第8話 花金の憂鬱

レンガをふんだんに使った、綺麗な都市。町の中心には大きな噴水が見え、十字に広い道路が引かれている。その道路に沿う様に、多種多様な店が軒を連ねている。


 「あの噴水の広場なんて布教にもってこいじゃ無い?」


 「そうだねぇ〜。でも、此処の商人達は十中八九商の神を信仰してるだろうね....」


 広場の更に奥は、人が沢山いて、さっき並んでいた商人達も皆そこに向かっている。


 (なんだろ、あれ)


 辺りを見回し、感心していると、


 「ギルドだ!」


 Gusyha....?と書かれた看板を指差すナーフ。暫く看板を見ていると、段々と文字が変化して行く。


 (ギルド....)


 「あっ!エリスは、この世界の文字読めないんだっけ....?」


 「いや、スキルで読めるようになったから大丈夫だよ」


 <言語取得Ⅹ>様様だ。


 「そうだったんだ。便利だね〜。」


 「神様に感謝しなくちゃね!」


 このスキルが無ければ、今頃ナーフにも出会えず、森で死んでいたかもな.....


 「ギルドは何するところ?」


 「冒険者になるところだよ。依頼を受けると報酬が貰えるんだ。しかも、ギルドで貰えるギルドカードは身分証明書代わりになるから、行っておいた方がいい」


 此処でお金を稼げれば、異世界でも安定した生活が出来るようになるかも知れない!


 「きゃぁっ!!」


 叫び声があった方を見ると、前から歩いてきていた女の子が、持っていた荷物を落とした。


 「大丈夫!?」


 手を取り、立つのを手伝った。


 十歳位の女の子。随分と痩せて、顔には疲れが見える。それに....頭には、猫の様な耳がついていた。


 「大丈夫かい?僕が運ぶのを手伝うよ?」


 「いえ!大丈夫なんです!大丈夫ですから!」


 急に怯えた表情になって、くるりと背を向け、走って行ってしまった。背中にもしっぽが付いている。


 「あの子、耳が付いてたよ。」


 「獣人だよ。身体能力が高い種族さ。」


 <獣人>

・世界中に住んでいる、人間種の次に多い種族。魔法が使えない代わりに人間より身体能力が高い。


 一つ気がかりなのが、女の子が異様に痩せていて、手首や足首に鎖が付いていた事だ。


 (.....?)


ギルドの前まで着くと、ナーフは慣れた様に扉を開き、中へ入って行く。


 木造の、お洒落な外観とは打って変わって、中は筋骨隆々の大男や、強面の者ばかりでごった返していた。


 ナーフの様な優男は一人も見当たらない。


 「なんでこんなに人が集まってるんだろう?」

  

 「さぁ....」


 そんな者達に奇異の目を向けられながらも、ナーフは堂々と受付らしき場所へ歩いて行った。


 私は後ろをついて行くが、私も同じ視線を受ける。


 受付には二十代であろう、此処には似つかわしく無い綺麗な女性が立っていた。


 「今日はどの様な御用でしょうか?」


 その声音からは凛とした印象を受ける。それでも、柔らかみのある声は聞いている者を不快にさせない。


 「新しく冒険者になる子を連れてきた。冒険者登録してくれ。」


 「畏まりました。これから、加入試験を行います。ステータスが足りなければギルドへは入れませんので、ご了承下さい♪」


 私は一歩受付に近づく。


 「貴方は華奢ですし、難しいかも知れませんね.....まぁでも、こちらの水晶に手をかざしてください。」


 (鑑定)


 <水晶>

・個人の能力を測る魔道具。適正魔法が色で分かり、ステータスの高さは光の強さで分かる様になっている。


 「あ....あのぉ〜....手を....」


 魔道具....また聞いたことのない単語....


 「エリス!ぼーっとしてないで!」


 ナーフが私の手を掴み、水晶へかざす。


 段々水晶の色が変わってきた。


 最初は心配そうな顔をしていた受付の女性も、段々


 最終的に、水晶は赤色に変わった。そして、ギルドの部屋全体を照らす程に水晶が輝き、ストンと光が消えた。


 「コホン....では....一応次の試験を行います。ギルドの職員と一対一で戦ってください。何でも使って貰って良いですよ。」


 「頑張ります!」


 女性に連れて行かれた場所は、円形に線が引かれた、ただっぴろい闘技場....?だった。


 ギルドの中にいた冒険者達が、見物に来ている。


 「ギルド職員と戦い、勝てばギルドへ加入できます。負けても実力があると判断されれば加入出来ますので。」


 「嬢ちゃん〜頑張れよー!」


 「おい!ギル!負けてやれよ!」


 ギルと呼ばれた男性が、片手剣を構えてこちらの動きを伺っている。


 あの人に勝てば良いんだな!女王蜂に苦戦した私が勝てるのかわからないけど....負けても良いって言ってたし、ちょっとでも爪痕を残さねば!


 「では、始めッ!」


 「<ファイアボール><ファイアランス><ファイアアロー>!!」


 まずは、相手の反応を見るためのジャブだ。果たしてどう対応するか!?


 「ぐあぁぁぁぁ....!」


 「えっ?」


 全ての魔法を一身に受け、気絶した。


 「だっ...誰かー!!」


 マリアさんが駆けつけて、魔力を手に集め始めた。


 「偉大で可憐な癒しの女神アリス様!この者の傷を癒し、元の姿に戻して下さい!」


 「<回復ヒール>!」


 みるみるうちに火傷の跡が治っていく。この魔法が有れば便利だろうな〜。


 「ごっ...合格です!」


 「ウォォォォォォォォォ!」


 「嬢ちゃんすげぇぜ!魔法使いかい?無詠唱魔法を三発連続なんて聞いたことねぇよ!」


 聞いたことあるだろう、そのくらい...ナーフは余裕だと言っていたし。流石に大袈裟すぎる。


 その後ギルドに帰っても、色々な冒険者に絡まれた。その間、ナーフがこちらをじとーっとした目で見ていたが、褒められているのが羨ましかったのか?


 ナーフは意外に子供だなぁ。


 「私はマリアです。宜しくお願いします。」


 「こちらが貴女のギルドカードになります。先ずはFランクからのスタートとなっておりますので、Fランクの依頼が受けられます。」


 「あちらのボードを見てください。」


 窓の横に、無数の紙が貼ってあるボードがあった。


 「あれは、依頼が貼ってあるもので、依頼を受けるときはあの紙を私まで持ってきてください。ランクが右上に書いてあると思うので、Fと書かれたものを持ってきてくださいね。」


 「そして、魔物を討伐し、素材を得た場合は、ギルドカウンターまで持ってきて下さい。すぐに鑑定して代金をお渡しします。」


  「ギルドへの貢献度でランクは上がります。ランクを上げたければ強いモンスターを倒して来てください。」


 「はい!早速なんですけどこの魔石って売れます?」


 下位兎の魔石をカウンターに出した。


 「下位兎レッサーラビットですね!こちらは石貨五枚です。」


 石貨五枚....ナーフから聞いた感じだと、駄菓子位しか買えないんじゃ....この世界に駄菓子は無いだろうけど....下位兎はダメだな。


 「これも売れます?」


 中位猪の干し肉と毛皮を出した。


 「これは....中位猪ノーマルボア....金貨二枚です。」


 「これも売っていいですか?」


 蜂蜜の入った竹の筒を受付に置いた。


 ゴトッ


 「これは....?殺人蜂キラービーの蜂蜜!?!?こんなに沢山....これは....金貨十枚です」


 思ってたのより百倍高い!!ありがたや〜ありがたや〜


 「じゃぁこれも!」


 女王蜂の魔石を受付に置いた。


 「女王蜂クイーンビーの魔石!?貴女が倒したんですか!?」

 

 「いや、ナーフと倒しました」


 「え....ええ。こちらは....金貨二十枚です.....どうぞ....」


 合計金貨三十二枚と石貨五枚。これで一ヶ月はゆうに暮らせるだろう。布袋に入れておく。


 「なかなかの金額になったね〜!」


 「よかったよかった!」


 「こちらがギルドカードです。情報を記録しますので名前と年齢、銀貨一枚をお願いします。」


 「エリス・サラ、15歳です。」


 代金を渡すと、マリアさんはプレートに魔力を込め始めた。青白い光の筋が浮かび、プレートに文字が刻まれて行く。


 「ふぅ」


 光が消えて、私のギルドカードが出来上がった。


 「出来ましたよ。どうぞ。」


 ギルドカード

 Fランク

名前 エリス・サラ

年齢 15歳


 ギルドカード!初めてお小遣いを貰った時の様なドキドキがある。自然と笑みが溢れた。


 「あと、最近町の治安が悪化しているので、注意してくださいね。何やら奴隷商達のが動き回っているそうなので....」


 「?...はい。気をつけます。」


 奴隷商....前世の記憶では、南北アメリカなんかにアフリカから人を攫って売るやつか。

 

 「治安が悪くならないといいけど....まぁ、ギルドにも加入できたんだし、一先ず、町を探索しようか。」


 「わかった〜。」


 


ーーマリア視点


 はぁ〜今日も冒険者が多くて大変。でも金曜日だし、明日はゆっくりしよう。


 ギィィ


 あら、見たことない子達ね。新人冒険者って所かしら。二人の話を聞いてみると、


 「なんでこんなに人が集まってるんだろう?」

  

 「さぁ....」


 などと言っている。


 最近、奴隷商が魔物の子供捕まえてくるせいで魔物の襲撃件数が増えてるの知らないのかしら。


 二人とも成人したて位ね。カップル、いいわね〜。


 「今日はどの様な御用でしょうか?」


 いつも通りの笑顔で対応する。


 「新しく冒険者になる子を連れてきた。冒険者登録してくれ。」


 後ろに立っている女の子は、かなり可愛い。しかし、この少年も驚く程整った顔立ちをしている。


 (美男美女カップル...私のHPはゼロよ。)


 だが、そんな事で態度を変えてられない。酔った冒険者は、美男美女カップルよりタチが悪いのだから。


 「畏まりました。これから、加入試験を行います。ステータスが足りなければギルドへは入れませんので、ご了承下さい♪」


 こんな子、すぐ死んじゃうわよ。


 そもそも、女という時点で冒険者の数は限られている。男より力が伸びにくい分、戦闘に適さないのだ。


 女の子で冒険者やるなら、魔法使いかヒーラーか。それ以外に選択肢はない。)


 「貴方は華奢ですし、難しいかも知れませんね.....まぁでも、こちらの水晶に手をかざしてください。」


 ステータスが足りなくて、泣き出されたらたまったもんじゃない。一応止めはしましたよ。


 「あ....あのぉ〜....手を....」


 何この子?私が手ぇかざせって言ってるのにぼーっとして一切動かない!


 すると、美少年が女の子の手を取って、代わりに水晶にかざした。


 「エリス!ぼーっとしてないで!」


 段々水晶の色が変わってきた。


 えっ....うそ.....


 最終的に、水晶は赤色に変わった。それは良い、問題は、ギルドの部屋全体を照らす程に水晶が輝いた事だ。


 一般的な合格値は、電球程水晶が輝けば、十分合格にしていいと言われている。しかし、この女の子はどうだ。部屋全体を照らすなんて、Cランク以上のステータスがないと無理だ。


 ザワザワ


 周りで見ていた冒険者達が騒ついている。


あまり騒ぎを大きくすると、私に質問が殺到して面倒臭い。早急に帰らせないと。


 「コホン....では....一応次の試験を行います。ギルドの職員と一対一で戦ってください。何でも使って貰って良いですよ。」


 「頑張ります!」


 ギルドが所有している闘技場に連れて行った。


 ギルドの中にいた冒険者達が、見物に来ている。


 「ギルド職員と戦い、勝てばギルドへ加入できます。負けても実力があると判断されれば加入出来ますので。」


 「嬢ちゃん〜頑張れよー!」


 「おい!ギル!負けてやれよ!」


 ギル....ごめん。あの子のステータスは貴方より上なの。耐えて...!


 女の子はやる気に満ちた表情だ。はぁ。大丈夫かなぁ。ギル。


 「では、始めッ!」


 「<ファイアボール><ファイアランス><ファイアアロー>!!」


 女の子はいきなりフルパワーの様だ。無詠唱魔法三連何て、見たことも聞いたこともない....!あんな事出来る者は、この世界に果たして何人居るだろう....?


 後ろで見ている男の子は全然動じていない!?あれが普通だとでも言うように、真顔を決め込んでいるッ!?


 「ぐあぁぁぁぁ....!」


 あんな魔法避けられる訳がなく、ギルは全ての魔法を一身に受け、気絶した。


 「だっ...誰かー!!」


 女の子の方が焦って叫んでいる。


 あーーーもう!しょうがないなぁ...!


 ギルの元へ駆けつけ、魔法をかけてあげる。


 「偉大で可憐な癒しの女神アリス様!この者の傷を癒し、元の姿に戻して下さい!」


 「<回復ヒール>!」


 酷い火傷の跡。初級魔法でこれ程ダメージを与えるとは...恐るべし。


 「ごっ...合格です!」


 「ウォォォォォォォォォ!」


 「嬢ちゃんすげぇぜ!魔法使いかい?無詠唱魔法を三発連続なんて聞いたことねぇよ!」


 聞いたことあるだろう、そのくらい...ナーフは余裕だと言っていたし。流石に大袈裟すぎる。とでも言いたげな、真顔で冒険者達を相手している。


 全然普通じゃないわよ!?


 その後ギルドに帰っても、色々な冒険者に絡まれていた。あんな事をしたんだから当然だ。この国で一番強いと言われる賢者でさえ無詠唱魔法は連続して撃てないのだから。


 「頑張ります!」


 「私はマリアです。宜しくお願いします。」


 「こちらが貴女のギルドカードになります。先ずはFランクからのスタートとなっておりますので、Fランクの依頼が受けられます。」


 「あちらのボードを見てください。」


 窓の横にある、無数の紙が貼ってあるボードを指差した。


 「あれは、依頼が貼ってあるもので、依頼を受けるときはあの紙を私まで持ってきてください。ランクが右上に書いてあると思うので、Fと書かれたものを持ってきてくださいね。」


 この子なら余裕でクリアできるだろうけどね.....


 「そして、魔物を討伐し、素材を得た場合は、ギルドカウンターまで持ってきて下さい。すぐに鑑定して代金をお渡しします。」


 「ギルドへの貢献度でランクは上がります。ランクを上げたければ強いモンスターを倒して来てください。」


 「はい!早速なんですけどこの魔石って売れます?」


 魔石をカウンターに出した。


 (鑑定)


 下位兎の魔石 ★


 「下位兎レッサーラビットですね!こちらは石貨五枚です。」


 下位兎か。駆け出しでは、少し苦戦するが、慣れれば余裕で倒せる様になる弱い魔物だな。


 「これも売れます?」


 魔物の干し肉と毛皮を出した。


 !?これって....中位猪?こんな女の子が倒せる様な魔物じゃ無いはず。最近では、近くの森で死亡例が出ていた。


 だが、紛れもなく中位猪だ。


 (鑑定)


 中位猪の皮 ★★

 中位猪の肉 ★★


 「これは....中位猪ノーマルボア....金貨一枚です。」


 「これも売っていいですか?」


 何か重いものが入った竹の筒を受付に置いた。


 ゴトッ


 ?竹の筒。蓋を外して中を見ると、独特の甘い香り....これは....


 (鑑定)


 殺人蜂の蜜 ★★★


 えっ?こんなもの巣から取ってこようもんなら、何千匹もの殺人蜂が追ってくる筈。しかも、女王蜂も黙っていないだろう。


 一体どうやって....?方法は一つしかないけど....まさかね....


 「これは....?殺人蜂キラービーの蜂蜜....こんなに沢山....これは....金貨十枚です」


 もう無いと言ってくれ。だが願いに対して女の子は、


 「じゃぁこれも!」


 濃い色をした魔石を受付に置いた。


 (鑑定)


 女王蜂の魔石 ★★★


 殺人蜂の蜜を取ってこれたのだから、信じるしか無いが、全ての殺人蜂を倒し、女王蜂も倒していたのか....


 「女王蜂クイーンビーの魔石!?貴女が倒したんですか!?」

 

 「いや、ナーフと倒しました」


 当たり前みたいに言われても、二人で倒すなんて規格外だ。普通、Cランク冒険者が五人パーティを組んでようやく倒せるレベルなのだから。


 「え....ええ。こちらは....金貨二十枚です.....どうぞ....」


 「なかなかの金額になったね〜!」


 「よかったよかった!」


 「こちらがギルドカードです。情報を記録しますので名前と年齢、銀貨一枚をお願いします。」


 「エリス・サラ、15歳です。」


 まだ成人したばかり。それであの女王蜂を倒せるか....


 銀貨一枚を渡され、プレートに魔力を込め始めた。青白い光の筋が浮かび、プレートに文字が刻まれて行く。


 「ふぅ」


 光が消えて、彼女のギルドカードが出来上がった。


 「出来ましたよ。どうぞ。」


 ギルドカード

 Fランク

名前 エリス・サラ

年齢 15歳


 子供みたいに喜んでいる。あんな化け物じみた事するのに、子供なのね....


 こんなに強くては必要ないだろうが、最近通達が来ていた事を忠告しておく。


 「あと、最近町の治安が悪化しているので、注意してくださいね。何やら奴隷商と役人の小競り合いが激化してるそうなので....」


 「....?はい。気をつけます。」


 何の事かピンと来ていない様だった。


 あんなに町中で噂されているのに知らないとは、大丈夫だろうか。


 噂とは、最近、奴隷商のダゴミってやつが、奴隷商を取り締まる、騎士団団長のロイを暗殺しようとしているというもの。


 ダゴミは、この町の奴隷商を束ねてるボスで、町の衛兵や、国の規制も金で黙らせている。


 唯一黙らせられないのがロイ。だからダゴミは手っ取り早く殺そうとしてるという事らしい。今まで何度も暗殺に失敗している事から、大胆な行動に出る可能性も否めない。


 「大丈夫かなぁ〜。」

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