#2 - 第11話
電子タグ情報を入力したカーナビは、貴太の居所を座標として表示している。
「貴太くんの様子で変わった点はありませんでしたか? 」
警察庁所有EVの運転席から、小野塚は後部座席へ声をかけた。
「別に、いつも通りですが」
やや苛立ちを含ませた声で星浦が答える。通話後すぐに合流し貴太の捜索に同行してもらった。
座標は、過去の事件現場付近を指していた。
「出過ぎたことかもしれませんが、七年前の事件は多大なストレスを抱えた者による誤った不満解消法だと私は捉えています。当時から状況は改善できていますか?」
小野塚の問いに星浦の表情が一瞬消えた。
「きちんとケア出来ています! 余計なお世話だ!」
星浦は真っ赤な顔で息巻いた。
その様子に助手席に座った臼井が冷静に声をかける。
「前科、前歴のついた人間の社会活動は、周囲の理解が何よりも必要になります。お調べしたところ……貴太さんは事件以降、就労履歴がない。更生のためにも社会と健全な関わりを持てているか、我々はそれを懸念しています」
「前歴がついたとは言っても、裁判で有罪判決は出なかった。貴太は人を殺してなんかいない。素行の悪い友人二人に唆されて、ただ巻き込まれただけなんです! 」
眉間により深い皺を寄せると、臼井は口を開いた。
「裁判前の供述で貴太くんは殺人を認めていたようですが……」
「取り調べは密室の二人きりで行われました! 裁判の資料にも書いてありませんでしたか? あなた方警察に寄る自白の強要です!」
貴太に配慮して当時の担当刑事は取り調べの録音データを撮らなかったらしい。それが仇となり裁判前の貴太の供述は証拠としての効力を失った。
事実は共通項としてある。だが、解釈は人によってどうにでも変わる。
車道が細くなってきたため、自動運転から手動へと切り替えた。小野塚は静かにハンドルを切る。同時に左腕の時計がコール音を鳴らした。
「おっと、すみません。手動に切り替えたので、代わりに出てもらえませんか?」
臼井は無言で自分の左腕の時計をタップする。
空中ディスプレイが表示され【代理応答】のメニューを押下し、スピーカーモードに切り替えた。
「代理の臼井だ」
『……臼井さん! お疲れ様です。保立です。現場の遺留物から容疑者が割り出せました。大場と個人的に親交のある人物だそうで、本人が交渉役を希望しています。音声通信を条件に一人で向かわせてもいいでしょうか?」
「一人では危険ではないか?」
『容疑者は
臼井は顎に手を当て、運転席の小野塚へ視線を送る。
「俺は賛成です」
小野塚の返答に、臼井は無言で頷くと保立に返事を返した。
「許可する。ただし何か起きた時、即応出来るようにしておくこと。あと音声記録には私と小野塚を含めるよう伝えてくれ」
『了解しました。ありがとうございます』
臼井が【通話終了】ボタンを押下する。
小野塚がルームミラーを確認すると、後部座席に座る星浦の青い顔が映っていた。
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