第3話 侵入者
ダンジョンの拡張は悪魔的なスピードで進んでいった。
デビルロードの管理下にあるインプの仕事ぶりは素晴らしいものだ。
俺はダンジョンが巨大化するに従い、この世界を滅亡させることの可能性を考えるようになった。それは、俺に濡れ衣を着せたあの神に対する復讐でもある。
そのためには、悪魔たちをもっと強化する必要がある。
虎視眈々と・・・この地下迷宮に悪魔だけの王国をつくる。
いつかここから這い出て、地上の人間たちを地獄に引きずり降ろしてやるために。
「ダンジョンマスター様。ダンジョンに侵入者が現れました」
デビルロードが魔眼で侵入者の存在を確認した。
「ダンジョンって、暗いしジメジメしてるわね」
「黙って進め、アルテミアの娘。ここまで来たらなんとしてもダンジョンコアを持ち帰るぞ。そうすれば王様からたっぷり褒美をもらえる」
二人の人間がダンジョンに侵入した。こちらから出向く前に人間の方からやって来るとはな。まあ大方予想通りだが。この巨大なダンジョンが発見されるのも時間の問題だった。
奴らはダンジョンコアを狙っているようだ。ダンジョンにダンジョンコアが必ず存在するのは周知の事実。
しかし、人間は悪魔ほど魔力の扱いには長けていない。コアを手に入れたところで持て余すだろう。人間がダンジョンコアを狙うのは何故だ?
「まあいい、どのみち渡すつもりなどない。かかれインプたち!」
「ギピー!」
「ぎぴぴ・・・(・・! あの男、悪魔と同じニオイがするぞ?)」
「お出ましかインプどもめ。おい、アルテミアの娘!出番だぞ」
「それやめてくれる? "ブレイズ"って名前があるんだから」
ブレイズという人間の女は、炎魔法を唱えてインプたちを消し炭にした。
「インプでは歯が立たないか・・・」
ブレイズという女は、人間の中ではかなり高い魔力を持っているようだ。
俺の魔力量は、この女とは比べ物にならない巨大なものだが、ダンジョンマスターの魔力はダンジョンを作る為にしか使えない。正確には、全く使えないこともないが、消費しすぎるとダンジョンが決壊する恐れがある。そんな危険は冒したくない。
俺は黙って見ているしかない。
「私が行きましょう」
「あ、ああ・・・。では頼んだ、デビルロード」
迷宮の奥から現れたデビルロードを見て、男の方の人間がブレイズに注意を促した。
「・・・! 気をつけろ。人間の姿をしているが、やつも悪魔だ。今度はインプたちのようにはいかないぞ・・・」
「わかってる」
「愚かな人間よ。ダンジョンマスター様の魔力が宿った神聖なる迷宮に足を踏み入れたな」
デビルロードはダンジョンマスターと同じ人間に対する憎しみの感情を持ち、そのため、彼らを蔑むような口調でそう言った。
「どこが神聖なのよ。暗いし、ジメジメしてるし、陰気くさい空気しか感じられないけど」
「貴様には理解できまい」
ブレイズは魔法で攻撃するが、彼女の発した炎はデビルロードの魔眼の力により、煙となって消え失せた。
「うそでしょ・・・あの眼が・・・。く、くそっ!」
彼女は、魔眼の悪魔に本気の魔力で対抗することを決心した。魔力を限界まで振り絞り、ダンジョンの一区画に巨大な炎の竜を召喚する。
「・・・」
「ギュピー!(火事だぁー!)」
しかし、デビルロードの冷たく光る灰色の魔眼を見た竜は、一瞬で負けを悟り、自分で自分の首を絞めつけて自害した。
「まさか・・・」
余力のなくなったブレイズと、傍らで見ていた、ただの付き添いに過ぎない男の冒険者は、インプの軍勢にリンチにされる。
「ふっははは!さすがだデビルロード。インプたちよ、やつらを殺さず拷問室まで運べ」
「ぎぴぎぴ(了解しました)」
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