第10話 ダンサー

今まで、ここまでくるのにどれほど掛かった事か....


 神様に異世界に飛ばされて、そこから直ぐ下位兎に襲われて.....


 最初に得たスキルは突進だった。あれのお陰で、兎も、中位猪も倒せたんだなぁ。


 ナーフの叫び声が聞こえて、近づいてみたら中位猪が居て、あんなでかい魔物に良く向かっていこうと思えたもんだ。


 神様の加護が無ければ死んでいたかもしれない....


 何とか捨て身の突進で、猪に攻撃の隙を与えずに倒したんだったなぁ。でも、あの無茶をしたおかげで、この町まで来れた。


中位に傷を負わされた時もずっと看病してくれていた....


 あの時は本当に死ぬかと思った。


 ナーフに出会って、魔法を教えてもらって、この世界の事や、料理、道具、色々な事を教わった。


 二人で見た朝焼けも綺麗だった....


 ナーフが付いてきてくれたから、あの女王蜂との死闘も潜り抜けられたんだ。ナーフが魔法でHPを削ってくれていなかったら、女王が本気を出した時、HPを削りきれなくて殺されていただろう。


 ナーフは、いつの間にかかけがえの無い存在になっていたらしい。


 本当に色々助けてもらったからな。


 異世界に来て一ヶ月しか経っていないのに、濃密な経験を沢山した。


 店を出て、教えてもらった教会へと歩いて行く。さっきは通らなかった道に、大きな教会があった。


 白いレンガ造りで、屋根は緑色の綺麗な教会だった。子供達が走り回っていて、微笑ましい。


 大きな扉を開くと、沢山椅子が並んでいて、奥にはパイプオルガンがあり、神を讃える曲が流れている。


 写真で見た、ヨーロッパの教会の様だ。


 奥の方に数人修道士がおり、神父はその中心にいた。


 神父は、眼鏡、白髪、教会の制服で、優しく微笑んだ人だった。


 「すみません。彼女の職業を見ていただけますか?」


 ナーフが掛け合ってくれた。


 「勿論です。神は全ての人を受け入れる、偉大なお方。貴方も我々の神を信仰しましょう!」


 前までの私だったら、神なんて居ない人を信じて....と思っていただろうけど、サラちゃんやエリアスくんに会ったからな....


 「僕は生憎慈愛の神を信仰していますし、彼女もその気はないので、すみません。」


 「そうですか。では、銀貨五枚です。」


 少し多い気もするが、まぁ今はお金もあるし文句は言わないでおこう。


 「我が偉大なる商の神よ!この者に与えられた使命を読み解け、<職業鑑定>!」


 すると、神父の目の前に何やら文字が表示されている。あれが職業の名前だろうか。


 スキル使うだけで銀貨五枚...良いご身分ですな。


 「ほう。これは珍しい。神から、貴女の使命は踊り子だと出ました。」


 「踊り子は、踊りを習得する早さ、踊りの技術、踊りの素早さ、魅了の点で恩恵を受けます。ステータスも特化しますよ。レア職業ですし、おめでとうございます。」


 純粋に嬉しい。また異世界でも踊りを職業に出来たことが。更に、今の自分の技術に加えて、技術の面で恩恵が受けられると言うことは、もっと高みを目指せると言うことだ。


 「はい。ありがとうございます。」


 また、こちらの世界でも頑張りたい。


 嬉しくて、私はほくほく顔でお礼を言ったのだが、


 「そっ....そんなぁ!」


 (魔法使いだと思っていたのに!!一杯魔法を教え込もうと思っていたのに!クキィィ!)


 ナーフは、私が踊り子だとわかった瞬間に膝から崩れ落ちていた。さっきの期待に満ちた表情は何処へやら、絶望している。


 踊り子は良くない職業なのか?


 (鑑定!)


 <踊り子>

・レア職業。主に全てのステータスが平均的に伸びる。踊りに関係するスキルが得やすく、技術、素早さなどにも補正がかかる。戦闘には適さない。


 戦闘に適さない....?女王を倒せても、あれは普通以下って事か....?


 ナーフも、踊り子が弱いと知っていたからがっかりしていたんだな!


 最低限強くならないと、旅でも足を引っ張ってしまう....


 「ありがとうございました!」


 「.....ありがとうございました」


 決意に満ちた声で、教会を後にしたのであった。 


ーーー鍛冶屋


 「ネチカさん!良い武器、ありましたか?」


 「おうよ。幾つか用意しておいたぞ。なんだ?ガキが頭垂れてんじゃねぇか!どうしたんだよ。」


 「.....魔法使い....ブツブツ」


 「さぁ。私が踊り子だとわかってからずっとこんな感じなんですよ。」


 「踊り子だぁ!?レア職業じゃねぇか!だが、冒険者で踊り子は聞いたことがねぇぞ。」


 「でも、最低限戦える様になりたいんです。私は人を救いながら、踊りを広め無いといけないんです。だから、最強の武器を下さい!」


 「人を救いてぇってことなら、俺も協力しねぇわけにゃいかんが.....生憎、踊り子用の武器はねぇんだよ。」


 「短剣で良いんですけど、ないんですか?」


 「そんなもんで戦える訳ねぇだろ!踊り子が戦うと言ったら、鉄扇だ。過去の文献に残ってんだが、うちの店にはねぇ。」


 短剣。しかも木製のやつで戦ってたけど.....やっぱり無謀だったんだな。


 「あの杖を使いこなしてくれたんだ。サービスはするさ。どうだい?オーダーメイドで作らねぇか?」


 ほ....欲しぃぃい。鉄扇なら、短剣の時の様に魔力で扇の形を作らなくて良い分魔力消費も少なそうだし、普通に斬っても攻撃力が高そうだ。


 「ナーフー!買ってくれよー!」


 欲しい....

 

 「うう....僕だけ武器を手に入れるのもアレだし....値段次第なら、良いよ。」


 「ネチカさん!お幾ら!?」


 「材料も全部取ってきてくれんなら、金貨三十枚で引き受ける。」


 所持金ギリギリだ....流石に買うのは諦め....


 「しかも対になるよう鉄扇を二つ作ってやる。それに加えて、手入れに来る時の料金はタダにしてやろう。更に!今なら護身用の短剣も付ける!」


 二つ!手入れタダ!短剣!


 ナーフと顔を見合わせる、そして同時に、


 「「買った!!」」


 金貨三十枚!大きな大きな買い物だった....しかし、これで命が守れるなら安いものだ。


 「ガッハッハ!商談成立だな!じゃぁ、欲しい素材なんだが....」


 ネチカから、素材が書かれたメモを預かった。これを揃えれば鉄扇を作ってくれると言う。


 メモ

・魔蜘の硬糸

・魔鉄、出来れば純魔鉄

・ファイアドラゴンの魔石....は無理だろうから、サラマンダーの魔石。


 この三つだ。上から順番に、ゆっくり集めていこう。


 「素材集めの前に、僕たちは宿を取らないとね。」


 言われてみると、もう日が傾いてきている。

 

 「すっかり忘れてた!何処かに宿屋はあったっけ?」


 「ここの通りにあったから、そこに泊まろうか。」


 「うん。」


 しばらく歩いて行くと、ナーフの言う通り一軒の宿屋があった。


 「こんにちはー!」

 

 「はーーーい!」

 

 中からふっくらした、給食のおばちゃんのような、親しみやすいおばさんが出てきた。


 「あらぁ!いらっしゃい。宿泊ならニ食付きで二人合わせて一泊、銀貨四枚よ。お風呂もあるからお得よ〜!」


 いかにもな優しい女将さんだな〜。天然記念物だろ。


 「じゃぁ、宿泊します!!」


 お風呂と言う単語を聞いて、即決してしまった。もう一ヶ月以上入っていないので、お風呂は本当に入りたかった。


 ナーフの方を見ても、嬉しそうな顔をしている。ナーフは何も文句を言わなかったが、お風呂に入りたい気持ちは一緒だったのだろう。


 「お風呂楽しみだね!」


 「うん!僕もう我慢できないよ!」

 

 無駄遣いはできないので、部屋は同室だ。泊まる部屋は、ベッド以外何も無い部屋だったが、清潔にされていて、想像していたのよりずっとマシだった。


 というか、この町全体が東京より綺麗だし、臭く無い。

 

 部屋に荷物を置いて、すぐさま


 「行くぞッ!」


 「オー!!!」


 と、風呂場へ直行した。


 服を置いておく場所は、防犯対策の為か無く、皆、袋に入れて持っていた。


 私もそれを真似して、風呂場に入った!


 ガラララッ


 決して大きくは無いが、小さいながらも快適なお風呂だった。私以外の客は二人しかおらず、その二人も体を洗うとさっさと出て行ってしまった。


 「ナーフー」


 冗談のつもりで呼んでみた。


 「何ー?」


 「本当に返ってくるとは思わなかったー」


 「繋がってるみたいだねー」


 お風呂場独特の響き方も、心が和む。


 「気持ちいねぇー」


 「そうだねーお風呂の有難さがわかったよー」


 「お風呂ってこんなに気持ちよかったっけー?僕感動したー」


 「しかも今日は地べたじゃ無くてふかふかのベッドで寝れるよー!」


 「本当だ!楽しみだねー」


 そんな会話をした後、一階の、食堂としても店をやっている場所に行った。


 「時計だ!こっちにきてから初めて見た!」


 「確かにね!今までずっと太陽を見て時間を計っていたから....」


 「文明って有難い...」


 (鑑定)


・魔時計

魔力で動く、魔道具。時間がわかる。


 へぇー。電池じゃなくて魔力で動くんだ。この世界はやっぱり魔力に依存してるんだなぁ。


 適当な端っこのテーブル席を見つけて、二人で晩御飯を待っていると、


 「お待ち遠!」


 ゴトンッ!


 丁度6時。ウェイトレスの制服を着た、若い女の子が料理を運んできてくれた。


 「ありがとうございます!」


 「お料理楽しんでくださいね♪」


 可愛い...


 運ばれてきた料理は、大盛りのビーフシチューのようなもの、パン、トマト?やキャベツ?の入ったサラダだった。


 久しぶりのお風呂の後に、久しぶりに新鮮そうな料理。


 先ず水をゴクリと飲み干す。風呂上がりの水は美味い!!


 ビーフシチューを一口、口に運ぶと、濃厚で、お肉が溶けるほど良く煮込んである。

 パンも同時に食べる。シチューがパンに合う様に濃いめに作られていて、一緒に食べるとハーモニーを奏でている。

 サラダ。サラダもシャキシャキで、熱々のシチューを食べた後の冷んやりは、計算されているとしか思えない。


 「うんっっっっっっっまい!!!!」


 「ぷはぁっっっ!!」


 それ以降、どちらも一言も無く夢中で食べすすめた。


 食事が終わったのは午後6時10分だった。


 「ありがとうねぇ!お客さん。」


 「いえ、本当に美味しかったです。」


 「しっかし、聞いたかい?最近奴隷商が何か企んでるってさぁ!」


 「奴隷商ですか?」


 「そうなんだよ。この町には、奴隷商が沢山居てねぇ。法律に違反してるから、取り締まる役人と喧嘩してんのさ。」


 「獣人なんかを主に売ってる、ダゴミってやつと、聖騎士様が対立してんだとさ。いい迷惑だよねぇ。」


 獣人....あの女の子も獣人だったような....


 マリアさんが言ってたのは、この事か。奴隷商と思しき者はあんなに堂々と門を潜っていたが、違法だったんだな。


 「ここって誰が支配してるんですか?」


 「支配してるのは帝国さね。この町はダゴミが管理してるんだ。奴は爵位を持ってるからね。だから根っこから腐ってるんだよ。」


 その後も、この町について色々教えてもらった。


 自分達の部屋に戻って、今後の方針を話し合う。


 「明日はギルドの依頼を受けて、お金を稼ごうか。でないともうお金が底を尽きたよ。」


 ナーフが持っていた袋をひっくり返すと、石貨五枚。明日ここに泊まるお金も無かった。


 「それしか無いね。どんな依頼が稼げるか知ってる?」


 「うーん。僕も今年ギルドに入ったばかりだから余り分からないけど、魔物討伐はなかなか儲かるらしいね。」


 「それは私たちも身を持って実感したね。」


 「あんなに強い魔物とは戦いたく無いけど、もう少しランクが下の魔物なら狩れるんじゃ無いかなぁ。」


 「じゃぁ、明日ギルドに行って依頼を確認しよう!」


 「女将さんと、マリアさんが言ってた奴隷商の話。何か怖いね。」


 「僕の聞いた話では、奴隷商を取り締まると、その分国全体の景気が大分落ち込むらしい。国は見て見ぬふりしてるんだろうね。」


 「そうなんだ。」


 前世での考え方では、奴隷が存在するなど異常だ。でも、ここの人はそんな事より、自分達に害が及ばない事が大事らしい。


 (エリアス君が言ってた、慈愛の心が無いってこういう事なのかもな....)


 



ーーその夜。



 一人の丸々と肥えた男が、部下に命じた。


 「決行は一ヶ月後だ。二体、町に放て。」


 「はっ!」


 黒いローブを身に纏った部下は、窓から闇夜に消えて行った。


 「奴の事だ。村の者共を庇おうと必死になるに違いない。そこで必ず隙ができる。」


 「奴を殺す為なら、村人の数百どうでもいいわ!クククッ。アッハッハッハッハ!!」

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