#2 - 第4話

 東京都心部、防犯Aエリア。

 横断歩道で信号待ちをしていた27歳の男が、白昼堂々背後から鈍器で殴りつけられ意識不明の重態となった。救急搬送されたが、頭部外傷による外因性くも膜下出血により間も無く死亡。

「人通りが多いエリアのため白昼堂々の犯行にも関わらず、人混みに紛れてまんまと逃げ仰たようです」

 映像通報で提出された記録と照らし合わせながら、小野塚は保立の報告を受ける。

 映像には、逃げる加害者の後ろ姿が収められていた。

「加害者の映像だけど……かすかにジャミングがかかってる気がする。アバタースーツ着用の可能性があるから映像解析を依頼しよう」

 保立は切れ長の目を細めて映像を再確認した。

「……本当ですね。映像解析に回します」

「頼むよ」

 歩道には人型に象られた白線が引かれ、その頭部には赤黒い血痕が数滴落ちている。

 一角を規制テープで区切り警備用ロボットに整備させているが、好奇心旺盛な人々は、背伸びをして中を覗こうと必死だ。

 聞き込みを終えた大場は、煩わしそうに野次馬たちを一瞥すると小野塚と合流した。

「凶器は何だった?」

 小野塚が問いかけると、大場は渋い顔をして天を仰いだ。

「目撃者の情報によると、ビニール袋に詰められた石ですね」

「石? その辺にでも投げ捨てられでもしたら……」

「考えただけで気が遠くなりますよね。今、鑑識ドローンを複数機手配しました。偵察に出してますが、凶器の特定に多少時間はかかると思います」

「分かった。どうもありがとう」

 続けて、田所が小走りで駆けてくる。

「小野塚さん、所持していた運転免許証から被害者の身元が分かりました。ただ、」

 田所は一度言葉を区切ると、自身の左手の時計型デバイス。通称P-Watchを叩いた。

氏名:瀬屋せや のぼる

「前科・前歴の項目を見てください」

「閲覧禁止事項……」

 小野塚は、思わず声に出した。

「恐らく被害者はタグ付きだと思うんですが、このせいでタグの番号が追えません」

 前科、前歴のある者は電子タグ装着が義務となるが、稀にこういうケースがある。

 小野塚は、眉間に皺を寄せた。

「どこぞのお偉いさんの息子さんかな」

 各省庁のキーマンに忖度して、警察の末端職員には情報閲覧制限を設けているのだ。

 こういう時の連携だけは、驚くほど強固で嫌になる。

「状況は理解した。田所くんは先に戻って、情報制限の解除を依頼してくれ。こっちは時間かかりそうだからさ……」

「分かりました」

 殺人事件の動機は大枠で四種類に分類される。

一つ目は怨恨。二つ目は痴情。暴行、ナンパ目的などの通りすがりの犯行と考えられるもの。三つ目が、男女関係のもつれ。四つ目が流し。被害者とは全く設定のない者による犯行だ。通り魔もこの四つ目に分類される。

 情報不足だが、幸いにも防犯Aエリアは他エリアに比べ監視カメラの量が多い。

「早急に近隣の管理会社から映像データを集め、加害者の絞り込みを行おう」

 残る大場と保立に指示を出し、映像データの回収を急いだ。

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