第8話 パパのバイリル激おこ案件

「ほーふへっはっひ!」


 ライリルは独特の笑い声を高らかに発しながら本日の店の売上集計を待っている。


「ボクの作戦は完全に完璧でパーフェクトだから負けるはずがないんだけどね!」


 先に言っておこう。


 ライリルは頭がとても残念な子なのだ。


 店長の座についてから殆ど店に顔を出したことはなかったのに今回この勝負を思いつき、急に店に来て「明日は他の店の売値の二倍で買取ね。ほんで売物は90%オフにするから」と言われた従業員達は本当にかわいそうである。


 実際、店舗の床には今日のイベントで疲れ果てた従業員達が全員転がっている。


 その中で一人転がりながらもどうにか売上計算をしているライリルがいない時の実質的な店長の役割を担っている店員Aさん(仮称)。


「どうだ店員A(仮称)? 今までの売上の八倍とかの売上になってるだろう?」


「えー……今日の買取と販売の合計金額ですが……260万ギーク……」


「おぉ! すんごぃ! ライリルちゃん天才!!」


「の赤字です」


 ぬか喜びして椅子の上で跳ねていたライリルの動きが止まる。


「赤字っ! なんで!! あんなにいっぱいお客さん来たのに!」


「そりゃあそうなる」

「最初から分かってた」

「労基呼んでくれ」

「私の日給低すぎぃ」


 床からはモブ達の悲しいうめき声が木霊している。


「あのですねライリルさん。まず買取値段を他の店の2倍にした時点でリュースショップとして致命的です」


 床に仰向けになりながらもライリルに話しはじめる(クレームを入れ始める)店員A(仮称)。


「あんなにお客さんが来てしまったら買取と販売で手一杯で品出しもろくにできませんし。まぁ! 今日品出ししたところで90%オフですから買取金額が高すぎてどちらにせよ大赤字でしたけどね!」


 自分で言いながら腹が立ってきたのかいつの間にかブリッジをし始める店員A(仮称)。


「ちぇー何だよーつまんないのー」


 自分達が冒険者か魔術師だったらひと思いにこいつを葬れるのに。


 全部この社会の仕組みが悪いんだ。


 まるで黒魔法のような会社。


 そうだ。


 こんな待遇の悪い会社のことをこれからは黒会社と名付けよう。


 そうしようなみんな。


 あまりにも従業員の気持ちが一つになりすぎて脳内で会話ができるようになっていたその時。


「おーう、おつかれ……ってどうしたお前ら!!」


「「「「助けてくださいいいいいいいいい!!」」」」


 本業の武具屋の営業が終わりライリルの父親であるバイリル・シートが店に顔を出しに来た。


 従業員全員最後の力を振り絞りバイリルの身体に足元から絡みつく。


「何があったんだお前ら!」


「パパ〜」


 そんな中呑気に父親に手を降るライリル。


「ライリルじゃねぇか。何だやっと店長としてしっかり働きにくるようになったのか! 偉いぞライリル!」


「バカ親! 違った! バイリルさん違うんです!」


 心の声が漏れてしまったが事の経緯を涙ながらに説明する店員A(仮称)。


「俺が鍛冶やってて店に籠もってる間にそんなことがあったのか……」


「ぞゔなんでずぅぅぅ! づらがっだんでずぅぅぅ!」


「よーし! 今回は負けたけど次はコールとどんな勝負しようかな〜ひっふっふっ!」


 話が長すぎたので次のコールとの勝負を考えていたライリルにバイリルがやばいオーラを出しながらゆっくりと近付いていく。


「ラァァァァァイィィィィィリィィィィィルゥゥゥゥゥゥ!!!」


「え?」


 店員A(仮称)は心の中で「勝った」とニヤリと笑い、タイミングを見計らって目にかけた水を拭き取った。

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