第17話 武神!セラ!!
「セラセラッ! 本当に大丈夫なんすか?」
セラの横に立つ葉っぱ3枚しか装備していないハナは心配しながら声をかけた。
「なーに、大丈夫よ。危ないからハナは離れておいて」
「ふん、人の心配より自分の心配をしたらどうだ!」
目の前に立つビスチェの後ろ、階段を上がってきた入口近くには不安そうな面持ちのパイロジェンとアサマキがいる。
「あんたに一分間、神様にお祈りする時間を上げるわ。今までの行いの懺悔を済ませておきなさい」
「馬鹿にするな! お前こそ私に逆らったことを神に謝るんだな!」
「そう……じゃあ……」
セラは胸元からある物を取り出し両手につけ始める。
それは革で作られた手袋であり全ての指の革が抜けている。
「あら、落としちゃったわね。ハナちゃん、これ持っておいてもらえるかしら?」
指ぬき革手袋を取り出す際にライセンスカードが床に落ちてしまい、セラはそれをハナに軽く投げる。
「キャッチっす!」
ハナはライセンスカードを手に取った後、裏面に目を落とすと先日見た時に掠れていた文字が浮き上がっているのを見つけた。
「武神……っすか?」
「さぁ……神様がこの世にいないってことを今から教えてあげるわ」
「ふん、この鎧を着ている限り物理でいくら殴ろうとも威力は半減される。貴様の一撃など虫が止まった程度だ。いいだろう。最初の一撃はくれてやる」
「そう、ありがとね」
セラが左脚を前に出し重心を低く構える。
右手を軽く握り後ろに引き呼吸を整え始める。
「ふっ!」
軽いステップでビスチェに接近し右の拳をビスチェに放つ。
ーーキンッ!
屋上に乾いた金属音のようなものが響き渡る。
拳と鎧が交わった音だと誰もが思っただろう。
だが現実は違っていた。
セラの拳はビスチェに届いていない。
先程の音はセラが拳を突き出した時に周りの空気が放った音だったのだ。
「外れちゃったんすか? あれ?」
セラの拳は当たっていない。
当たっていないはずだった。
「ぐっ……あっ……」
だが、セラの目の前には苦悶の表情を浮かべながら膝をついているビスチェが確かに存在していた。
「確かに半減はしてるわね」
膝をついているビスチェを見下ろすセラは自分の衣服の乱れを軽く直している。
「貴様……なに……を……何をした!」
腹部を庇いながら立ち上がるビスチェ出会ったが表情は険しく呼吸も荒れている。
「何ってそのまま殴ったら鎧が傷ついちゃうから空間を貫通させただけよ。まぁ、やっぱり半減の効果は出ちゃうみたいだけど」
「貴様……もう許さんぞ!」
ビスチェはセラに向け一撃を放とうと襲いかかる。
が、視界に入っていたセラが見えなくなったと思った瞬間、次に見えたのは空であった。
宙に浮いた身体が床に叩きつけられる。
肺の空気が一気に放出され呼吸ができなくなりパニックになりかける。
「足元がガラ空きなのよ」
倒れた顔の上にセラが顔を覗かせる。
「足払いぐらい避けられると思ったのに本当にあんたS級なの?」
「…………」
ビスチェが口を開き何かを叫んでいるようだが声にならない。
「じゃあ、鎧は貰うからね」
そのままセラはビスチェの顔面に拳を叩きつけた。
意識を失ったビスチェにパイロジェンとアサマキが駆け寄る。
「大丈夫よ。かなり手加減したから。アサマキさんヒールかけてもらえる?」
「はっ! はい!」
アサマキがビスチェに手をかざすと詠唱を始める。
「ぐむぁっ!!」
変な声を出してビスチェが起き上がった。
「な、何があったのだ!」
「あんたが私に負けて気絶したのよ。だから私の勝ち、ほら、鎧よこしなさい」
「くっ……屈辱だが男に二言はない! リリース!」
ビスチェがそう言うと鎧がビスチェの身体から外れ床に置かれる。
「好きにするがいい! 俺はもう行くぞ!」
「いや、待ちなさいよ。まだ終わってないわよ?」
「なんだと?」
「だって今のは私とあんたの勝負でしょう? まだ私達の分終わってないじゃない?」
「そんなの聞いてないぞ!」
「ついでに仲間に魔法ぶつけた分もオマケしてえーっと、6回ね!」
「死ぬ死ぬ死ぬ! 死んでしまう! もう鎧もないのだぞ!!」
「だってあんたコールを馬鹿にしたわよね?」
「謝るから! すまん! 申し訳ない!」
「もう遅いわよ? アサマキさん。こいつが気を失ったらヒール入れてね? 私がいいって言うまで何回でもよ? わかった?」
「わかりました!!!!!」
アサマキは人生で一番の敬礼をサラにむけて行った。
「アサマキ! 貴様!!」
「ビスチェ様! いいえ! ビスチェ! お前が悪い!」
「そうよ! セラさん! 性根叩き直して上げてください!!」
「パイロチェン!!!」
「さて……神様へのお祈りは済んだかしら?」
「ひーーーーーーっっっっっっ!!!」
セラのアッパーカットでビスチェの身体がキリモミ式に回転しながら飛び跳ねる。
「いやーこれは爽快っすね〜ふわぁ〜終わったら起こしてっす」
呑気に昼寝を始めるハナの横ではビスチェの鼻血でキレイな虹がかかっていた。
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