#2 - 第8話
二件目の犯行は、雨の中で行われた。
被害者の名前は、
社用で外回りをしていたところ、背後から襲われた様子が近隣の監視カメラ映像に収められていた。被害者はイヤホンつけていたようで、背後の人影に気が付いていないようだった。人通りが少なかったことにより通報や検知が遅れたこと、雨により体温が奪われたことも影響し、残念ながら搬送された病院で先ほど息を引き取った。
「打撲跡は前回と酷似。恐らく同一犯による犯行だ」
「隠す気がありませんよね」
大場がそう言うと、保立も頷いた。
「今回もアバタースーツを着用。監視カメラ映像に移っていたのは中肉中背50代くらいの男性だ。アバター映像はいくつか所持してるようで、前回のとは異なっている」
「アバターのモデルはいるんですか?誰かに罪を着せようとかそういう意図は? 」
「解析したが、一件目、二件目共にツギハギだらけの合成人物だった」
大場と田所は大きなため息をついた。
「まぁ、そう悲観するな。新しい手掛かりはいくつかある」
そう言って、保立は右手で地面を指差した。
「
保立は傍らの鑑識ドローンを起動させると、搭載された高機能ALS(科学捜査用ライト)を照射し、目に見えない潜在足跡を浮かび上がらせた。歩幅、左右の足の間隔が広い不規則な足跡が見えてくる。
「そうだ。前回の現場にも同じ
足跡の踵の内側部を連ねる歩行線が不規則になるのは肥満者・妊婦・中年以降の女性に多い。両足を極度に拡げバランスを保ちながら歩くためだ。
「足跡の微物検査、靴の種類、メーカー等は法科学鑑定にデータを回している。少しずつ犯人に近付いているな」
保立はドローンのライトを消した。
「また、被害者の前科・前歴の項目は情報閲覧禁止事項となっている」
「……またですか」
大場が呆れたような声を上げる。
「あぁ、こっちは小野塚さんが解除要請中だ」
保立はP-Watchを叩くと、大場と田所の端末にデータ送付した。
「被害者は一度改名をしていてな。今送ったのが以前の名前だ」
【秘匿事項】氏名:
目の下にくまを作った田所が、悔しそうに唇を噛んだ。
田所の異変に気が付いた大場は、声をかける。
「田所さん、少しは眠れたんですか?」
「え? あぁ、一回家に帰ったけど、あんまり……」
疲れた様子で田所はぽつりと呟いた。
「俺がちゃんとタグ番号を引き出せてれば、事前に警護するなり、この人は死なずに済んだのかな……」
保立は溜息をつくと、大場に軽く目配せをした。
大場は小さく頷くと、思いっきり田所の背中をはたいた。
「ぁ痛って! 」
「気合入れてくださいよ。そんな辛気臭い面をしていたら、ホトケもおちおち成仏できませんよ」
田所は何かを言いかけたが、ぐっと言葉を飲み込んだ。
「……わかったよ」
いつも通りの調子を取り戻した田所に、保立は少し安堵の表情を浮かべる。
「うちの隠ぺい体質が生んだ被害者だな。俺たち警察全員の責任だ」
そう言って、保立は右手で田所の肩を軽く叩いた。
「やっぱり二人目も、七年前の河川敷の事件に関係してましたね」
「七年前? 」
田所の確信めいた発言に、大場が疑問の声を発する。
「すまん。お前にはまだ共有していなかったか、七年前に
保立が、やや慌てた様子で大場に補足説明をする。
大場は、その言葉に胸のざわめきを覚えた。
「……
「あ! あと、鑑識ドローンが見つけた遺留物も、まだ見てなかったよな」
そう言うと、田所は透明なビニール袋へ包まれた押収物を大場に見せた。
中にはペンダント型の緊急通報装置。三毛猫のチャームがついてある。
思わず息を飲んだ。
「どうした?」
血相が変わった大場に、保立は心配そうに声をかけた。
「あ……いえ、田所さん、もっとよく見せてもらっていいですか? 」
指紋がつかないよう白手袋に包まれた右手を伸ばす。手が、わずかに震えていた。
「え? うん」
怪訝な顔をした田所は、押収物を大場に手渡した。
心臓が早鐘のように鳴る。押収物を丁寧に確認した。
結果は……こんなことがあるだろうか……。
「……私は、この持ち主を知っています」
間違いなく大場が越子に渡したものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます