第9話 黒竜の襲撃

 ユーリは、森の入り口まで来たところでぴたりと足を止め、雨具の頭巾を引き下ろした。

 昨夜、マリアベルたちが「精霊寄せ」のための陣を作っていた場所だ。雨に濡れた地面に、その時の石積みがまだ、残されている。

 竜はそこにいた。

 灰色の、細長い蛇のような体躯と黒っぽい模様、それに赤く血のような色に染まった瞳。体は鎧のような大きな鱗に覆われ、動くとカラカラと硬い音を立てる。

 「――大きいわね」

追いついてきたマリアベルが、剣を抜きながら呟く。

 通常の竜よりも一回りほど背が高い。それに、細長い。額の精霊石の位置ははっきりと見えているが、蛇のような長い体は左右に揺れ動き、狙いづらい。気配からしても、かなりの力を持つ難敵のようだ。

 「あんたたちのせいだぞ」

ユーリは、僅かに恨みがましい口調で呟く。

 「わたしたちの? どういうこと」

 「不用意に精霊を引き寄せた。それを追って、竜も――」

 「そんな、まさか。一晩経ってるのよ? 今更」

 「最初に集まって来ようとしてた奴らは、おれが脅して追い払っておいたんだ。昨夜」

 「ええっ?」

あっけにとられているマリアベルの後ろで、ニコラも、同じような表情になっている。

 「どうして、そんな大事なことを今まで言ってくれなかったんです」

 「意味がないからだ。あんたたちを責めて、反省させてどうなる? やってしまったものは仕方が無い。それより、脅して何とかなる範疇を越えたやつまで引っ張られてきたのが、計算外だった」

そう言って彼は、諦めにも似た微かな笑みを浮かべてマリアベルのほうを見やった。

 「あんた、素質は在るんだよ。精霊を呼び寄せる――惹きつける力は」

 「それは…どうも…。」

 「って、良い雰囲気で話してる場合じゃないですよ!」

ニコラが大慌てで騒いでいる。

 振り返ると、ちょうど首をもたげた竜が、こちらに向かって攻撃の体勢を取ろうとしているところだった。

 「気をつけろ。あいつは毒を吐いてくる」

 「え?! そうな――きゃっ」

言い終わらないうちに、蛇のような形状をした竜が顔を振った。とっさに飛び退ったものの、さっきまで立っていた場所の地面が鋭く抉られている。

 「尾の部分の硬い鱗で攻撃してくるようですね。迂闊に近づけそうにない」

 「…あいつの動きを止める。毒は”盾”の術で受け止めて、その剣で急所を叩け。」

ユーリは手慣れた様子で、後ろにいる二人にそれだけ言い残すと、さっさと一人で竜に向かってゆく。

 「ちょっと、君は?! 一人で行かないで!」

 「何か策があるのかと。姫様、ひとまず、ここは彼の言うとおりに」

ニコラは、大急ぎで”盾”の精霊術の準備にかかっている。

 「…仕方ないわね」

頷いて、マリアベルも剣を構えながら竜の急所を見上げた。薄暗い闇の中、精霊石の位置だけは、うっすらと輝いて見える。

 ユーリが近づいていくと、竜は、あからさまに注意をそちらにだけ向けた。マリアベルたち二人のことは視界に入っていないようで、ひどく警戒しているのがはっきりと分かる。


 以前、ここで火竜と戦った時と同じだ。

 どうやら暴竜たちにとって、彼は、よほど厄介な相手らしい。互いに攻撃の間合いを計るような緊張感がある。


 先に動いたのは、竜のほうだった。

 長い体をくねらせ、大きく口を開いて目の前のちっぽけな青年を一気に丸呑みしようと試みる。だがユーリのほうは、まさにその瞬間を待っていたようだった。

 指先が輝き、待機させていた精霊術が展開されていく。

 鈍く輝くの綱が空中に広がって、竜の体を頭から絡めとり、ぐいぐいと縛り上げていく。

 「”拘束”の術?!」ニコラが、驚きの声を上げる。「まさか、そんな力技で…」

 「今だ、やれ!」

ユーリが怒鳴った。

 はっとして、マリアベルはニコラのほうに視線をやり、準備が整っているのを確かめると、剣を構えながら走り出す。

 縛り上げられながら、竜は首を捩り、苦し紛れに口を開いて、何か液体のようなものを吐き出した。だがそれは、ニコラが準備していた”盾”の術に防がれ、マリアベルまでは届かない。

 首は地面近くまで押し下げられ、体は術でほとんど身動きとれなくなっている。急所は目の前。

 竜殺しの剣の刃が、精霊の力を宿して青白く輝く。

 「――やあっ!」

一声、気合いとともに叩きおろした剣は、細い枝のような角を切り落とし、額の精霊石の表面に斜めに突き刺さる。

 「ピ、ピィイッ!」

竜はまるで鳥のような悲鳴を上げ、最後の力を振り絞るように大きく口を開き、牙を剥く。


 しか――、そこまで、だった。

 牙をむき出しにしたまま、瞳が色を失い、首がゆっくりと落ちていく。

 ”拘束”の術が解けるとともに、竜の体を構成していたマナが四散して、灰色の蛇のような体も、牙も、角も、硬い鱗も、全てが消えてゆく。

 マリアベルがそれを見つめていると、ユーリが駆け寄ってきた。

 「迂闊に近づくな。危ないぞ」

 「え?」

 「毒がまだ残っている」

言うなり、ユーリは両手の上に大きな炎を生み出した。ニコラがぎょっとするほどの熱が辺りに放射される。

 「ちょ、ちょっと。何をしてるんです?」

 「焼き払えば無害化できる」

言いながら、彼は平然と炎を足元に落とした。

 じゅうっ、という音とともに、いやな匂いのする煙が風に乗って流れ去ってゆく。さっき竜が吐きつけた毒を、雨水ごと強制的に蒸発させているらしい。

 「…この雨の中で、よくそれだけの炎を」

ニコラはもはや呆れて、半笑いだ。

 「やはり、火の精霊術も使えるんですね。不得意な系統というものは無いんですか? 徴兵逃れを誤魔化すにしても、これだけの戦力が今まで隠れていたと知られたら、それだけで大騒ぎですよ」

 「……。」

ユーリは、軽く唇を結んで、迷うような間をおいて、再び口を開いた。

 「使い方は…母さんが教えてくれた。それに、マナの濃いこの森には自然と竜が集まって来る。実戦経験なら、嫌というほど積まされた」

 「なるほど? つまり君は、ここで人知れず、ずっと竜退治を続けてた、ってわけ? でも、この剣が無いとトドメは刺せないでしょ」

マリアベルが、まだ青白い輝きを残す”竜殺し”の剣を掲げて見せると、ユーリはあからさまに嫌な顔をして後ずさった。

 「その剣、…近づけるな」

 「あら、刃物が苦手なの?」

 「そういうわけじゃ…無いんだが。嫌な感じがする」

 「ふうん? そんなこと言う人、初めてだわ。」

剣を鞘に収めると、ユーリは、ようやくほっとした表情になる。

 「その剣、どこかの町で作られてるって話だったよな? 一体誰が、どこから、そんな技術を?」

 「鉄苗ティーミャー族、っていう鍛冶屋の一族が持ち込んだ技術よ。彼らは東大陸から逃げて来た人たちなの。これを作れるのは彼らだけ。大陸を追われる前のご先祖様が開発した、って聞いているけど」

 「それにしても…。」

ユーリは、どこか納得していない様子だ。

 「それより、わたしのほうの質問に答えて。いくら凄腕の精霊術師でも、精霊の一種である竜に精霊術ではトドメは刺せないはずよ? 今まで、どうやっていたの」

 「…”幻影”の術を使ってた。」渋々と、彼は説明した。「こちらのほうが強そうか、同等だと思わせられれば退く。この森の濃いマナをうまく誘導して竜の形を作れば、そこに強力な竜がいるような錯覚を抱かせることは出来る」

 「そんなことが出来るの?」

 「短時間ならな。前回や今回は、おれに注意を向けさせるために使ったが、姿を見せずに巧くやれば、わりと騙されてくれる。もちろん、本当に強い竜には当然ながら意味がない。」

 「うーむ。にわかには信じがたいですが…。」

ニコラは、腕を組んで考え込んでいる。

 「もしかして、あなたはそうやって、ずっと戦いを回避してきたんですか」

 「ああ。戦いたくないんだ…。戦わずに済むなら、そのほうがずっといい」

青年は、ぼそぼそと頼りなく呟く。

 「そんなに強いのに、勿体ないわね。」

 「強い奴同士が戦ったら、周りの弱い奴はどうなる?」

不意を突くような言葉に、マリアベルは、思わず返答に詰まった。

 「かつて、ここで何が起きたかは、あんたたも十分に知っているはずだ。」

 「それ、は――。」

 「戻るぞ。そろそろ、イングリットあたりが騒ぎ出す。」

雨具を直しながら、ユーリは、何事も無かったかのように踵を返す。まるで、今夜のようなことは今までに何度もあった、と言わんばかりだ。

 実際に、そうだったのだろうが、――それでも、普通の”竜殺し”なら倒すまでに死闘を繰り広げそうな相手を倒したというのに、何の感慨も無いのには驚きだった。


 けれど、すんなり館に帰してはもらえなかった。

 廃虚と森の入り交じるあたりを通過しようとした、その時。

 ユーリがふいに、表情を強張らせて立ち止まった。

 「どうしたの?」

只ならぬ緊張の気配を感じて、マリアベルが尋ねる。だが、彼はマリアベルの言葉が聞こえていない様子で、虚空を睨むように見上げる。

 「まさか、奴が…。」

 「”奴”?」

 「あっ」

ニコラが小さく声を上げ、大慌てで”探知”の精霊術を広げた。

 「これは…別の竜が凄まじい速度で近づいて…いや、既に近くにいる?!」

二人は同時に上空を見上げていた。

 一呼吸遅れて頭上を見やったマリアベルも、思わず息を呑んだ。

 「嘘…」

そこに、中空に、星のない闇夜に溶け込むようにして漆黒の竜の巨体が浮かんでいたのだ。

 真っ黒な体、先程倒した竜と同じ血のような赤い色の瞳。それに、――額には捻くれて絡み合う、太い棘のような四本の角。

 何者とも似ていない、恐怖を掻き立てる異形の巨体。

 こちらを見下ろし、嘲笑うかのように微かに口を開いた。ぞくり、とする感触が、背中から駆け抜けてゆく。


 忘れるはずもない。

 忘れられるわけもない。

 二年前のあの夜、突然飛来し、瞬く間に王都を破壊し、焼き尽くしていった恐るべき暴竜――。

 ”狂喜の尖晶石ラプチャー・スピネル”。


 本能が危険を告げる。恐怖に射すくめられて、体が動かない。

 本当なら、回れ右をして一目散に逃げ出したいくらいだった。だが、一瞬だけ浮かんできたそんな感情は、その後から込み上げて来た激しい怒りによって上書きされていった。

 「おのれ…」

母の、そして多くの人々の仇。ずっと憎んできたその竜が、今、再び目の前にいる。

 胸の奥にくすぶり続けていた思いに火が付いた時、マリアベルの怒りは瞬時に頂点に達していた。

 「よくも…お前のせいで!」

 「危ない、姫様!」

ニコラが止める間もなく、彼女は、感情のままに黒竜めがけて飛びかかっていた。

 けれどもちろん、その攻撃が急所に届くはずもない。

 黒竜はこともなげに尾を一振りし、彼女の手から剣を弾き飛ばすと、まるで玩具のように安々と叩き折る。

 「そん、な…」

 「姫様!」

駆け寄ろうとしたニコラの頭上で、禍々しく、空気の動く気配がある。

 「二人とも、早く下がれ!」

ユーリの怒鳴る声と同時に、視界に火花が飛び散った。

 轟音とともに熱風が押し寄せて、足元の雨水が瞬時に蒸発する。はっとしたニコラが構えようとするが、それよりも早く、ユーリが体の前で腕を交差させて二人を庇っていた。

 「ユーリ!」

灼熱の息を吐きつけられたのだと気づいたのは、熱風が過ぎ去り、炭化したユーリの上着の袖がぼろぼろと崩れ落ちてからのことだった。

 周囲の草も木も、廃虚の石積みさえも、溶け落ちて蒸発しかかっている。

 「……くそ」

さすがのユーリも、一発耐えるので精一杯のようだ。腕に嵌めた精霊術のための腕輪が熱を帯びて、微かに湯気を立てている。出力の限界まで力を使ったせいだ。

 「いま、加勢を…」

 「無駄だ。」

苦しげに歪んだ表情で呟きながら、青年は、こんな時でも冷静だった。

 「これを、頼む」

それだけ言うと、力を貸そうと駆け寄ってきたニコラの手に外した腕輪を置いた。


 通常、腕輪は精霊術を増幅するために必要なものだ。それなのに、この状況で外す?


 問いかけを発しようと口を開くより早く、ユーリは、短く言った。

 「庇う余裕は無い。森の入口まで死ぬ気で走れ」

頭上では、黒竜が息を吸い込み、次の攻撃に移ろうとしている。ニコラは言葉を飲み込むと、素早くその場を離れ、マリアベルの手を取って、彼女を引きずるようにして走り出した。

 「待って! 彼一人じゃ…」

 「姫様、早く!」

二人の背後では、ユーリが中空を見つめたまま佇んでいる。構える素振りさえない。

 このままでは――。

 そう思った時、視界に再び、火花が飛び散った。


 ニコラが”壁”の精霊術を展開し、マリアベルを背中に庇おうとする。だが、直撃はしていないはずなのに、とてつもない熱と風が押し寄せて、術はあっという間に破られ、二人はほとんど同時に吹き飛ばされてしまった。

 地面の上を転がって、なんとか止まったのは窪んでいるあたり。

 「う、くっ」

全身の痛みに耐えながらなんとか起き上がると、マリアベルは、すぐ傍らで廃虚の壁に突っ込むようにしてうずくまっているニコラに駆け寄った。

 「ニコ?! 大丈夫?」

 「な、…んとか」

ニコラは顔を歪め、脂汗を浮かべながら、自分の脇腹に治癒の術をかけている。

 「アバラを何本かやられましたかね。いやあ…ここまでとは…」

 「喋らないで。早く、ここを離れ――」

言い駆けた時、マリアベルはふと、足元に光が射していることに気がついた。

 「――あれ?」

見上げると、さっきまで頭上を覆っていた雨雲が途切れ、静かな星空の中に輝く月が浮かんでいる。

 それに、熱風を食らったあと、次の攻撃のくる気配がない。

 振り返った彼女は、そこに、信じられないものを見出していた。


 真っ白な竜だ。

 いつの間にそこに現れたのだろう、さっきまでユーリが立っていたあたりで、じっ、と空に浮かぶ黒竜を見つめている。

 金色に似た琥珀色の輝きを宿す瞳と、同じ色の煌めきを纏う体。

 鳥の羽根に似て、ただし半透明で、蝶のようにも見える翼。

 人のようでも、獅子のようでもある長い手足。

 その体は黒竜と同じく、他の何者にも似ていない。普通の竜たちのおよそ三倍はあろうかという巨体は、黒竜とほぼ同じ大きさに見える。だが、不思議とこちらからは恐怖のようなものは感じない。


 美しい。


 ただ、そうとしか感想を抱けない。

 それは、今までに見てきた竜たちの対極にあるような、全く異質な存在だった。

 空に浮かぶ黒竜の騒がしい羽ばたきや、おぞましいほどの気配とは裏腹に、地上にある白竜のほうは、異常なほどの静けさ――”静謐”とでもいうべき気配を纏っている。


 「まさか、あれが…」

二人は、ごくりと息を呑んだ。

 額から映える角は、確かに四本。そのうちの二本は蔓の絡まったような複雑な形で、額の精霊石の周囲に丸く広がり、残りの二本は、優美な曲線を描きながら後頭部ほうへ向かって流れている。

 間違いない。

 「”不可侵の琥珀インヴィオラブル・アンバー”……。」

マリアベルも、ニコラも、今の状況を忘れてしばし、その姿に見入っていた。


 二体の竜はしばらく睨み合っていたが、やがて、黒竜のほうが退いた。

 蝙蝠のような骨ばった翼を大きく振り上げるると、向きを変え、夜空の向こうに溶けるように遠ざかってゆく。

 戦いは、起きなかった。




 黒い異形が夜に溶けるようにして見えなくなるまで、白竜は微動だにしなかった。

 それがようやく動き出した時、止まっていた時が息を吹き返したようにさえ感じられた。

 白い竜は、ゆっくりとマリアベルたちのほうを振り返る。穏やかで、全く敵意を感じない眼差しだ。

 「…助かったの? わたしたち」

 「の、ようですね」

自分にかけていた治癒の術があらかた終わったニコラが、廃虚の壁に手をつきながら体を起こす。

 「ところで――ユーリさんは?」

はっとして、マリアベルは辺りを見回した。

 いない。

 「ユーリ?!」

慌てて、彼女は名前を呼びながら駆け出した。まさか、あれだけ強かった青年が、こんなところであっさりやられるはずもない。

 それなのに、どこにも姿が無い。

 「嘘…」

ほどなくして、彼女は、炭化した木の隙間に引っかかっている、ぼろぼろになったシャツとズボンを見つけた。中身の、人間の肉体は影も形もない。

 「…そんな」

思わず、足から力が抜けた。

 ぺたんと地面に座り込んでしまったマリアベルの足元に、近づいてきた竜の、大きな影が落ちる。

 「どうしよう、彼が…わたしが、余計なことしたから…」

瞳の端に涙が浮かび上がるのを見て、竜は、琥珀色の瞳で困ったように彼女を見つめた。

 それから、そっと指先で服をつまみあげ、何か思案するように周囲を見回すと、不器用に歩いて樹海の端に消えていった。

 「……?」

茂みの中で、何か毒づくような声が聞こえたような気がしたのは、気の所為だったのか。

 ほどなくして、そちらからユーリが姿を現した。さっき竜が持ち去ったボロボロのシャツとズボンを身に着けている。

 「…え?」

 「え?!」

マリアベルもニコラも、何が起きているのか分からず、唖然としている。

 「腕輪を…」

ニコラが預かり物の腕輪をおずおずと差し出すと、彼はそれを元通り自分の腕に嵌めて、はあ、と一つ溜息をついた。

 「疲れた…死ぬかと思った。」

それだけ言って、胡乱な足取りで屋敷のほうに向かって歩き出そうとする。

 「ちょっ、ちょっと待って? あなた、本当に――本物のユーリ?」

 「ああ」

 「生きてるの?! どうして!」

 「…とりあえず、帰ってからでいいか?」

彼は、振り返りもせず、心底疲れたような口調で呟いた。

 「まあ、いずれバレるとは覚悟してた…」

 「……。」

わけもわからず、マリアベルは、ただ頷くしかなかった。


 雨は止み、晴れ渡った月夜が頭上に広がっている。

 確かなことは、黒竜の襲撃を受けてなお、自分たちがまだ、無傷で生きているということ。

 そして、この夜、探していた白竜の姿を、確かにこの目で見た、ということだった。

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