第9話 布一枚VS食い込み水着
「ふーひょひょひょひょひょ!」
まるで悪者が正義のヒーローを倒したかのような下世話な笑いがこみ上げる。
「コール……あんたマジでえげつないわね」
店の品物(粗大ごみ)は全てなくなりセラがシート・ストアーズで買ってきた物も全部なくなった。
おかげで昨日の営業終わりには店の中の物は綺麗サッパリなくなっていた。
「で、昨日の売上は?」
「95万ギークってところね」
「そんなところだろうな。よし、今日は店を休みにして棚を全部綺麗にしてから昨日避難させておいた商品を品出しするか。足りなかったら仕入れ品買いに行こうぜ。セラも昨日は大変だっただろうから買い物とか付き合うよ」
「本当にっ!」
「あぁ、どっかで飯も食べよう。お金は俺が全部出すからさ」
「デート! デートってことね!」
顔が近い!
カウンター越しに身を乗り出してくるな!
「やったー! じゃあ、あれ買って貰って! あっ! あの洋服も欲しかったし! ディナーはあそこで……まってでもあぁ迷う!」
おいおい買い物も俺が金だすことになってないか? まぁいいけど。
「……ぉーぃ……ぁけて……」
ん? 今なにか聞こえたような。
入り口を見ると小さい何かがユラユラとしているのが見えた。
「もしかしてライリルか?」
「すっかり存在を忘れてたわね」
「そういや勝負だったもんな」
ライリルがあんなチラシを出した時点で負けはほぼ確定だったけどな。
「開けてくるわね」
セラが入り口の鍵を開けると変わり果てた姿のライリルがそこに立っていた。
「ぐすん……」
「お前……何で布一枚しか巻いてないんだよ!」
いくらちびっ子とはいえヤバいだろその格好は好きな人は好きかもしれんが!
「クビになった……」
「は?」
「店長クビになってそれでパパが家から出てけって……うぅ……」
「まさかそれって」
「昨日、大赤字で何か粗大ごみみたいなの一杯売ってきた人達がいっぱいいて売物にもならないし責任とれって言われて……」
「コール……あんた……」
俺のせい? また俺のせいなのか!!
「だがら……ごのまま……どごがどぉぐにいごゔっで……でも……みんなとばぃばぃジダグなグで……うわぁぁぁぁぁん!!」
セラに抱きついて号泣し始めるライリル。
「大丈夫よライリル。そんな泣かないのバイバイなんてしないわよ」
ライリルの背中を優しく触っているセラだが俺への目線は完全に「おめぇ責任取れよ」と訴えている。
「まぁ……俺もライリルと会えなくなるのは寂しいしな……良かったらうちで働くか?」
「ぼんどゔ!!」
鼻水と涙を飛ばしてくるな!!
「良かったねー! 一緒に働こうねライリル」
「働くっ!」
わかったから先ずは涙と鼻水を拭けよ。
「みんなと働ける! やったー!」
今までの涙はどこへやらいつものようにピョンピョン跳ねるライリル。
だが、何回か跳ねた直後、巻いてあった布が勢いよく取れた。
「せいっ!」
「ぶっ!!」
セラが瞬時に正拳を食らわせてくれたので少ししか見えなかったがあいつちびっ子だとは思っていたが、本当に全部ちびっ子なんだな。
いや、まぁ、好きな人は好きなんだろうな。
「さ、ライリル。私の洋服貸すから行こう」
布を巻き直してもらってライリルはセラと二階へ上がっていった。
「あーひでぇ目にあった首がいてぇ」
そういや、気にしてなかったけどミールの店はどうなったんだろうな。
「おはよう」
「ぬわっ! いたのかよミール!」
「コーくんはいつも反応がいいな」
「急に棚の隙間からでてくりゃあ普通驚くだろ! で! なんでお前は水着なんだよっ!!!」
黒一色の水着でしかも大会で使うような食い込みの激しいやつ!
目のやり場に困る!
「困った時はこんな格好するのが通例って本に書いてあった」
「お前の読んでる本持ってこい! 全部食いちぎってやるよ! 全く俺の上着貸してやるから着ろ」
ミールは俺が上着を脱いで渡すと即座に匂いを嗅ぎ始めやがった。
「まだ着たばっかりだから臭くねぇよ!」
「いや、クンクンクンクン。そうクンクンクンクン。だなクンクンクンクン」
「着ろ! 早く!」
やっとミールが上着を羽織ってくれた。
まだ目のやり場には困るがさっきよりはまだマシだ。
「で、お前の店の昨日の売上は?」
「知らん。辞めたし」
「はぁ? だって一昨日まで働いてたじゃん」
「いや、一昨日ここに来たあとに店に戻ったら怒られたから辞めた」
お前は……本当に。
「じゃあまた無職かよ」
「あぁ、だけどさっき街を歩いていたらスカウトされてな」
「スカウト?」
「この水着を着て近くにある撮影現場に来てくれだそうだ」
「それって大丈夫なのか?」
「よくわからんが日給10万ギークだそうだ」
「ぜってぇ危ない仕事だってそれは! 脱がされたりなんやかんやあるって!」
「でも金が無いしな」
「あぁぁぁぁもぉぉぉぉぉ! わかったよ! お前もうちで働けよ!」
「本当か、助かる」
同級生のいやらしい作品が世にでるならその方がマシだ。
こんなムチムチな身体を世の中に出してはいけない。
にしてもすげぇ食い込みだ見ようとしなくても勝手に目がそちらに向いてしまう。
色々とどうなっているんだ何がとは言わんが。
「コール……どこみてんの?」
へ? 後ろからの声に恐る恐る振り返ると滅茶苦茶怒り顔で腕を組んでいるセラがそこにいた。
「いやっ! ミールのこれは! 撮影で脱がしてあれだったから!」
「脱がすの? エッロー! コールのドエロー!」
「茶化すなちびっ子」
何も生えてない小童が!
「コーくんに無理矢理着せられました」
「お前も嘘を付くな!!!!」
「へー……そういう趣味があったんだ」
「あ、あのセラ? 怖いから指をバキバキ鳴らしながら近づいてくるのやめてもらっていい?」
「みんなー、今日はコールの奢りで贅沢しましょうね」
「わーーーい! 僕アイス食べるー!」
「私は高級ステーキ」
本当に何なんだよこいつら……
その日の夜には昨日の売上の半分がなくなっていた。
うちの店には従業員が3人になり、ますますのんびりスローライフから遠ざかっていくのであった。
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