#2 - 第3話
刑事局 捜査一課 二係に割り当てられた執務室。
顔認証AIサーマルカメラに顔を寄せると虹彩認証により自動扉が開いた。
保立が足を踏み出すと、若手職員たちが慌てて姿勢を正す姿が見える。
「……お前たち、頼んでいた報告書の作成は済んでるんだろうな? 」
「い、今やってました」
「私もです」
それに対して、先刻の話題の中心。
ティーパックが入ったサーモマグカップに沸いたばかりの湯を注いでいる。
保立はため息をつきながら、タブレットを自席に静かに置いた。
「大場、先日のお前の行動で、またこっぴどく絞られるところだったぞ」
「先日ぅ? ……どの件ですか?」
大場は眉をしかめるとマグカップを片手に、はてと首を傾げた。
茶色のウェーブがかった髪が揺れる。
飲んでいるのは焙じ茶らしく、カップから芳ばしい茶葉の良い香りがした。
「ありすぎて、わかんねーよな」
けらけらと軽口を叩く田所を大場はじろりと睨みつけた。
「先日の婦女暴行の件だ! お前は手や足をすぐ出すが、後々のことも考えてだな……」
「まぁまぁ。今日は反省会で済んだことだし。対応物が遅延しないのならいいよ」
説教をはじめた保立を小野塚がすかさず諌める。
「小野塚さんは大場に甘すぎやしませんかね……」
「だって、良い仕事してるのも知ってるからね」
小野塚は窓を背にした自分のデスクにゆっくりと腰を下ろす。
「先日の被害女性の津村さん、大場にお礼を言っていたよ。退院祝いに携帯用の緊急通報装置と安全な帰宅経路のデータを作って贈ってあげたらしいじゃない」
保立と田所は驚いたように大場へ視線を注ぐ。
「津村さんにデータを見せてもらったけれど、犯罪統計と地図統計システムを併用分析していて適切な防犯ルートだったよ」
大場は居心地悪そうに視線を逸らした。
「だから最近一人で残って仕事してたのか……」
「いいとこあんじゃん」
突然の保立と田所からの賛辞に大場は小さく舌打ちをする。
「何なんですか、急に。別に褒められるようなことしてませんよ」
小野塚は鉄砲を放つようなそぶりで人差し指を大場に向けると悪戯っぽく笑った。
「照れてる」
「照れてません」
すぐに反論するも、大場の耳は心なしか赤い。
誤魔化すように小さく咳払いをした。
「彼女には必要だと思ったから渡した。それだけですよ」
小野塚が小さく微笑むと同時に彼の左腕のデバイスが緊急のコール音を響かせる。
執務室に一瞬にして緊張感が走った。
空中ディスプレイが表示され【応答】ボタンを押下する。
『臼井だ。矢継ぎ早にすまんが、都心部 防犯Aエリアでコロシがあった』
「分かりました。今すぐ二係で現場に向かいます」
『頼んだぞ。何かあればすぐに連絡をくれ。サポート体制は整えておく』
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
【通話終了】を押下すると、小野塚は切り替えるように一つ拍手をしてみせた。
「と、言うわけだ。急いで支度して現場に向かおう」
その一言に弾かれたように、全員備え付けの壁掛けフックから支給のジャケットを手に取り、袖を通す。
揃いの出で立ちに身を包むと、足早に執務室を後にした。
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