第7話 モーレツ衛兵!(お疲れ様です)

女王との死闘が終わった。


 女王は、猪と違い、煙となって四散し、倒れていた場所には濃い色をした魔石が転がっていた。他には何もドロップしなかったようだ。


 「鑑定」


<女王蜂>

・殺人蜂種を束ねる王。知能が高く、細剣を使いこなす。巣の蜂が全滅しなければ出てこないため、その針や、素材は高く売れる。


 ピロン♪

<鑑定Ⅱ>が<鑑定Ⅲ>にレベルアップしました。


 女王は、最後まで静かに怒りに燃えた目をしていた。その、仲間を思いやる心は、とても魔物とは思えない人間らしいものだったと言える。


 その目にも、私は躊躇ってしまったのだろう。もっと速く、力を振るうことが出来ていれば....


 今回の戦いは、どちらが勝っていてもおかしく無い、ギリギリの戦いだった。


 ピロン♪

レベルが10→16に上がりました。


 ステータスウィンドウ

 名前 エリス・サラ

 年齢 15歳

 レベル 16

 スキル

 [New!]<鑑定Ⅲ> <言語取得Ⅹ> <舞姫Ⅹ> [New!]<舞神Ⅱ> [New!]<危機感知Ⅱ> [New!]<痛覚遮断Ⅵ> [New!]<耐久Ⅳ> <突進Ⅱ> [New!]<音速Ⅰ> 

 称号

 「慈愛神の加護」「舞神の加護」

 ステータス

 HP 115/115 +59

 MP 111/111 +62

 攻撃力 122 +55

 防御力 122 +55

 素早さ 152 + 68

 精神力 139 +60


 状態 出血


 女王蜂を倒したことにより、レベルは6上昇した。私は、今のレベルアップでHPが全回復している。しかし、ナーフは大丈夫だろうか。

 振り返ると、腹から血を流し、横たわったままのナーフがいた。


 息をしていなかったら、死んでいたらと思うと、行き場のない不安が心を支配する。異世界で初めて出会った人、助けてくれた人。

 絶対失いたく無い。


 すぐさま駆け寄る。


 「ナーフッ...!」


 そして、涙目になりながら口と鼻に手を近づける。何とか呼吸はしているようだ。


 「鑑定!!」


ステータスウィンドウ

 名前 ナーフ

 年齢 15歳

 職業 魔法使い

 レベル 12

 スキル <器用Ⅹ><料理Ⅴ><魔力操作Ⅱ><魔力適正Ⅱ><鑑定Ⅱ><隠蔽Ⅰ><速度上昇Ⅱ>

 

 称号「守護者」

 

 ステータス

 HP 87/87

 MP 173/173

 攻撃力 76

 防御力 69

 素早さ 80

 精神力 177


 状態 昏睡、出血


 「生きてる....」


 それに、何か新しい称号も得ている。


 「守護者」

・守りたい者が居る時、防御系のスキルや魔法の効果が上がる


 涙が頬を伝って行く。安心して、さっきまで張り詰めていた心がシュルシュルと緩んでいった。


 HPは満タンだ。レベルアップが間に合ったのだろう。スキルや、ステータスのレベルも上がっている。


 出血はしているが、薬草を体に貼っておけば傷は治ると、以前ナーフに教わった。


 前の洞窟からかなり進んできてしまっているので、ナーフを運びながら洞窟に戻るのは難しい。この満身創痍のまま進むのも危険だろう。


 さっき、木から落とした殺人蜂の巣の中で夜を明かせないだろうか。


 ナーフを背負って巣まで歩く。しかし、ナーフの血がどんどん溢れ出て来る。殺人蜂の巣は、濃い甘い蜜の香りが充満していた。


 「ファイアボール」


 入口を作る為に壁に穴を開けた。中は空洞となっている。これなら此処で眠る事くらいは出来そうだ。


 ナーフを横たわらせて、さっき刺された部分に薬草を貼っておく。すると、さっきまで酷かった出血がピタリと止まった。


 「鑑定」


ステータスウィンドウ

 名前 ナーフ

 年齢 15歳

 職業 魔法使い

 レベル 12

 スキル <器用Ⅹ><料理Ⅴ><魔力操作Ⅱ><魔力適正Ⅱ><鑑定Ⅱ><隠蔽Ⅰ><速度上昇Ⅱ>

 

 称号

 

 ステータス

 HP 37/87

 MP 173/173

 攻撃力 76

 防御力 69

 素早さ 80

 精神力 177


 状態 昏睡、出血


 出血のせいか、HPが大幅に減っていた。このまま出血が止まらなければ、死んでいた。ナーフに応急処置を教わっておいてよかったと心から思う。


 しかし、薬草だけでは傷は治りきらないだろう。


 早く町へ行って、ナーフを治療できる所を探さなければ。明日の朝早くから出発し、一刻でも早く町へ着かなければ。


 翌朝。


 ぽたり


 顔の上に、ドロッとした物が落ちてきて、目が覚めた。それを拭き取ってみると、金色に輝く蜜。


 それを舐めると、この世の物とは思えないほど甘く、それでいて幾らでも舐めたくなる程美味い。


 (んんん〜!!)


 これは毎日舐めたい。持って来ていたあらゆる容器に蜜を詰め、それでも入り切らなかったので、ナーフがやっていたのを真似して、近くにあった竹で新しく容器を作った。


 竹の容器五〜六本に、目一杯蜂蜜を詰めて、それも持っていく事にした。


 少し時間を取られてしまったが、ナーフをおぶって進む。確か、新しいスキルを先頭で得ていた。


 (<音速Ⅰ>)


 直線に、約1m程高速で進んだ。MPの消費は......

 

 MP 110/111


 (微妙!!)


 あまり進まないし、普通に走った方がMP消費もなくて良い気がする。これは完全に戦闘で使うスキルだ。


 (楽になるかと思ったのに....)


 ナーフの鞄から地図を拝借して、町への道を確認しつつ走る。


 ナーフをおぶりながら走るのはキツかったが、四kmか五km進めた。しかし、蜂蜜で時間を奪われてしまいった為、そこで日が沈み始めてしまった。


 洞窟の様な場所は無く、森の中で野宿だ。ナーフが寝ているので、私が寝ることは出来ない。


 「鑑定」


ステータスウィンドウ

 名前 ナーフ

 年齢 15歳

 職業 魔法使い

 レベル 12

 スキル <器用Ⅹ><料理Ⅴ><魔力操作Ⅱ><魔力適正Ⅱ><鑑定Ⅱ><隠蔽Ⅰ><速度上昇Ⅱ>

 

 称号「守護者」

 

 ステータス

 HP 23/87

 MP 173/173

 攻撃力 76

 防御力 69

 素早さ 80

 精神力 177


 状態 昏睡、出血


 出血による影響か、HPがかなり減っている。道中摘んでおいた薬草を、石で磨り潰し、水と混ぜて飲ませる。

 何度か繰り返すと、HPは回復した。


 HP 87/87


 私も干し肉と、水、薬草を補給する。

塩気の効いた干し肉が美味い!今までの疲労が少し飛んでいった。


 だが、まだまだ夜は長い......




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 昨日の晩は、絶えず魔物が襲ってきた。下位兎が十二匹、下位猪が十匹、そして、リリスハイエナという魔物が三匹の群で襲ってきた。


 全ての死体を解体して、毛皮と魔石、肉に分ける作業も並行してやっていた。


 下位兎と猪の魔石は薄い紫色だったが、ハイエナの魔石は少し濃い色をしていた。女王の魔石も拾って居たのだが、それは比べものにならないくらいに濃い色だった。


 強さで魔石の色が濃くなっていくのだろう。


 女王の素材でももう鞄が一杯だが、この大量の毛皮や肉も、町へ持っていけば売れると思う。更に、大量の絶品蜂蜜。


 持って行くか、捨てて行くか....


 (うーんうーん....)


 蜂蜜は絶対もって行きたい。それに、私はお金を一銭も持っていないと言うことから、結局、薄い木の板に蔓で作った紐を括り、引っ張って持って行くことにした。


 これなら少し楽に運べる。


 それでも荷物がかなり増え、更に精神的にも肉体的にも疲労していた。そんな時、


 「んんん.....ここ、何処?」


 ナーフが目を覚ました。


 「ナーフ!!起きたんだね!」


 「ああ。ずっとおぶって貰っていたのか。申し訳ない。」


 ナーフは私の背中から降りて、自分で歩き始めた。


 「歩ける?」


 「ああ、問題ないよ。ありがとう」


 まだ怪我は治りきっていないが、昨日ナーフの腕と腹に新しく薬草を貼り付けて、その上から鞄に入っていた包帯を巻いたのが良かったのだろうか。


 若干昨日より傷が癒えている気がしなくもない。


 ナーフを下ろすと足取りが大分軽やかになった。これでペースを上げられる。地図を見る限り、町へは後半日と言った所だろう。


 「もう、町は直ぐそこだね。町でこの毛皮や肉を売れば、ある程度稼げると思うよ。でも、この大量の水筒は何?」


 「あはは.....」


 全て蜂蜜だと言ったら、流石に引かれるかもしれない。これは乙女の秘密として隠せるものなら隠したい。


 (食い意地が張ってると思われたく無いからね)


 蜂蜜はどの位の価値があるか分からないが、

 町へ行って、これらを売ればやっと一文なしじゃ無くなる!ナーフもその町へ行った事が無いため、どの様な場所なのか分からないらしいが。


 「望みを言うと、ギルドや教会が有れば良いなぁ」


 異世界に来て、はじめての町に心を躍らせながら、町への道をどんどん進んでいった。


 数時間歩き、真っ暗になった所で歩くのをやめ、キャンプを作った。


 ナーフが火打ち石で、拾ってきた木の枝等に火を付けて、簡単だが美味しい料理を作ってくれた。


 「はい!お待ち遠!」


 「美味そ〜〜」


 下位鳥の肉に塩を振りかけ、刻んだ薬草を乗せ、大きな葉っぱに包んで蒸し焼きにした、ナーフ特製、鳥の香草蒸し焼き!


 「香ばしい、とっても柔らかくて、鼻に包んだ葉と薬草の香りがすぅっと抜ける......」


 「美味しすぎる!!」


 こんなに美味しい料理をものの数十分で作ってしまうナーフは恐ろしい。料理スキルで補正も入っているのだろう。


 「ありがとう。でも、殆どスキルのお陰さ。」


 「絶対そんな事ないよーー!!」


 美味しい料理を毎日食べられるのは良いが、流石にお風呂にも入りたくなってきた。


 今まで命の危険がありすぎて、そんな事考える暇も無かったが、段々と生活も慣れて来てそんな欲望が湧き出る。


 「町に行ったら、お風呂にも入りたいよ....」


 「そうだね。宿屋にはお風呂が付いてる筈だから、僕も入りたくなってきた....」


 その日はお風呂に浸かる夢を見てしまった。


 朝になると、ナーフに起こされ、また食事を取る。朝は近くに生えていた草をナーフが積んできて、レモンの様な果物を掛けて食べた。


 ただのサラダの筈なのに、美味い!!


 食事を摂って朝から元気に出発した。昔は野菜など嫌いで、ステーキばかり、いわゆるメッシー君と呼ばれた奢ってくれる男の人に頼んでいたな。


 異世界に来て、少し味覚が大人になったのかもしれない。


 数分歩いていると、


 「あっ!!エリス、町が見えたよ!」


 前方を歩いていたナーフが町を見つけた!


 直ぐ様ナーフの指差す先を見ると、石の壁に囲まれ、大きな門が付いている町が見えた。

 

 門の前には荷車を引いた大きな鳥や、檻の中に入れられた見た事もない動物等、行列が出来ていた。


 「ここは、エリスの町。希少な動物等が良く売り買いされる町で、儲かった奴隷商人が幅を利かせてる町らしい。」


 「町は凄く綺麗で清潔な感じがするね。」


 「商人から取った税金が有り余ってるんだろうね。」


 最西端の町とは思えない発展ぶりだ。街道も馬車(鳥車?)様に広く、通りやすい様に整備されている。


 「一見綺麗に見えても、こういう町は危ない。僕から離れないでよ。」


 「わかった。」


 中には危険な人も居るのだろう。異世界に来て、初めての大勢の人が居る町。人々の倫理観や、雰囲気が一つも分からないため、何が起こるかわからない。


 整備され、歩き易い街道に出た。道に沿って歩いて居ると、時折馬車に追い越されたり、すれ違ったり。交通量が多い。


 そして、さっきの行列まで追いつき、順番を待っていた。


 「しばらく待って、順番が来たら衛兵に身分証明書を出して、銀貨一枚で町に入れる。」


 「私は身分証明書持ってないけど大丈夫なの?」


 「持ってない場合は、金貨十枚が相場だね。衛兵にもよる。」


 「賄賂って事?」


 「そうとも言う。」


 .....衛兵は警察の様な役割だという認識であっているなら、この町はもう既に、かなり腐っている気がする.....


 金貨十枚の値打ちが分からないから何とも言えない。


 (鑑定)


<金貨>

・金から作られる、アメリア帝国の通貨。通称アメリア金貨。アメリア帝国の男性の平均月収は、金貨約二十枚。


 おおよそ一万円位の価値がありそう.....十枚と言うことは、十万円.....


 「ナーフ!そんな大金持ってるの!?」


 「君が持ってるだろ?女王蜂の魔石は金貨二十枚以上で売れる筈だから、それを握らせれば絶対入れてくれるよ。」


 ナーフは持ってけ泥棒精神なのか?十万円が相場なのに二倍払うとは....でも確かに、それ以外に支払えそうな物はない。


 そんな算段をして居ると、いつの間にか列は進み、私達が検問を受ける番だった。


 金属製の重厚感のある鎧に身を包み、槍を突いた衛兵が、気怠そうにマニュアル対応して居る。


 「身分証明書を」


 「何処から来ましたか」


 「何歳ですか」

 

 「町に何の用が有りますか」


 私達の前にいた人達に言っていたのと、全て同じ質問だった。恐らく、朝から今までずっと同じ作業を延々と繰り返しているのだろう。


 衛兵は、ナーフが差し出した身分証を見ると、生気を抜かれた様な声で


 「次....」


 と言い、私達を中に入れた。


 「エリスは何も調べられ無かったね。」


 「多分、同じ事を繰り返し過ぎておかしくなったんじゃない?」


 可哀想な衛兵。きっと長時間勤務で疲れているんだなぁ。


 前世では、モーレツ社員等と言って、残業したり休日出勤したり、毎日毎日同じ事を長時間繰り返したせいで、ミスを多発する様な人も居たと言う。


 私は会社員じゃ無かったので、聞いた話に過ぎないが。


 しかし、あんな衛兵で大丈夫なのだろうか。


 兎も角二十万円が守られてよかった。後ろに引いている干し肉や毛皮達、蜂蜜!!もちゃんと積んである。


 「ついて来て!」


 ナーフが私の手を引いて、いよいよ門をくぐり抜けた。


 遂に、念願の町へと入ることが出来たのであった。

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