第5話 女王!(マブい)

その1週間後、


 「骨折も完治したね。」


 猪との戦いで、傷付いた体はようやく完治した。


 「今日は、旅の準備をして明日ここを発とう。」


 異世界に来て約一ヶ月。ようやく近くの町へ旅立つ事になった。


 「よっし!」


 この時の為に、二週間前から準備を進めていたのだ。


 上位猪の骨で作った丈夫な針と、そこら辺の蔦を乾燥させて作った糸でリリス兎の皮で作った鞄。ナーフは元々持っていた革の鞄だ。


 我ながら上手く作れたと思う。


 昔から裁縫は、嫁入りの時に必要だと教え込まれたから、得意なんだよね。


 ナーフが取ってきてくれた、動物を干して作った干し肉は、非常食として一週間分くらいは用意した。


 非常食なのに美味い所が干し肉の長所だな。幾らでも食べれるもん。


 ナーフは、竹の様な植物を切って、水筒を二つ作ってくれた。私は魔法で出せば良いと言ったのだが、


 「またいつ魔物に襲われるかわからない。MPは節約するべきだ。」


 と尤もな事を言われた。


 食料は良いとして、一番の問題は服だった。


 ナーフは二着、服を持っていたが、私は、神様が用意してくれた、今着ている服しか無かったが、流石に作る技術も時間も私とナーフには無かったので、魔法で洗って使い続ける事にした。


 「町に着いたら服を買おうか...」


 うぅ...前までの私では考えられない。


 火起こしするときは、ナーフが火打ち石を持っていたので、それを持っていく事になった。


 炎魔法が使えるのに、火打ち石を使うのは間抜けの様な感じもするが、仕方ない。


 MPは大体、八時間睡眠をとらないと回復してくれないからだ。どれだけMPが多くても、それは変わらない。とナーフが言っていた。


 今までの机や椅子、布団などの家具は、惜しいが置いていく事になった。


 そこそこ快適だった家...グッバイ....


 それぞれの鞄に荷物を詰めて、翌日から始まる長旅に向けて、いつもより早く寝た。


 次の朝。


 まだ日が昇る前に起き、最後に持っていく物を確認して、一ヶ月住んだ洞窟に別れを告げた。


 「これから、神様の願いを叶える旅が始まるんだね。」


 「人が神様を助けるなんて可笑しな話だよ。でも、色んな事が起こりそうで、わくわくするよ。」


 私たちが目指す最初の町は、リリス町と言う世界最西端の町だ。これと言った特産品も無い町らしい。


 「リリスの町は、奴隷の売買で潤ってるって聞いたことがある。だから比較的大きな町だと思うよ。」


 「町に着いたら服を買って、暫く町に泊まって、布教しようか。」


 「まずは地道にだね。あっ!それと一緒に踊るのはどう?人の目も引けそうだよ。」


 「それは良いね。エリスが踊ってるとこ見た事ないけど、見てみたいな。」


 「頑張って踊るよ!」


 実は、ナーフが寝た後、コッソリ以前ディスコで流行っていたダンスや、日本舞踊、中国舞踊を練習していた。


 ディスコで踊る様な曲は、大勢で踊るから楽しいし、よく見える。布教する際、一人で踊るなら日本舞踊や中国舞踊だろう。


 日本舞踊や、中国舞踊は記憶だけを頼りに踊ってみたが、1時間も練習すると踊れるようになった。


 この練習を効率的に進めるため、ゴミスキル<舞姫Ⅰ>を使い続けていたら、<舞姫Ⅹ>と、MAXまで鍛えられていた。


 全然嬉しくない....


 本当にいつ使うんだ?このスキル....


 全く役に立つ未来が見えない。でも、もしかすると何処かで踊りを披露する時、使えるかも知れないし。損はない筈だ。


 異世界に来ても、やはり踊るのは楽しい。何も分からないこの場所で唯一とも言っていい娯楽かもしれない。


 そんな会話をしながら、進んで居ると、微かに花の蜜の様な匂いが漂ってくる。


 (良い匂い)


 「花だ!こっちに来て、初めて見たよ。」


 「そうか。でも、こういう所は魔物が棲家にしている事が有るからね。滅多に報告例は聞かないから、大丈夫だと思うけど。」


 「魔物はこんなに綺麗な所にも居るんだ。」


 それでも、お構いなしにぐんぐん進み続けると、蜜の香りも強くなって来た。少し不思議に思い、ナーフに、


 「ねぇ、この香りって」


 ピリッ


 背中の辺りに、違和感を感じる。


 (これ。兎の時と同じ...)


 「ナーフ、ストップ!」


 「ん?」


 「後ろから何か来る」


 振り返り、耳を澄ます。そう遠く無い位置から、羽音の様な音がする。


 「何かが凄いスピードで近づいてくる!!」


 この危機を感じ取ったのか、ナーフも詠唱を開始した。


 「慈愛の神様......」


 来た道をよく見ると、見えた!虫の大群だ。目を真っ赤にして、何かに怒っているのは間違いない。


 「蜂...?」


 ただ、普通の蜂でなく、手の平くらい有りそうな蜂だ。それが何百匹と居る。


 「あれは...殺人蜂だ!奴らのテリトリーに踏み込んでいた!エリス、撃つよ!」


 ナーフの射線から退けた瞬間、必殺の一撃が放たれた。


 「サンダーボルト!!」


 一直線に進んだ雷が、蜂を焼き尽くす。雷の温度は約三万度。蜂を焼き殺すには十分過ぎる。


 「不味い。不味い事になった。気付かなかった。奴らの巣の匂い!」


 数百匹もの蜂を殺し尽くしたのに、今まで見た事がないくらい、ナーフが焦っている。


 (蜂に何かあったのか?)

 

 「鑑定」


 <殺人蜂キラービー>

・森の奥深くに生息する、一度テリトリーに入ってしまうと、全ての蜂を殺し尽くすまで何処までも追ってくる。


 「!?」


 全・て・の・蜂・を・殺・し・尽・く・す・ま・で・、何処までも追ってくる。


 「奴らの巣に入って、逃げ切れるのはBランク冒険者以上だ。単体では大した事がないが、一度テリトリーに入ると、侵入者が死ぬまで追ってくる。」


 ブゥゥゥゥン


 「蜂だ、また来たよ!」


 「さっきの奴が場所を知らせたんだ。エリスも炎魔法で迎撃して!」


 「慈愛の神よ...」


 「サンダーボルト!!」

 「ファイアーウォール!!」


 今のでまた数百匹死んだ。バラバラと魔石がドロップする。初級魔法でも倒せるくらい弱い。しかし、大量の蜂がまだ追ってくるのなら、こちらのMPが尽きるのが先だ。


 逃げなきゃいけないけど、魔石勿体ない!!(泣)


 前の蜂を倒しても、また後ろから新しいのが襲ってくる。


 「<ファイアーボール>!<ファイアーボール>!」


 「サンダーボルト!!」


 私が詠唱の時間を稼ぎ、ナーフがサンダーボルトで一気に焼き尽くす。今はこれで保てているが、どちらかのMPが尽きれば均衡は崩れる。


 私のMPは...


MP 34/49


 初級魔法は一発MP5消費している。このままじゃ持たない。


 ピロン♪


 レベルが10から11に上がりました。


 レベルが11から12に上がりました。


 レベルアップ!!


 MP 58/58


 全て回復して、更に上限まで上がった。

しかし、それでも足りない。


 「エリス!後どれだけ行ける!?」


 「あと十一発くらいは撃てる!」


 「このままじゃ駄目だ。女王蜂を狙おう!近くに巣があるはずだ!」


 ナーフは蜂蜜の匂いが濃い方へと、ぐんぐん走っていく。


 「女王蜂を護ろうと、全ての蜂が集まってくるはずだ!」


 「<速度上昇Ⅰ>!」


 蜂の攻撃を避けつつ、全速力で向かう。


 すると、さっきまで茂みだらけだった視界が一気に開けた。


 「あれが巣だ。」


 50m程先に樹齢何千年だと言うような大木に、木と大して変わらない大きさの巣がぶら下がっている。


 巣の周りには、さっきの蜂とは見た目が違う蜂が巡回している。さっきの蜂達は追ってこない。私達を見失っている様だ。


 (鑑定)


<守護蜂>

・女王蜂や、巣を護る蜂。耐久力と攻撃力に優れており、その体は剣も通さない。が、素早さは著しく低い。


 殺人蜂より体が大きく、手には太い針の様なとても大きい武器を片手で持っている。殺人蜂より強いのだろう。


 巣に近づいて女王蜂を刺激するのは難しそうだ。


 「作戦は?」


 「エリスがあの巣に魔法で攻撃をする。巣を攻撃されて怒った蜂が出てきた所を僕の一番威力の高い魔法で落とす。」


 「女王蜂クイーンビーはどうするの?」


 「女王蜂は最後に倒す。出来なければ死ぬ。これしか無いと僕は思う。」


 「わかった。」


 ここは平和な日本では無いのだ。今、私達は命の危機に晒されている。やるしか無いだろう。


 「慈愛の神様...」


 ナーフが詠唱を始めた。私も...!初級魔法の中で、唯一射程が50m以上ある遠距離魔法。


 「<ファイアアロー>!!」


 巣に向けた手のひらから、炎の矢が飛んで行く。数秒後、地響きのような、大地を揺らすほどの音が聞こえて来る。


 真っ黒な蜂の大群が、物凄い羽音を立てながら巣から出てきた。

 

 「命中した!」


 そこで、ナーフの長い詠唱が終わった。


 ナーフの最強の魔法が火を噴く。


 「エリアスパニッシュメント!」


 上空に暗雲が立ち込め、槍の様な雷が次々と蜂達を貫いた。巣にも、神の罰は降り注いだ。


 「MPを半分以上使った。残り少ない!」


 その時、崩れた巣から上位猪程有りそうな蜂がその姿を見せた。右足には細剣を持ち、頭に宝石が散りばめられた王冠を乗せている。

魔物で有りながら威厳すら感じさせる魔物。


 (女王蜂!!!)


すると、女王は軽く右足を振った。


 ザシュッッ


 ピロン♪


スキル<音速Ⅰ>を取得しました


真っ赤な何かが飛び散る。目にも、<危機感知>にも止まらぬ早業。ナーフと、私の脇腹が切られ、女王が背後に移動している。


 「速いッ!!!」


 考える暇も無く、女王は次の攻撃を用意している。一瞬の隙を使って鑑定を発動した。


 (鑑定!)


 女王蜂

名前 ゾフィー

年齢 57歳

職業 女王

レベル 43


ステータス

HP 167/170

MP 50/50

攻撃力 390

防御力 27

素早さ 269

精神力 156


スキル

<ポイズンⅧ><刺突Ⅶ><毒針Ⅹ><速度上昇Ⅰ><斬撃Ⅲ>


称号

<統率者>


 ほんの少しHPが減っている。さっきの巣の攻撃でダメージが入った様だ。だが、


 「ナーフ....!この魔物、名前があるよ。」


 今までの兎、猪、蜂には無かった。


 「名前持ちネームドだ!!中位種の中でも上位の魔物だけ名前が有る!」


 「どうしたら勝てる!?」


 ヒュンッ


 女王がナーフの腕を斬った。攻撃は止まない。


 「ナーフッ!!!」


 「サンダーボルト!サンダーランス!」


 ナーフも負けじと無詠唱魔法で対応している。


 「援護する!ファイアーボール!」


 ナーフは器用に、<速度上昇>も使って走り回りながら細かく、正確に攻撃を当てている。


 女王のHPは段々と削れている。このまま行けば、私達が勝つ。しかし相手も生物、生き残る為に必死だ。


 毒針での攻撃や、毒液を飛ばしてくる等、此方の精神をすり減らす攻撃ばかりしてくる。


 女王にとって、私たちのステータスでは、一突きすれば一瞬で倒せる相手の筈だ。なのにじわじわと削る様な戦い方をしてくる。


 同族を殺された怒りに燃えているのだろうか。


 (魔物にもそんな感情があるとは)


 だが、此方も生きるために必死なのだ。先に襲ってきたのは其方。弱肉強食のこの世界では殺された方が悪いのだから。


 ピロン♪


<危機感知Ⅰ>が<危機感知Ⅱ>にレベルアップしました。


 手加減された攻撃を必死で避けつつ、反撃を加えていく。


 「サンダーボルト!」


 女王は耐久力が低位の魔物と同じレベルで低い。細かい攻撃を加えて居ても、それなりのダメージは蓄積されていく。


 女王のHPは後半分にまで減っていた。その時、


 「キィィィィィィィィィ!」


 女王の雰囲気が変わった。

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