第9話 ミツグくんが欲しい...

ギルドで身分証も作れたし!次どこ行く〜?」


 ようやく町に着き幸運な事に、あると思っていなかったギルドがあったため、身分証代わりになるギルドカードを発行して貰えた。

 そして、晴れて冒険者となったのだった。


 「僕は魔法使いだけど、杖を持ってないから、欲しいんだよねぇ....」


 そういえば、ナーフって何も使わず魔法撃ってたな。


 「杖!私も、作ってもらった木の短剣が燃えちゃったから何か新しい武器が欲しいな。」


 「じゃぁ、武器屋に行ってみようか!」


 武器...!どんな物があるのかワクワクするぜぇー!少女心に火がつくぞ!


 武器屋を探すと、大きな鍛冶屋が一軒と、店が並んだ通りの外れに一軒だけ鍛冶屋が有った。

 しかし、大きな方は冒険者が多すぎて、入れなかった為、外れの店に行く事にした。


 多分人気の店なんだろうなー。ここらへんの冒険者みんなここで買ってるんじゃ無いか?


 でも、意外とこういう小さな店にお宝が眠ってたりするもんなのさ!


 ギィィ


 「こんにちはー」


 多種多様な武器がずらっと並んでおり、その全てが良く手入れされている様に見える。


 「わぁ〜」


 すると、奥から店の主人が出てきた。


 「いらっしゃい....」


 長い髭を蓄え、腕によく筋肉が付いている。しかし、明らかに人間と体格が違う。


 「貴方は....?」


 「俺はドワーフのネチカだ。」


 「ドワーフ?」


 「お前さん、ドワーフを知らねぇのかい。鍛冶の腕じゃドワーフの右に出るやつぁいねぇ。」


 ネチカは自慢げに腕を叩いた。


 「へぇー。」


 人間じゃない他の種族も居るんだなー!ドワーフは数が多い種族なんだろうか?


 「まぁそんなこたぁいいだろう。何が欲しい。」


 「僕は杖を探してるんですが」


 「杖か....こっちだ」


 案内された方を見ると、形も色も値段も様々な杖が大量に並べられている。


 ナーフの顔が輝いている。うんうん。嬉しいよな。私も踊る様の服買いに行く時そんな風に心が踊ったもんだ。


 杖を見ると、一番高いもので金貨ニ百枚。手頃な物だと金貨五枚からあった。


 一番上にはどれも魔石が付いていて、大きさが違う。だがどれも一m以上あり、大きい。


 「てめぇらが駆け出しなら俺のお勧めはこの三本だな。値段も手が届きやすい。」


 一本目に出されたのは、二十万円の一m近くある杖だった。頭に付いている魔石は色が濃く、強い魔物から落ちた物だと分かる。


 「これにゃぁ上位兎の魔石が使われててなぁ。上位の割に倒し易いから、質がいいが安いんだ。木はイスノキが使われてる。珍しい木で、東方から仕入れた奴だ。攻撃力がかなり出るな。ただかなり重いんで、動き回るのには向いてねぇ。」


 下位兎の上位版がいるのか....!私は下位ですでに苦戦したから....どれほど強いのだろう....


 上位兎の強さを想像して、身震いする。


 「うーん....攻撃力は大事だけど、いざと言うとき素早く逃げられなさそうだなぁ。」


 確かに、杖は常に持ち歩く物だから、出来るだけ軽い方が良いだろう。この杖はその点で適していない。


 貴族の坊ちゃんなんかが、力持ちの従者に運ばせて使うとかしないと、杖の真価が発揮されない気がする。


 「これが二本目だ。魔石はさっきと同じ兎。これは桐って木で出来てて、店にある杖の中で一番軽い。しかも魔力が何の抵抗も無く通るから駆け出しにはぴったりの杖だな。」


 おぉ!凄く良いのでは!?


 「ただ、魔力が通り過ぎて飛散しちまうのが難点だ。威力はこの店の中で最低だ。こいつは安くて金貨六枚!」


 魔力が通り過ぎると出て行ってしまうのか....


 これからは、もっと強い敵とも戦うだろう。威力が出ないんじゃぁ杖として意味がない....


 「僕は、強い杖が欲しいんです。中位や、高位の魔物も狩れるような、大切な人を守れるような。」


 大切な人?ナーフにはそんな人が居たのか...!初耳だ。確かにこんなに美少年なんだから許嫁の一人や二人、いや百人くらい居るよな。


 美少年...恐るべし!


 勝手な妄想をしていると、


 「ガッハッハ!おもしれぇ!高位が狩れるかはてめぇ次第だが、これが三本目だ。」


 ナーフに手渡されたのは二十cm程度しかない小さな杖だった。


 「これは扱うのが難しすぎるって事であまり生産されてねぇ杖だ。まず、細すぎて魔力を込めるのが難しい。かなり圧力を加えねぇと入っていかねぇんだ。」

 

 「それに、頭に上位種程の大きな魔石は付けらんねぇから、頭に小さく削った魔石が一つ。威力を出す為にイスノキを使って、側面には威力上昇の呪文が刻まれている。」


 呪文!そんなものが刻めるのか。どうやるのか教えてもらいたい....私もなんか作ってみたいな...


 そんな夢も、お金が無いのでそもそも材料すら集められそうにない。秒で諦めた。


 「魔石、イスノキ、呪文。この三つ同時に、ただでさえ通りにくい魔力を注がにゃならん。」


 「だから、金持ちや駆け出しは目か二本目の様な杖を買うんだ。」


「だがな、俺の店の中で一番強いのはコイツだ。呪文も一流。魔石も一流。素材も一流。でも値段は金貨五枚。最安値にしてある。俺はこれを使いこなす奴を見てみてぇんだ。」


 この杖は、浪漫を詰め込んだような杖だ。もし使いこなせれば、格段に魔法の威力が上がる。


 ずっと黙って聞いていたナーフは、杖を手に取り、じっと眺めている。


 「試し打ち出来ますか?」


 「ああ。だがそもそも魔力が通らんと思うぞ。」


 鍛冶屋について行くと、店の横に的が置いてある。


 「偉大で慈悲深き慈愛の神様」


 ナーフの持つ杖の魔石が妖しく光り、同時に呪文も紫に光り始めた。杖の先に魔力が集う。


 「なんと....」


 超高密度の魔力に周囲の空気がブルブル震えている。杖の先端にとんでもない魔力が集まる。


 これってヤバいのでは....?


 「サンダーボルト!!」


 集まった魔力が一気に解き放たれた。このままでは向かい側の町の壁まで破壊しかねない。


 鍛冶屋が持っていた杖を一本奪い、全力で魔力を込めた。


 やっぱりヤバかった!!


 「偉大で可憐な舞の神、慈愛の神よ!敬虔な信徒に力を!!!」


 <慈愛神の加護>の効果が発動。


 「ファイアボール!!!」


 二つの魔法がぶつかり合い、ナーフの放った魔法は軌道を変え、上空へ昇っていった。雲を突き抜け、それでもまだ止まらず、何キロも進んだ後、飛散した。


 鍛冶屋は口をあんぐり開けたまま硬直している。ナーフも、杖のあまりの効果に驚きが隠せない様だ。


 「はぁ....」


 地面に座り込み、何とかなって良かったと、幸運を噛み締めた。


 「ナーフ....何やってるの」


 「ごめん....楽しくなって....」


 .....この言葉を聞いて、私も女王との戦いで、命がかかっていても楽しんでしまったのを思い出したので、あまり強く言えなかったのだった。


 人の振り見て我が振り直せとは良くいったものである。


 「お...おい!お前さん」


 鍛冶屋がナーフに詰め寄る。隣を見ると、店の一部が消し飛んでいた。


 サァァァ


 顔から血の気が引く。「弁償」の二文字が頭に浮かんだ。そっ....そうだ!ミツグくんに!!いや、今は居ないんだった!


 前世では、私に何でも貢いでくれるミツグ君が何人も居たのに今は零。はぁ....ミツグ君が欲しいなぁ....便利だったミツグ君達....

 

 そんな事考えてる場合じゃなかった!しっかり弾き飛ばしたと思ったのに...!どうしよう!!


 「申し訳御座いませんでした!!!」


 ナーフが深々と頭を下げた。しかし、


 「......そんなこたぁいいんじゃ!!」


 少年の様に顔を輝かせて、ナーフを見つめている。


 「お前さん凄いじゃないか!あれを使えたものは百年生きてきて初めて見たぞい!」


 百年....?


 「お前にそれはやる!だからそいつを使ってやってくれ!」


 「こんな貴重なもの貰えません!せめて店に置かれていた価格で.....!」


 「ダメじゃ。コイツはやる!コイツには名前がある。それを教えてやろう。」


 「これはディナト。強いと言う意味を表す。強さを求めるお主にはピッタリだろう?ディナトはやる。」


 「ありがとう....ございます」


 ナーフは、ディナトを受け取り、深々とお辞儀をした。


 「ただし、これからはこの店で武器を揃えろ。いいな?」

 

 ネチカはそう言ってにやりと笑った。


 「ありがとうございます。ですが、さっきの魔法で店を傷つけてしまい、申し訳ありません!!罰は受けます。」


 「それも良い。俺の店はもう人が来なんだ。もうじき閉めることになりそうだ。」


 確かに、大通りにあった店は客で溢れていたのに、ここらは誰も通っていない。


 「昔は良く、冒険者が来てくれたんだがな。あんな店の武器はただの飾りだ。一年と持たずに折れる。格上と戦えば一瞬よ。鍛冶屋の風上にもおけんわ。」


 「だが、そっちの方が今のものには必要とされている。こんな飾り気のない剣では駄目なのか。」


 無数に打たれたシンプルだが頑丈そうな剣の中から一本取り出し、眺めながら言う。


 その話を私たちはただ黙って聞いていた。


 「こんな年寄りの話を聞いてくれてありがとな。まぁ、潰れない様に、客を百人ほど連れてきて貰おうかね!ガッハッハ!」


 こんなにも良い店が潰れるなんて.....


 「そんなに悲しい顔すんなぁ!それより、ずっと思ってたんだがな?お前、杖持ってねぇみてぇだが、今までどうやって戦ってたんだ?」


 「え?それは勿論、手ぶらで魔法撃って戦ってましたよ?」


 「..............」


 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ????????」


 町中に響き渡るほど大きな声で、驚きを表現している。

耳を塞がないと鼓膜が破れそうだった。


 なんだなんだ?ちょっとうるさいぞ、ネチカくん?廊下に立っとれ!


 ピロン♪

 スキル<鼓膜保護Ⅰ>を取得しました


 うるさすぎてスキルまで取得しちゃったじゃ無いか...


 「素手で魔法なんて撃てる訳がねぇだろうがぁぁぁ!!」


 「???本当ですよ。逆に撃てない人なんて居るんですか?」


 「お前...おかしいぞ!普通杖を通さねぇと魔法は撃てないんだよ。何千年も前は誰でも撃てたらしい。だがな、ある時から急に魔法のレベルが下がったんだよ。それと同時に杖を通さねぇと撃てなくなったらしいんだ。」


 「うちの町では誰でも撃ててましたけどねぇ?」


 「はぁ....お前なら本当に出来そうだ。一体どこで育ったらそうなるんだ?そんな町あったらそいつらによって世界が滅ぼされてるよ。」


 「杖は最大出力が決まっている代わりに魔法の威力、射出速度を最低のMPで出せるモンだ。杖を使わずに出せば、緻密な魔法制御が難しい分、射出速度、威力、範囲は、異論上無限に出るが、MPの消費が激しすぎる。人間が使えば死んじまう。」


 私が火球暴走させたやつも、素手で撃ってたからなんだなー。


 「そうなんですね〜。」


「そうなんですね〜じゃねぇんだよ!くそ〜....おい!少年は杖が欲しかったんだろうが、お前は良いのか?」


 「私も武器が欲しいです。」


 「何をご所望かな?」


 「片手で使えて、魔力が宿せる様な....魔力が宿せるなら、短剣か、それ以外でも良いです。燃え落ちない物を下さい。」


 「ほう。お主は職業はなんだ」


 「まだ分かりません。」


 「何?この町には教会があるが、そこで職業を見てもらっていないのか?」


 「教会があるんですか!?」


 「ああ。そこで職業を見てもらってから来い。その間に武器を探しておく」


 「ありがとうございます!行ってきます。」


 「ナーフ、良いよね?」


 「勿論さ。嬉しい誤算だね。」


ーーその頃....


 男の怒鳴り声が建物中に響いた。


 「ミーヤ。お前、この荷物落としただろう?」


 「おっ...落としました....」


 肥えた男は、残念そうな表情を作って、震える女の子に告げた。


 「はぁ....そろそろ売りに出す頃合いだなぁ。ミーヤ?」


 「っひ....いやです!やめてください....ッ!」


 「こんなチビでも、貴族の変態どもに売れば、高値で買う奴も居るだろうな。ハッハッハッハ。」


 「やめてください!!!」

 

 ガシャン


 必死の懇願も虚しく、獣人の女の子は、檻の中に入れられ、男は去って行ってしまった。

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