第16話 いやーな感じ


「さぁ、そろそろ行くか!ここからなら、数分走れば着くぞ。」


 「走っていくんですか....?」


 「あたぼうよ!走っていかねぇと、今も村が襲われてる可能性も有る。」


 「この村を...担当した時...小鬼は夜しか出ない筈なんだけど、一度だけ、昼間でも出てきた事があったからね。」


 「なるほど。僕達も冒険者として学ぶ事が多く有るね。」


 「先輩として、冒険のいろはを教えてやるさ!」


 「ザールはそう言って、前のパーティの子達にろくでもない遊び教え込んでたよね...」


 「がはは!サンドラにはバレてたか!」


 このパーティは良いパーティなんだろう。幸せそうで、家族みたいだ。


 「俺が前衛をするから、お前らは後ろから着いて来い。索敵は任せろ!」


 ザールさんの後ろを皆が付いて行く。


 前を走る三人の走り方と、私達の走り方は何か違う。三人は楽そうにぐんぐん進んでいく。それに対して私達は既に息が上がっている。


 「走る時は出来るだけ息をしっかり吸って、無駄な動きをするな。」


 ザールさんは前を向いている筈なのに、私達に走り方の指導をしてくれた。


 「空気の抵抗を減らせ。」


 おっ!体が軽い!


 アドバイスは的確で、スピードが上がり、効率よく体を使えるようになった。


 走って数分だったが、その間にも冒険のコツや料理の仕方等、沢山の事を教えてくれた。


 「よし!着いたな。村に着いたらまず長老に挨拶しに行くのが筋だ。」


 前から一人、籠を持った女性が近づいてきた。


 「ああ、ザールかい。また来てくれたんだね。前倒して貰ったばかりなのにもう出たのさ。これじゃ金も無くなって依頼を出せなくなっちまうよ....」


 どうやら知り合いのようだ。ここの村へは何度も来ているんだな。


 「そうか....長老の所に行ってくる。」


 「よろしくねぇ。」


 「多分小鬼の巣が近くに有るんだろうな。」


 「魔物は巣を作るんですか?」


 「そうだ。大抵は空気中の魔力濃度が高まって発生するんだが、生殖でも増えるんだ。」


 「それは厄介ですね。巣から壊した方が良いんじゃ無いですか?」


 「んー、私達はここの小鬼討伐で生活出来てるし、村の金が尽きるまで依頼を受けたいから巣は壊さないよ。」


 「うん...私達はこの村の依頼で生きられているの...」


 巣を壊さないと小鬼はまた村に出る。依頼を出せなくなったらこの村は小鬼によって潰されるだろう。


 沢山の村人の命が犠牲になる。それをお金の為に見捨てるのは....


 「でも、この村の人はどうなるんですか?」


 ナーフは尤もな事を言ったと思う。


 「さぁ?依頼できる限り助かるんだし、巣を壊してくれって言う依頼じゃ無いから俺らはただ出てきた奴を倒すだけだ。」


 「そうよ。巣に気づかないのが悪いわ。巣を壊してくれって依頼しないと、私達もやらないわよ。」


 魔物の生態に疎いただの村人に巣がある事を気付けと言うのか...


 「多分皆んな気づいて無いのです。知らせてあげないのです?」


 ミーヤは魔物に村を壊されている。村人たちが心配なのだろう。


 「そんなの知らないもん。知識がないのが悪いわ。」


 「...っ!今まで良くしてくれていたのでしょう?あのおばさんだって、気さくに話しかけてくれて...!」


 「...別に私たちが喋ってくれって頼んだ訳じゃないし...」


 「サンドラの言う通りだ。」


 慈愛の心が無い世界....


 「あっ!勝手に巣壊したら許さないからね?私達の収入源がなくなるじゃない!」


 「わかったか?さっさと仕事に移るぞ。依頼の通りに働けば良いだけだ。」


 私達三人は、顔を見合わせて、怒りを通り越して驚いていた。


 「村の宿はギルドが取ってくれてるから、そこに荷物置いて来い。十二時になったら森の入口で集合だ。」


 そして、別れて宿に行く事になった。


 「あの人達、良い人に見えたのにね。」


 「村人を見捨てるなんておかしいのです!」


 「お金の為にわざと助けないなんて....」


 神様が嘆いていた意味が、獣人差別や今の一件で分かってきた気がする。


 「あの人達には巣を壊すなって言われたけど、壊しちゃおう!」


 「そうだね!それがいいと思う。」


 「賛成なのです!」


 村を見捨てるのは無理!やっぱり救いたい。神様も見てるだろうしね。


ーーー十二時


 「おお!速いな。」


 「小鬼にそんな力入れなくて良いわよ?」


 「ははは。」


 こう言う怒りが顔に出てしまいそうな時、ナーフはいつも前に出てやってくれる。


 ありがたい...


 ミーヤもシャーシャー言いそうな勢いで怒っている。


 「じゃぁ、行くぞ!」


 怒りを何とか隠し通し、森へ進んでいった。


 「小鬼は人間で言う五歳位の知能が有るから、木の影に隠れて襲ってくる事もある。」


 「サリーは油断して攻撃食らってたよね...」


 「んなっ!違うわよ!あれは...!」


 「まぁそう言うこった!気をつけな。」


 「僕も小鬼は住んでいた所の近くの森に出たから良く知ってる。」


 ナーフに教えて貰った情報を纏めると、


 「小鬼」

 ・五歳程度の知能を有する。小さいが、集団で襲ってくる。ボロ布を腰に巻いている。


 「小鬼魔法士」

 ・他の小鬼より知能が高い。初級魔法を放ってくるが、威力は弱い。ローブを着ている。


 「小鬼戦士」

 ・棍棒を持っており、力が強い。


 「小鬼騎士」

 ・盾と剣を持ち、小鬼王を守護する。


 「大鬼」

 ・木を折れる程力が強い。1.7〜2mある。


 「小鬼王」

 ・小鬼に指令を送り、時には千以上の小鬼を統べる。


 「大鬼王」

 ・小鬼も大鬼も小鬼王すらも支配し、一万の大軍勢を作る事もある。

 

 と言う種類の小鬼が居るらしい。


 「今回倒すのは小鬼だろうな。小鬼以外の魔物が出るのはレアだ。もし騎士でも出てくれば、小鬼王が居る証拠だ。ハッハッハ!」


 「小鬼王どころか、騎士すらここ数十年聞いたこと無いから、出る訳無いのよ。冗談はやめてよね!」


 「ザール、サリー、無駄話してないでササっと今日の分片付けちゃましょ....一週間も働かないといけないんだから...」


 「わかったぜ。前方10mから魔力反応。恐らく小鬼だ。」


 「私が射抜くわ。」


 「<弓射>!」


 サリーが構えた弓から矢が放たれた。


 ギャァゴ!


 数m離れた茂みから悲鳴が聞こえた。

 そこまで歩いて行くと、小鬼が頭を貫かれて倒れていた。


 「ふふん!どんなもんよ!」


 「凄いです!サリーさん。」


 ナーフは完全におだてにかかってる...


 「うふふふ。そぉお〜?」


 それに騙されるサリー...ナーフやっぱ怖っ...


 ナーフは美少年スマイルのままだ。


 「おい!また来るぞ、三匹同時だ!」


 ピュンピュンピュン


 サリーの弓から矢が三発放たれた。


 グァァ!ギャァ!


 二匹は仕留めた様だが、三匹目は居なかった。


 「後ろに居るぞッ!」


 ピリッ


 「ふん!」


 後ろの木に隠れ、襲いかかってきた小鬼を斬った。


 グァァァァァ


 「へっ、やるじゃねぇか。」


 「魔石ここに入れて下さい...あと十六個で今日は終わります...。」


 「よし!あと十六匹やるぞ!今日は浅いとこまでで集まりそうだ。更に前から一匹!!」


 「「「おぉっ!!」」」


 「なのです!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る