第12話 奴隷の少女

まだ二時だけど、こんなに稼げたし今日は休む?」


 一日で金貨十枚も稼げてしまった。このペースで稼げれば、一生楽に暮らせてしまう。


 うはうはだーー!冒険者って夢があるなぁ!

 アレ?さっきは夢が無いと言った気がするけど、まぁいっか!


 「店を見て回ってみようよ!」


 「そうだね。服をまだ買っていなかったし、いろんなお店を見ながら買いに行こうか。」


 この服、ずっと着てるけど大丈夫かな....新しいのにしたい。


 若干怖くなるくらい着ていたので、ナーフの提案はありがたかった。


 やっと着替えられる...新品の服!!


 家具屋、装飾品屋、料理屋等、沢山のお店が並び、そのどれもが人で賑わっていた。


 あれ、あの店だけ人があんまり居ないな。


 「ナーフ、あそこって....?」


 「何だろうね?入ってみようか。」


 ここらで一番大きい店だが、人は居ない。


 テントの様になっていて、入口を潜り、薄暗い中へ入っていった。


 「ようこそ!お客様。こちらはダゴミ商会で御座います。カカカカ!」


 小さく、小太りの陽気な男が出てきた。シルクハットを被り、高そうだが、だらしなくスーツを着ている。


 ダゴミ商会...確か奴隷商の元締めだ。騎士団と揉めてるとか言ってたか....


 「どういった奴隷が必要ですか?戦闘用、労働用、趣味用の奴隷などなど、多数揃えておりますよっ!」


 「必ずお客様のご意向に沿うと思いますです。はい。」


 「いえ、奴隷を買う気はなくて...何の店か気になって入ってしまって、すみません!」


 うむ。奴隷は必要としていないし、騎士団が取り締まっているのだから、違法行為なのだろう。


 私達が帰ろうとすると、サッと回り込まれ、


 「いえいえ、見て行くだけでも、さささっ!こちらですよぉ〜!」


 強引に背を押され、店内を案内されることになった。


 奴隷は考えてないから、見るだけ見て帰ろう。


 「まず、こちらはうちの商会でも最高級の奴隷です。こちらのステータスをご覧ください。」


 案内された一番奥の檻の中には、ライオンの姿をした、獣人が入っていた。檻についたプレートを見ると、


ーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 ライオネル

年齢 34

レベル 64

スキル

<光速Ⅹ><怪力Ⅹ><闇魔法Ⅹ><身体強化Ⅹ><打撃Ⅹ><巨大化Ⅶ><噛み砕きⅩ><切り裂きⅩ><突進Ⅹ><瞑想Ⅹ><隠密Ⅹ><体術Ⅹ><剣術Ⅹ><槍術Ⅷ><武闘Ⅹ><縮地Ⅹ><危機感知Ⅹ><痛覚無効Ⅹ><思考加速Ⅹ><毒無効Ⅹ><精神攻撃無効Ⅹ><悪食Ⅹ><物理耐性Ⅹ><耐久Ⅹ>

称号

「獣神の加護」「竜殺し」「王殺し」「反逆者」

ステータス

HP 7688/7688

MP 5832/5832

攻撃力 6784

耐久力 7862

素早さ 7466

精神力 2634

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 なんだ....このステータス...


 女王の何百倍も強い....それに、スキルの数、称号の数も、圧倒的に高い。


 「どうです?お客様。この奴隷は白金貨五百枚ですよ。凄いでしょう?獣人の国の王族の血を引いてるんです!」


 白金貨....確か金貨百枚分、つまり百万円位の価値だ。


 五百×百万=五億


 今の私達ではとても手が出ない。


 「この様に、強い奴隷を買えば、冒険も苦じゃ無くなるんですよ。興味が湧いてきたでしょう?カカッ。」


 これは...もし、強い奴隷を買えたら、冒険を有利に進められる。


 非人道的だと言うことを抜きにすれば良い事しか無いな。


 「他にも見せてくれ。」


 ナーフの顔を見ても、ライオネルという獣人に対して酷く驚き、興味を示している。


 「こちらなんてどうです?獣人の中でも最強と言われる種族。魔狼族の奴隷です。兵士上がりなので即戦力ですよ。」


 価格 白金貨五十枚


 高すぎる....私達が買えないのをわかって、わざと勧めているな。


 「もう少し安いのは居ないか?駆け出し冒険者でも買える様な。」


 「それですとこちらです。素早さが売りの猫族ですね。耐久は低いですが、攻撃を受けにくいので、長く使えます。教え込めば、まぁ、上位種との戦いでも使い捨ての囮くらいにはなりますね。」


 ん?この子どこかで.....


 「檻から出してもらえる?」


 「畏まりました!」


 ジャラジャラとした鍵を取り出し、扉を開けた。


 「こちらで御座います。」


 鎖を引かれ、檻から出された女の子はガタガタ震え、酷く怯えている。


 この子、最初に町で見た、荷物を落として居た子だ。間違いない。


 アザだらけで、痩せて骨が浮かんでいる。酷い。だが、冒険に連れて行くのは、かえって危険かもしれない。


 ステータスを確認するべく、女の子に向かって鑑定する。


 (鑑定)


 !!!


 この子...鍛えようによっては....


 「おい、幾らだ」


 「えぇっ....コイツは病気ですし、チビで痩せているので力も無いですよ...?それに、買い手が居なくて、貴族に売られる事になってたんですよ。」


 「それでもいい、幾らか聞いてるんだ。」

 

 「は...はい...金貨五枚です。」


 たった金貨五枚だと?コイツら、恐らくあの子を鑑定してないな。


 「君、君は私達と来たいかい?私達は冒険者だ。魔物に襲われる事もある、危険な仕事だ。死ぬかもしれない。それでも来たいなら、今君を買う。」


 「エリスッ!何を!?」


 ナーフに、奴隷商にばれぬよう、ひっそりと囁く。


 「ナーフ、鑑定してみてくれ。」


 戸惑った様子だったが、鑑定をして、驚いた顔をした後、何か決心した表情になった。


 承諾ととって良いんだな?


 女の子は震え、怯えた瞳をしたままだ。


 「だが、私達に着いて来れば、ご飯、寝る場所、服は必ず用意する。ここよりは絶対に良い環境を与えると約束しよう。」


 女の子の震えが少し収まった。何か口を開きかけているが、まだかなり怯えた様子だ。


 私達が与えられる報酬はこの位だ...


 もしこの子が来てくれれば、もっとスムーズに旅が進む。


 「私達には君が必要なんだ...」


 その言葉を聞いた瞬間、女の子の震えが止まり、真っ黒だった目の奥に少しだけ光が宿った。


 女の子に手を伸ばす。


 「は....は...ひ....」


 女の子の手が伸びてくる。


 「はい...!ついていかせてください!ここから出してください!何でもします!!」


 女の子はその手を、小さな弱々しい手で、がっしりと掴んだ。


 この子の意思はよく伝わった。


 「決まった。この子をくれ。」


 「わかりましたっ!こちらとしても厄介払いできて良かったです!こちらサービスです。」


 厄介払いね....


 「服一式と、奴隷紋もタダでお付けします。手錠と足枷も付けておきますねぇ〜!」


 「奴隷紋?」


 「所有者を示す印ですね!あと、命令に逆らうと強力な魔力が流れ、苦しむ様になってますです。」


 「それ、付けない事は出来ないのか。」


 「すいません、規定でして...」


 「手錠と足枷も要らんのだが。」


 「では外しておきますね、代わりに片手剣を付けておきます。」


 「金貨五枚だ。」


 「ありがとうございます!丁度で御座いますね!」


 奴隷商は、女の子の胸の前に手を突き出し、魔力を込め始めた。


 「偉大で愛を与えて下さる商いの神様、この者に、主人を裏切れぬ、絶対の忠誠を誓わせ給え」


 胸に魔法陣が刻み込まれて行く。


 「ぐぅぅぅっ.....」


 「大丈夫なのか?」


 「えぇ、少し苦しくなるだけです。奴隷の心配など優しいですなぁ!ククッ!」


 紫色の光が段々収まって行く。


 浮かんでいた奴隷紋は綺麗に消えてしまった。


 「出来ました。これで奴隷紋は刻まれたので、これは貴女の物です。片手剣と服で御座います。」


 少女を物として扱うとは、腹立たしい。


 何の返事もせず、素早く店を出た。


 「まいど〜!」


 女の子の手を引きながら、宿に戻った。帰る間中、女の子は無言だった。


 「あぁ、おかえ....り....」


 「.....」


 女将さんは、女の子を見た瞬間、無表情になって、淡々と業務をこなし始めた。


 あの女将さんにも、獣人に対する差別意識があるんだ....


 少し悲しくなった。


 ガチャン


 「初めまして。私はエリス・サラ」


 「僕はナーフ。これから宜しくね」


 「...........」


 ナーフの、誰でも恋に落ちる笑顔を見ても、女の子は震えが止まらない様子で、何も反応が無い。


 よっぽど酷い扱いを受けてきたんだ....


 「君の名前は?何もしないから、大丈夫だよ。」


 「.......ミーヤ.....ミーヤ・ムーシャ」


 「ミーヤちゃん、良い名前だね。先ずはご飯にしようか。」


 ナーフが下に行って、女将さんに無理を言って料理を部屋で食べる許可を貰ってきた。


 「ほら、食べて良いよ。」


 あれ...?


 ミーヤちゃんはそのプレートを凝視したまま硬直している。


 子供が好きそうなお子様ランチ風なのを頼んだのだが、お気に召さなかったのだろうか。


 すると、


 バクッ!


 一口運んだ後は、泣きながら料理を口に運んで行った。


バクバクバク!バクバクバク!!


 「うっ....うっ....」


 あっという間にご飯を平らげて、わんわん泣き始めた。


 ミーヤちゃんの頭を撫でる。泣き止ませるつもりだったのだが、更に泣きじゃくらせてしまった。


 「ふぇぇぇぇぇん!」


 数十分そのままでいると、いつのまにかミーヤちゃんは眠ってしまっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 数十分後、ミーヤちゃんをベッドに寝かせて、二人向かい合った。

 

 「エリス、ミーヤちゃんのステータスについて話そうか。」


 「うん。まず、あの称号だけど.....」


 二人の、ミーヤちゃん会議は深夜まで及んだ。

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