#1 - 第8話

 真っ白な長い廊下を、ストレッチャーが走る。

 四肢拘束され、口枷をつけられた毎田は背中に揺れを感じながら、唯一自由の効く目だけを左右に動かした。スクラブを着た職員はマスク、帽子を身につけている。

 ここは一体どこだろうか。覚醒しきっていない頭で考えるも、思考が散見する。

 両開きのドアが開く。中に手術台があった。

 職員は二人かがりで毎田を乗せると、流れるような動作で心電図、血圧計、パルスオキシメーター指につけていく。

 毎田が狼狽うろたえていると、右目の下に二つの黒子を持つ若い男が姿を現した。担当保

 監察官の男も一緒だ。左目に眼帯をしている。

 若い男が、毎田の顔を覗きこむ。

「これが、毎田孝行で間違いないですかね?」

 若い男はそう言うと、毎田の顔を指差した。

「はい、間違いありません」

 担当保護観察官は、片目に憎悪を宿らせながら毎田の顔を睨みつけた

「了解しましたぁ」

 軽薄そうな間延びした声を上げると、若い男は手持ちの紙の資料をぱらぱらとめくる。

「28歳。意外に男前なんだな。健康状態に問題なし……そんで更生の見込みなしっと……」

「はい。マイクロチップを体内に入れて位置情を攪乱していました」

「あー『ペテン』ですね。最近流行ってますよねぇ……それは取り除かないとな……」

 男は手持ちのペンで資料に手書きで追記した。

「分っかりました。次の引き取り手も見つかってるんで始めちゃってください」

 男は、そう言うと持っていた紙の資料を筒状にしてポンと掌に打ち付けた。

 それを合図に、オペ着に身を包んだ医療スタッフたちが一斉に動き出す。一人は毎田の口枷を外した。

 口の拘束を解かれた毎田は弾かれたように叫んだ。

「おい! っおい! これは一体どういうことだ! ……うぐ!」

 トータルフェイスマスクを顔にあてがわれ、すぐに酸素が注入された。

 続いて消毒された腕の静脈に留置針が刺される。点滴だった。

 すぐに強烈な眠気が毎田を襲ってきた。

 朦朧とする意識の中、黒子の若い男は毎田に耳打ちする。

「次に目が覚める時は、あんたは生まれ変わってることだろうよ」

 ―― どういう意味だ?

 薄れていく意識の中、男がバイバイと眼前で手を振るのが見えた。

 瞼が重い。限界だ。もう起きていられなかった。

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