第11話 オヤジギャル

ーーー翌朝


 朝5時に起きて、無理を言って女将さんにサンドウィッチを作ってもらった。そして現在、朝6時。


 「ふぁ....眠い。」


 「んー。目覚魔し時計があって良かったね。魔物討伐は朝一番から行かないと、夜は危険だから。」


 「そして、今日はパーティ申請しようか!」


 ギルドに着くと、朝早いのにも関わらず、冒険者がたくさんいた。


 「マリアさん、パーティ申請お願いします。」


 「畏まりました!お二方ですね?」


 「そうです。」


 「パーティの名前はお決まりで?」


 「どうしようか....?」


 「慈愛神と舞神教?」


 「それはトラブルに巻き込まれそうだから却下。」


 「踊り子と魔法使い?」


 「そのまんまだからなぁ....」


 「じゃぁナーフが決めてよ〜」


 「うーん....じゃぁ、緋色の夜明けはどう?」


 「緋色の夜明け.....」


 「僕はエリスと出会って、心に刻まれた光景が二つある。二人で夜明けを見た時と、君が女王蜂と戦っているのを見た時。


 「どっちも、エリスが緋色に輝いていて、綺麗だと思ったんだ。だから緋色の夜明け。」


 「ナーフ....」


 私の踊り、綺麗だと思ってくれてたんだ....何故か、誰に褒められた時よりも嬉しい。


 そんな甘いムードを壊したのはマリアさんだった。


 「ちょっとちょっと!お二人!まだ朝ですよ〜!そんな事するのは帰ってからにして下さい〜!」


 はっと我に返った。ここはギルドだった!あんな所を見られて恥ずかしすぎる!!


 「ちっ....違います!!僕はっ!!」


 ナーフは私の数倍照れている。あのままだと私も恥ずかしい事を言ってしまう所だった。危ない危ない。


 ナーフはこの日の事も一生忘れられないだろうな。別の意味で。


 若いって怖い。


 「で...では、「緋色の夜明け」で登録しますね。これでパーティ依頼も受けられる様になりました。」


 マリアさんも何処か気まずい雰囲気だ。それに、周りの冒険者の注目を集めたのか、ニヤニヤコチラを見ているものもいた。


 ナーフもそれを察してか更に縮こまり、顔も真っ赤っかだ。


 「では、今日も頑張ってください!」


 受付から離れると、すぐにさっきこちらを見ていた冒険者三人に囲まれ、少し遠くへ連れていかれた。


 「ちょっと!ナーフに何すんの!」


 「ちょっと話すだけだ!嬢ちゃんはそこで待ってな!」


 いつもクールなナーフが慌てふためいている。そして、何か話し始めた。


 「坊ちゃん!気を落とすなよ!」


 バンバン!


 ナーフは三人の冒険者に囲まれて、背中を叩かれている。


 「告白がスルーされたんじゃねぇ!あれは気付いて無いんだよ!な?」


 「い...いや....あの....」


 「綺麗だ、なんて良く言ったじゃねぇかよ!」


 「!?!?」


 「そうそう、きっと鈍感な子なんだよ!」


 「でも大丈夫だ!冒険の途中で頼もしい所を見せれば、チャンスはあるって!」


 「ふぁ....!」


 「でも、悠長にしてると取られちまうぞ!男の目を惹きまくる見た目だからなぁ」


 「!?」


 「そんな怖い顔すんなよぉ、分かりやすい奴だな。取られる前に手に入れるんだろうが!」


 「!!」


 「じゃーなー!頑張れよ!」


 「ナーフ。大丈夫だった?何か言われたの?」


 心なしか、ナーフがやつれた様に見える。


 「いや、冒険のちょっとしたアドバイスだよ....ははは。」


 「そう。じゃぁ依頼を受けようよ。」


 何か様子がおかしい様な気がするが、気のせいか♪


 今は眼前の掲示板に興味がある!


 なになに....Aランク依頼、竜頭王調査、討伐、Cランク依頼、住み着いた幽霊の討伐、いろんな依頼があるんだなぁ。


 報酬は....!?


 報酬の欄を見ると、目がドルマークになった。


 竜頭王調査ー金貨五十枚

    討伐ー金貨二百枚


 す...凄い!調査に行くだけでこんなに貰えるなんて....!


 そんな甘い妄想に浸っていると、突然魔の手!ではなく、ナーフの手が肩に伸びてきた。


 「エリス〜僕たちが受けるのはコ、レ、!」


 もう受付も済ませ、ナーフが目の前に突き出してきた依頼は、


ーーーーーーーーーーーーーーー

 ・新人冒険者でも出来る!

   ラクラク薬草採集


 ノルマ 薬草五束

 報酬  銀貨一枚

ーーーーーーーーーーーーーーー


 あっ....はい。


 そうだよな。自分はFランク何だからあんなの無理か....


 しばらく貧乏生活になる予感がした。


 ナーフに連れられて、城門の外に出た。


 なかなか、外も整備されていて綺麗じゃないか。


 「近くの森で薬草が採れるって聞いたから、そこで二十束を目標に集めるよ。」


 「二十束でも宿代に届かないんだね....」


 「レア度が低いからね。今日は他にも依頼を受けるから、ちゃちゃっと終わらせよう」


 冒険者と言うのは名ばかりで、実は日雇い労働者なんじゃ無いだろうか....いや、そうだろ。明らかに。


 町から数十m離れた所に森があり、他の冒険者もちらほら散見された。


 先客か...


 「鑑定使って本当に薬草かどうか確認してね。マリアさん曰く毒草と見た目が似てるらしいから。」


 「ガッテン承知!」


 「何だよそれ....」


 「創作語です」


 ナーフに呆れられながらも、二手に別れて、薬草を採っていく。


 おっ、これか?


 「ちゃんと根っこも傷つけない様に取るんだよ!値が落ちるからね!」


 「へいへーい!」


 屈みながらの作業はキツイが、丁寧に根っこから....ズボッ!


 綺麗に取れた!


ガシャガシャガシャ


 「む?」


 突然後ろの方から何か音がしてきた。


 音のする方を見ると、鉄の鎧を着て、槍や剣を持った男達が行進して行く。その背後には馬や、荷馬車、魔法使いと思しき人達、弓を持った人達、と言う様に、沢山の人が何処かへ向かって行った。


 あんなにゾロゾロと、何しに行くんだ?


 「エリスー!あれ、騎士団の遠征だよ。」


 騎士団....そこの団長が奴隷商と仲が悪いって言ってたな。


 「騎士団があんなに人員を派遣するなんて....珍しい。」


 皆んな固い表情してるなー。


 騎士団の事をあまり知らないが、ナーフはかなり驚いているから、凄い事なんだろう。


 「多分、冒険者では狩れなかった魔物を討伐しにくんじゃ無いかな。」


 あんなに大勢で!?どんな魔物だよ....


 まぁ、私達に関係は無いんだけど....あと十束、さっさと採っちゃおう。


ーーー数十分後


 「マリアさん、この依頼何ですが。」


 「はい!薬草が、ひい、ふう、みい、二十束ですね!では、こちらになります。」


 チャリン


 銀貨四枚。一時間働いて、一人当たり約二千円くらいか。薬草採集を続けていけば普通に暮らせるな....


 冒険者って夢ないなー....


 「エリス、次はこれだよ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 Fランク依頼


 ・下位兎の討伐

大量発生して、安全に通れないので討伐して下さい。


 場所 街道沿い、街の近く


 報酬 十匹あたり銀貨五枚

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 下位兎。ここに来るまでも結構見かけた魔物だ。


 報酬が、薬草採集より高い!


 しかも、魔法を使えば一気に倒せるのでは?


 「わかった!早速行こう。」


 街道沿いと書いていたので、街道に沿って歩いて行く。


 「雷サンダー!」


 「火矢ファイアアロー!」


 森で生活していた時教わった、点火と火弓を組み合わせて、スピードを底上げした火弓!


 兎が出てくる度、無詠唱魔法でサクサク倒して行く。


 おっ。これは良いんじゃない?


 「一人の時より速い速度で狩れてるかも!」


 「本当?良かった〜。」


 ナーフの言う通り、本当に速い。兎は一分に一羽くらいで出てくるが、その間手持ち無沙汰になってしまう。


 火矢ファイアアローとか追尾させられないのかなー。


 なので、追尾型火矢ファイアアローを開発してみる。


 曲げるイメージで...フンッ!


 バシュッ


 うーん...曲がらん。


 「エリス、何してんの...」


 もう一度だけ...!フンッ!


 バシュッ


 何でか成功しないなぁ。魔力が体から完全に切り離されてるからか?


 次は、薄く魔力を繋げたまま、飛ばしてみる


 「火矢ファイアアロー追尾型!」


 曲がれっ!


 スッ


 すると、火矢ファイアアローが思った方向へ曲がっていった!


 うん。これは使えそうだ。暇な時間を活用して、ちょっとした魔法開発をしてしまったな。はっはっは。


 ナーフが驚いた顔でこちらを見つつ、


 「エリス...僕にも教えて....?」


 「兎狩る効率上がるなら良いよ?」


 「二倍にします。」


 と約束したので、ナーフにも教えてあげた。


 あっさりと習得したナーフは、無詠唱魔法を連発して、大量発生した兎を狩りまくった。


 追尾追尾〜!と、何発も撃っている内にかなりコントロールが効くようになってきた。すると、


 「お....お主ら....!それは究極のッ...!」


 長く白い髭を蓄え、ローブを纏った謎の老人が指を差しながら走ってきた。


 なんだこのじいさん...顔が完全に狂気に満ちているぞ...


 しかし、じいさんの後ろから走ってきた二十代くらいの若者が、魔法を発動させた。


 「転移!申し訳御座いません。アルテマがご迷惑をお掛けしました。転移!」


 その若者はじいさんを転移させた後、自分も転移し、忽然と姿を消したのだった。


 あまりにも一瞬のことで何が起こったのか把握できないが、私達は暫く呆然としていた。


 「なに?あの人達...エリスの知り合い?」


 「いや...違うけどなぁ?」


 その後、また魔物を倒しまくり、ドロップした魔石を屈んで拾うのが面倒な私は、自分の魔力を操作して、魔力の手で魔石を拾うという能力を身につけた。


 楽ちん楽ちん。怠惰な性格が役に立ったな。


 「エリスって....コホン....」


 何か言おうとしたようだが、焦って前を向き直したナーフであった。


 (おじさんみたいだな....)


 ギルドに帰り、パンパンに膨らんだ袋をマリアさんに出すと、流石にびっくりしていた。


 なぜなら、魔石がニ百個以上あったからだ。


 「き....金貨十枚です....今後ともよろしくお願いします...」


ーーーーーーーーーーーーーーー


 「あの冒険者、ヤバかったラビな!」


 「何とか逃げ果せたラビ!」


 「今後、街道には近づかない様に皆んなに言っとくラビ!」


 「それが良い。皆んな根絶やしにされちまうラビ!」


 「ラビラビ!」


 何故か、エリスとナーフが依頼を完了した後、街道に兎が出る事は無くなったらしい。

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