第25話 王の生活
「はぃー。はひっ・・・」
ダンジョンマスターは畑を耕す手伝いをさせられていた。久々に運動したので汗だくだ。・・・何故?俺が人間の真似事など。
「どうだ迷宮主よ。これが人の営みだ」
「はぁー。はっ」
「労働は尊いものだと言った、昔の詩人の言葉を思い出すなぁ・・・」
こんなに体力を失っているとは。インプとして何百年間も労働をしていた頃とは違う・・・高位悪魔に進化して体の構造が変化したのだろうか。
「見ろ。我が国民は皆、生き生きとして見えないか?殺伐としていない・・・暗い地下世界とは違うところだよ」
「確かに。悪魔と人間の世界は違う」
「ああ。しかし、違うことばかりではない。逃れられない渦に巻き込まれる。王も平民も等しく」
確かに、全てが違うわけではないが、だからこそだ。お互いがお互いの利益になるように適応していくことは、受動的な結果であって原因にはならない。むしろ「理解したつもりになる事」が争いの発端になるのだ。
常に外敵や食料の危機に晒されているのはどんな生き物も同じなので、同じ境遇のもの同士手を取り合おうではないか。と王は言っている。だが、はっきり言ってそれは不可能だ。
あと、「王も平民も等しく」は方便だ。以前までのネバーグリムが他国と戦争をするときの主力は市民軍の力だった。だが毎年、農作物の収穫時まで戦争が長引くのでネバーグリム国軍という職業軍人が生まれた。
すると今度は、レディットやライラックなどの、ダンジョン攻略を行う軍事家を含めた国軍に対する高額の報酬が、税として市民への新たな負担に変わった。「死と税金」の二者択一。
王は常々、人の営みとは農事を行うことだと説き、内政第一を謳っているが軍事費は年々増している。彼は戦争が下手だとよく言われる。確かにそれは間違いじゃないがある意味これは幸運なことでもある。よくもわるくも「絶対的な権力者」でなく「市民の第一人者」である彼は、戦や暗殺によって命を落とす可能性は極めて低い。しかし、大抵このような中途半端な時代に即位した王は、病に倒れるか、くだらない醜聞によって失脚させられるか、寿命が尽きるかで最期を迎える。
そもそも何故、矛盾ともとれるような行動をとるのか。下手の横好きにしか見えないが、それは、「再生産を繰り返すだけでは社会の真の安定は得られない」とわかっているからだ。いずれそれが衰退を迎えることは、頂点から俯瞰していないとなかなか気づけない。人間の心情など知ったことではないが、その気持ちだけはわかってやれる。
エルバート王は本当に俺の事を友人だと思って接しているようだ。
ヒゲ面で、目尻が下がっていて、どこか優しげな印象の目をしている純粋なビエラ族の壮年の男性。彼には、残念なことに世継ぎがいなかった。また、彼の妻は十年前に亡くなっている。悪魔に殺されて。
俺と王が通じていることなど何一つもないが、少なくとも他のどの人間よりも理解できる生き方をしている。
ダンジョン構築の技術を城の防衛目的に転用できるかわからなかったので、基本的な防衛戦略について忠言を与えることにした。
城の軍事家たちにこれを聞き入れさせるのは難しそうだったが、そこは俺の仕事ではない。エルバート王に任せればいいだろう。
所変わって――――。
最近何かと人間の世界に馴染んでいるダンジョンマスターを心配している者がいる。
彼女にとって人間の世界は、無駄にだだっ広く、明るく、生き物が多く、空気は汚く不快極まりない世界だったが、彼女は、彼女の持つ使命のために人間の世界に暮らして情報を集めている。
「ダンジョンマスターさま~?どこですか~?」
ブレイズはライラックに同伴しパーティに参加していたが、ダンジョンマスターが近くにいることを聞きつけて彼を探していた。
「空から探した方が早いか・・・」
バレたら一大事だが、彼女は自分の衝動を抑えられなかった。
ダンジョンマスター様の完璧で神聖な体に、人間世界の汚い空気が充満する。彼女にとってそれは形容しがたいことであるが、不快な事だった。ふわふわの何かしらに泥だらけの何かしら(とにかく汚い)をあしらうような、不快な、とても不快な状況だった。
「・・・あれか?」
空から、ダンジョンマスターと似た体格の人物を見つける。
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