を経営しているアホな店長の元に転生してきた者なんて最初から使えないと思っていたわ! おっ、そう言えばあの雑魚店長はどうなった? そこそこの力しか使わなかったが今までに倒した魔物でもあそこまで弱いものはいなかったぞ? はーはっはっはっ!」


 セラは大抵の事では怒りはしない。


 大抵の事は表面上では怒りの感情を出していたとしても気持ちは冷静に対処している。


 コールの事以外では。


 彼女の中で他人がコールを馬鹿にすることはあってはならないのだ。


 コールに対してそんな発言をしていいのは世界にただ一人だけ……セラだけなのである。


「かんっ……ぜんに……キレたわ……」


「なんだその反抗的な目は?」


「ちょっとあんた屋上来なさい」


「……挑戦と受け取っていいのか?」


「挑戦でもなんでもいいから屋上来いって言ってんのよ」


「いいだろう。だが私に負けたら一生払っても払いきれないほどの違約金と慰謝料を払ってもらうぞ? それでもいいのだな?」


「いいわよ。だけどあんた負けたらその身につけてるもの全部よこしなさいよ。あとこれから旅で手に入れた品物全部この店に売りに来なさい」


「いいだろう! 負けることなど万に一つ、いや兆にミリもないがな!」


 二人が階段を登っていき、後ろからハナとパイロジェン、アサマキが追っていく。

 この後の戦いを見終えたパイロジェンとアサマキは後にこう語っている。


『神を見た。が、神はいない』

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