第26話 ターゲット
「ダンジョンマスター様!」
「・・・!」
ブレイズが空から見た人物は、体が細く、長身で色白の男性だ。
ダンジョンマスターの見た目とよく似ていたので勘違いしたが、それは全くの別人だった。
「誰だ?」
「・・・っ。(しまった、別人か)」
「どこから現れたんだ?」
その男は、王弟のマテウスだった。
体つきは似ているが顔は全く違う。人間と迷宮主を間違えるとは、何たる不覚かとブレイズは思った。
「最近この庭園には知らない人間がよく入り込む。警備はどうなってるんだ」
「・・・・・・・すみません。道に迷ってしまって」
ブレイズには、すぐにでも目の前の男を焼き殺す準備が出来ている。
騒ぎを起こすべきではないだろうが、城に悪魔が入り込んだと噂になれば、ダンジョンマスターにも迷惑がかかる。
「迷った?そんなに入り組んだ構造にはなってないと思うが。・・・よければ案内しよう」
どうやら空から飛んできたことはバレていないようだ。
「ええ。お願いします」
相手は自分を城の来賓者だと思っている。隙を見て逃げ出すか、そのまま城の出口まで案内してもらおう。
「君・・・」
「なんでしょう?」
「・・・名は、なんというんだ?」
「私ですか。私はブレイズといいます」
名乗った直後、彼女は後悔した。
「"ブレイズ"だって?」
それは、明らかな彼女の失態だった。"ブレイズ"などと名乗れば、相手の男は城の中を娼婦のような名前の人間がうろついていると思うことになる。
「あっ・・・えっと・・・」
「変わった名だな。しかし、悪くない名だ」
「え?」
ただし、その心配は必要なかった。
マテウスの性格が幸いした。彼は、人を疑うことに対し、あまりに無頓着だったのだ。
その後、お互いの身の上については触れられることなく、他愛のない話が繰り返された。
ブレイズは仕事の癖で相手から話を引き出そうとするが、出てきたのは地上の神学論についての退屈極まりない話で、彼女にはちんぷんかんぷんだった。
「それでは。話せて楽しかったよ」
「どうもありがとうございます」
「また話せるか?今度は私の客人として来てくれ」
「え、ええ。構いませんけど」
ブレイズは何となく想像がついた。
彼女は今まで生きてきた経験から、人を見る目に長けているのだ。この男が、潔癖で思い込みが激しく、一度信じ込むと何を言っても自分を曲げない人間だろうということが、容易に想像できた。
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