第4話 マンモスうれぴー!

目を覚ますと、空には沢山の星が輝いている。夜になってしまった様だ。


 ここは何処だろう。それに何時間眠っただろう。全身が酷く痛む。喉も乾いた。


 (喉乾いた.....水.....)


 「起きたんですね!良かった。」


 (さっきの美少年!)


 「うっ...だい...じょうぶ。」


 「全然大丈夫じゃないでしょう!骨折が4箇所、打撲6箇所、傷は7箇所ですよ。あの後この洞窟に連れてきて、あなたが偶々薬草を持っていたからなんとかなりましたが、瀕死でしたよ。」


 薬草、取っといてよかったぁ......まだ全然痛いけど。<痛覚遮断>がなければどうなっていたんだ....


 (鑑定)


ステータスウィンドウ

 名前 鈴木国子

 年齢 15歳

 レベル 10

 スキル

 <鑑定Ⅱ><言語取得Ⅹ><危機感知Ⅰ><痛覚遮断Ⅴ><耐久Ⅲ><突進Ⅱ>

 称号

 「慈愛神の加護」「舞神の加護」

 ステータス

 HP 56/56 +36

 MP 49/49 +39

 攻撃力 67 +55

 防御力 67 +58

 素早さ 84 + 74

 精神力 79 +59


 状態 骨折


 これは...凄い上昇率だ。


 一体倒しただけでレベルが8も上がった。強かった分報酬も大きいという事か。


 <痛覚遮断>も<耐久>もレベルが上がった。<痛覚遮断>がレベルアップしていなければ、今頃床をのたうち回っていただろう。ナイス!


 「何をぼーっとしてるんですか!?人の話聞いてます?今頃死んでたかもしれないんです!無茶は良くないですよ!」


 「はいはい。合点承知の助。」


 「なんですかそれは!私は他人ですが、貴女のためを思って言ってるんです!」


 怒鳴り声を出さないで欲しい、こっちは少年を守るために命懸けだったって言うのに....


 眠い。まだ体の疲れも取れていないのだろう。


 「寝る.......あと水くれ」


 「人の話は聞いてください!!」


 格上と戦って疲れているんだから静かに寝かせてほしいものである。






 翌日の朝。太陽がある程度昇った頃に目が覚めた。隣に水の入った器があった。


 昨日は巻かれていなかった包帯があり、折れた部分が木の棒で固定されていた。少年が介抱してくれていたらしい。


 とはいえ、体が昨日と同じくらい痛い。異世界と言えど傷が一瞬で治るみたいなことは無いようだ。最速でも、完治するのには、一ヶ月程かかるのでは無いだろうか。


 「いててて....」


 私が起きたのを察知して、少年が近づいてきた。


 「おはようございます。加減は如何ですか。」


 「全身がズキズキ痛むよ。」


 「そうですか....今ある物ではそれが限界です。すみません。」


 「いや、ありがとう。ところで、君はなんて名前なの?」


 「ナーフ・サンダ...いえ、ナーフです。ただのナーフ。改めて、助けていただき感謝いたします。」


 「こちらこそだよ。ナーフ君かぁ。君若そうだね。」


 「何言ってるんです。貴女も同い年くらいでしょう?」


 (そうだった。私は今15歳の見た目なんだった。)


 「あ...あははは。冗談だよー。はは。」


 訝しげに私を見ている。でも、変な奴だと思われているだけの様だ。


 「そうですか。貴女のお名前は?」


 (国子って言ったら、また怪しまれるかな...うーむ。クニエッタ?クーニー?)


 ナーフと言うような片仮名の名前が一般的ならば、国子は珍しいのかもしれない。


 (!そうだ。あの美少女サラちゃんと、エリアス君にあやかって、エリス・サラなんてどうだろう?)


 上品そうな、いい名前だと思う。


 「エリス・サラよ。」


 (えーっとアメリカでは苗字が最後だった気がするから、名前がエリスね。)


 「エリスって呼んで。」


 「ああ。僕のことはナーフって呼んでよ。」


 「うふふふ。」

 

 「はははは。」


 何故か、嬉しくなって笑いが込み上げて来る。若干ナーフの喋り方も、自然になってきた。


 少し距離が縮まったのは良いが、何か忘れている様な....


 (あっ!!)


 そういえば、私を眠らせた犯人を探していたんだった。ナーフ以外に人は見当たらない....犯人は、恐らく......


 「貴方、私に危害を加えようとしていたでしょう?眠らせて、どういうつもりなの。」


 会話をしている限り、私の事を本気で心配してくれていそうだった。そんなナーフがする事だ。訳があったのだろう


 素直に理由を話すのなら許す。


 「ん?急にどうしたんだよ。」


 「あんたでしょ!昨日私を眠らせたの!


 「眠らせた??」


 「昨日はこの森にいなかったし、この森に入る時、人間の反応は感じなかったよ!君がいて驚いたんだから。」


 「え?じゃぁなんで私は眠っていたの?」


 ナーフは本当に知らなさそうだ。昨日の強烈な眩暈は何だったんだろう。


 「詳しくその時の状況を教えてくれよ。」


 あの時は、踊りを踊っていて、その前に<舞姫>を使って....


 「かくかくしかじか。」


 「あー。それはMP切れによる昏倒だね。体が強制的に眠りに入るんだ。」


 (あの時は<突進>しか使ってないけど。他に使ったスキルと言えば....<鑑定>!?あれってMP使うの??)


 <突進>と、<鑑定>でMPが減っていたところに、<舞姫>が追い討ちをかけたんだ....


 「スキルはほぼ全てMPを使うんだよ。知らないで使ってたの?」


 「知ってたけど...」


 知ってはいたのだが、気を配ることは出来てなかったな...


 「なるほどね。エリスがあんなに<突進>使うからびっくりしたよ。よっぽどMPに自信があるのかと思った。そうしたらMP欠乏で倒れるんだからさ。」


 「これからは気をつけます...。」


 「MPが切れると、HPから補填するから、エリスは本当に死にかけだったんだよ。」


 MP欠乏で昏睡して、HPが無くなりかけているところで襲われでもしたら死んでしまうな....


 無知って怖い。


 直近の課題はMPを増加させていく事か...


 「普段からMPを使えば使う程、レベルアップした時の伸び率が高いから、どんどん使うと良いよ。」


 「でも、エリスは何故こんなところに?」


 「あっ。私は......えっと...記憶がなくて...」


 「えっ?記憶がないの?親は?親戚はいないの?」


 「それが、気づいたらこの森にいて、わからないの。」


 (嘘だってバレるかな...)


 「そうか......すまないことを聞いた。エリスに、慈愛の神様の加護がありますように....」


 「慈愛の神様??」


 慈愛の神様の加護?慈愛の神ってエリアス君の事だよね。本当に神様だったのか!信仰してる人もいるんだな。


 「慈愛の神様を信仰しているの?」


 「?うん。確かに珍しいかも知れないけど、僕は数少ない慈愛の神様の信者なんだ。エリスはどの神様を信仰してるの?」


 (本当に神様やってるんだなぁ。)


 「私は舞の神様かな。」


 「それはまた珍しい神様だね。」


 白い空間で言っていた通り、あまり信仰を集める神様では無いらしい。


 「そうだよね。」


 ナーフが居るうちに、知りたい事を全部聞いておかねば!


 「さっきの雷はどうやって出したの?」


 あれはきっと、神様が言っていた魔法という奴だろう。私も使えるようになるのかな。


 「ライトニングの事?あれは詠唱をして、神様から力を貰うことで出せるんだよ。」


 「へぇー。どうやったら信仰しているって扱いになるの?」


 「神様ごとの教会に行って、誓いを立てるんだ。成人してからなら誰でも出来るよ。少しお布施がいるけどね。」


 「信仰する人が多いと、財力も力もあるわけね。」


 「そういうことだね。慈愛の神様の教会を探すのに苦労したよ。」


 なるほど。早速サラちゃんを信仰しようと思ったけど神様の教会がないと信仰出来ないのか。舞の神様はあまり信仰されてい


 「舞の神様ってよく信仰されてるの?」


 「舞の神は、主に芸者さんとか、踊り子の人が信仰しているけど、あまりメジャーでは無いね。信仰するつもり?」


 「うん。舞の神様にしようかな。」


 神様から言われた、踊りと慈愛の心を広めて欲しいという願いを叶える上で、自分が信仰するべきだろう。


 「僕は力になれないかもな。何処に教会があるのか知らないんだ。」


 「私、街に行きたいんだけど、何処にあるか検討もつかないの。そこまででも、案内してくれない?」


 「もちろん。僕も近くの街まで行こうとしてるんだ。森に来たのも、街への通り道だからだよ。」


 凄い幸運だ。街まで行ければ、踊りを見せる機会もある筈。


 「今から出発するのは、エリスの骨折も治って居ないから、暫く此処で怪我を治そう。洞窟の中なら安全だ。」


 「偉大で慈悲深き慈愛の神よ、我に、魔物を寄せ付けぬ結界を!」


 「聖域サンクチュアリ」


 洞窟の入り口に、金色の膜が張られた。


 「これも魔法なの!?凄い!」


 「ああ。下位くらいの魔物なら、侵入を防ぐ効果がある。」


 いつか魔法も習得してみたいな。使える条件とかがあるのかも知れないから、あとでナーフに聞いてみよう。


 洞窟の中にはナーフが、魔法で切り出してきた丸太で椅子と机を作ってくれた。そして、余った丸太でベットも置いてくれた。


 「器用だねぇ!」


 「うん。スキルを持ってるから。ご飯も出来ましたよ。」


 「わぁ!」


 「昨日の猪肉で作ったステーキだよ。塩は持ってるから、それを使って。」


 「ありがとう。美味しそ〜〜。」


 私が食べている間も、乾燥肉を作る準備を手際よくすすめている。


 メッシーくんにも沢山奢って貰ったが、今まで食べたどの料理より美味い。ここ数日何も口にして居なかったからかも知れない。


 「料理もうまいんだね。」


 「料理のスキルもあるからね。というか、<器用>も<料理>も普通に生きてたら取得できるけど...。どうやって生きてきたの?」


 「うーん...はは。わかんない。」


 「まぁいいや。はい、これに包まりな。さっき剥いで、肉削ぎ落とした猪の毛皮。」


 物凄く優しい。この世界は慈愛がないと言っていた気がするんだけどな。


 (ナーフは慈愛の神を信仰しているだけある。沁みる.....グスン)


 スヤァ


 その夜は、ゆっくり眠れた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「エリス!今日の晩御飯が取れたよ。」


 「ありがとう!」


 あれから1週間が経ち、洞窟での生活も慣れてきた。あの後、上位猪のような強いモンスターが出ることは無く、怪我も回復に向かっていた。


 結構な頻度で出る下位兎や、鳥をナーフが取ってきてくれている。


 (怪我も治ってきたし、生活にも慣れた。魔法を教えてもらえないかなぁ。)


 自分もあんなカッコいい魔法が使いたい...上位猪のような強いモンスターが出ないとも限らないし。


 攻撃手段が自爆に近い突進は使い難過ぎる。


 「ねぇねぇナーフ!魔物が現れた時のために、よければ魔法、教えてくれない?」

 

 「魔法は危険な面もあるから、あまりほいほいとは教えられないけど.....」


 「でも、今度あの魔物が出てきたら、どうも出来ないよね。うん、最低限は教えておくよ。」


 やった!いよいよ私も魔法デビューだ!


 「じゃぁまず手を繋いで欲しい。」

 

 「//////!?」


 いきなり手を繋げ!?い....一体どういう....


 「いや、そうじゃなくて、僕が手から流れてくる魔力の適正を見るから....」


 と否定しつつ、顔が真っ赤になっている。


  「魔力適正?」


 「自分がどの魔法に適性があるか判断するんだ。基本的には、炎、雷、岩、水の四種類。珍しい適正は聖、闇、時、空間だね。」



 なんだ、そういう事か。5歳も下の子供に年甲斐もなくドキッとしちゃった。

 今は同い年だけど。


 「なるほどね。わかったわ。」


 ナーフの手。すごく熱い。緊張してるのかな?冒険をしているにしては意外と柔らかい手だ。


 「じゃぁ、見るからね!」


 おぉ。自分の体の中に何かが巡っている感覚がある!これが魔力か!魔力がしばらく循環した後、


 「終わったよ。」


 適正を見終わったらしい。


 「どうだった!?」


 水か、聖属性もいい。それともナーフと同じ、雷かな、あれもカッコよかったなぁ。


 ドキドキしながら、ナーフの言葉を待つ。


 「エリスの適正は、炎だね。」


 炎!


 「おぉ〜!」


 「炎は適正者が多くて、研究も一番進んでいる属性だね。まずは初級魔法の火球から教えるよ。」


 「はい!」


 「僕がお手本を見せるから。」


 「手のひらに魔力を集中させて、炎の球が出るイメージをしながら、<火球>!」

 

 ナーフの手から直径10cm程度の火の球が

出た。あたりの草を焼き尽くす。


 「<水球アクアボール>」


 それを、ナーフが水の塊を発射して消した。適正は雷では無かったか?


 「どうして、ナーフの適正は雷なのに、水の魔法も使えるの?」


 「適しているだけで、他の魔法も使えないことは無いんだ。ただ、使い難いけどね。」


 ナーフの言っている事は嘘では無い、だが、適正が無い魔法を使える人間は世界で数える程しか居ない。

 優秀な魔法使いでも、火を灯したり、飲料水の確保くらいでしか使えない。しかし、エリスはそんな事知るわけもない。


 「それだけじゃなくて、前呟いてた言葉、言ってなかった!」


 「詠唱だね。あれも効果を高めるだけで、言わなくても魔法を発動させられるんだ。」


 これも嘘では無い、しかし、普通の魔法使いは、詠唱をしなければ魔法は打てない。無詠唱など夢のまた夢の話だ。


 普通の魔法使いでは出来ないことを、平然とやって退ける。ナーフは魔法の天才であった。


 「そうなんだ。」


 「じゃぁ、エリスもやってみよう!」


 「よっしゃ!」


 手のひらに魔力を集める!そして溜める......炎の弾が飛んでいくのをイメージして.....


 「火球!!!!」


 MPがごっそり抜ける感覚がした。


 MP 31/49


 (10もMPが減っている!!)


 ダァァァァァァン


 森の木に、1mは有るであろう火の球がぶつかり、木は呆気なく燃え尽きてしまった。


 (えぇぇ...?)


 「偉大なる慈愛の神よ!我に力を!<水球>」

 

 ナーフが焦りながら、早口で詠唱する。


 何とか火は消えた。


 ナーフが消化してくれなければ、危うく火事になる所だった。


 「.........スンマセン」


 「僕は10cm位の火球を見せたよね!?どうしてその通りに出さないの!」


 怒っている風を装っているナーフだが、内心、はじめての魔法を無詠唱でやってのけたエリスに素質を感じていた。


 (初級魔法だが、無詠唱で....)


 そんな事も露知らず、エリスは怒られて、ただ不貞腐れているのだった。


 ナーフが制御しろって言わないのが悪いよな!知らねーもん!


 「魔法は覚えられる数に制限があって、五つ迄しか覚えられないんだ。だからエリスはまず、炎の初級魔法を覚えようか。」


 それからナーフの一週間魔法特訓が始まった。


ーーー1日目


 「火球が覚えられたら、次は火槍だね。これは火で槍を作るイメージで、ほっ!」


 ナーフの突き出した手から、真っ赤な槍が出てきた。


 「それから、飛んでいくイメージを持って、こうっ!」


 ヒュンッ


 ナーフの放った火槍はすごいスピードで飛んで行った。


 シンプルに凄いな...こんな魔法が使いたい!


 「じゃぁやってみよう!魔法はイメージが大事だからね!」


 手の平に魔力を集め、槍が飛んでいくのをイメージした。


 シュンッ!


 火の槍を出すことはできた!


 スピードがナーフのと違う....?


 だが、私が出した火槍はナーフのよりも遅い。


 「どうしたら速くなる?」


 「イメージで変わるけど、手の平と槍の間で、点火を使えば大分速度が出るようになるよ。」


 「点火って初級魔法?」


 「うん。難しいから一番最後に教えるね。」


 「わかった!」


 魔法は組み合わせて使うことも出来るのか!魔法は奥が深いんだな....


 私はすっかり魔法の魅力にハマってしまったようだ。


 くぅぅーー!


 「今日はMPが無くなるまでひたすら火槍を練習するよ!」


 「火槍!」


 「もっと速く!」


 「火槍!」


 「回転かけると威力上がるよ!回転かけて!」


 「火葬!」


 「速さが疎かになってる!」」


 こんな風に鬼教官と化したナーフにしごかれ、MPが尽きて1日目は終了したのだった。


ーーー二日目


 「昨日は火槍をやったから、今日は火弓をやろう。」


 火弓...名前からかっこいい!


 「この魔法は弓を飛ばす魔法だよ。槍と同じように速さが重要だから、頑張ろう。」


 「弓は出来るだけ風の抵抗を受けにくそうな形にして、飛ばすっ!」


 火槍よりも速いスピードで、矢が飛んで行った。


 「これを改良すると、こんな事もできる!」


 ナーフの周囲に大量の矢が出てきた。それが一斉に発射される。


 すっごい!こんな事も出来るんだー!


 「じゃぁやってみて!」


 その後は、昨日と同じようにしごかれたのだった。


 三日目も、ナーフに火壁を教わり、四日目は、手の平からだけでなく、空間に魔法を出す練習や、幾つも同時に出す練習をした。


ーーー五日目


 「今日は初級魔法の中で最難関の点火を練習しよう!この魔法は色々応用が効くし、凄く便利だから絶対覚えようね!」


 「点火は、1cmの小さな爆発を起こす魔法だよ。まずは大きな爆発をイメージして、段々小さくしていこう。」


 「向こうの地面に発動させるとイメージして、フンッ!」


 パチン!


 ナーフが指パッチンをした瞬間、数m先の地面が爆発した。


 「ここから段々小さくしていって、」


 爆発が段々小さくなっていった。


 「これが点火。やってみよう!」


 ここからが中々長く、難しかった。大きな爆発を起こすのがまず難しく、MP消費も大きい為、習得に一日かかった。


 六日目は、小さくしていくのが更に難しく、ずーっと練習していた。努力の甲斐あってか、なんとか習得完了した。その間ナーフは常にアドバイスをくれていた。


ーーー七日目


 「今日は点火の応用編!」


 「火球、火槍、火弓でも何でも、後ろで点火を使えば飛んでいく速さが格段に上がるよ!」


 ナーフが出した槍の後ろで点火が発動した。


 その最高速度は音速を超えた。


 「ふふっ♪やってみよう!」


 槍を出し、後ろで点火させる。


 だが、あまり速く無い。


 「槍は普通に飛ばしつつ、点火で速度を足すんだよ。」


 難しい!言うなれば、両手でピアノを弾くのをもっと難しくした感じだ。


 夕方になり、MPが最後だと言う時、


 「火槍!!」


 ピュンッッ!!


 火槍の速さに点火の力が足され、私の槍も音速を超えた。


 「おめでとう!一週間よく頑張ったね!」


 こうして、ナーフズブートキャンプは終わったのだった。


 魔法

<火球><火槍><火弓><火壁><点火>


 五つの初級魔法を全て覚えて、枠は一杯になってしまった。


 ある日の夜、晩御飯のリリス鳥を食べ終わってから、ナーフは私に語りかけてきた。


 「エリスは、何の職業ジョブなの?」


 職業??元ダンサーだが、今は無職...


 「無職?かな...」


 「職業に就いていないのか。僕は魔法使いなんだけどね。エリスもきっと、職業を得られたら、魔法使いだろうね!」


 「職業ってなんなの?」


 「職業って言うのは、その人が生まれた時から神様に与えられている仕事かな。あなたにはこれが向いていますよ。ってね。」


 弟が、ドマクエとか言うゲームの話をする時、同じようなことを言っていた気がする。


 (神様か。じゃぁ私もあの2人に職業決められてるのかな。)


 「エリスは魔法が使えるから、魔法使いじゃ無いかなぁ。」


 「へぇー!他にはどんな職業があるの?」


 「有名なところで言うと、戦士、魔法使い、僧侶、村人、鍛治、商人とかかな。滅多にみないレアな職業の人もたまに居るけど、戦いに向いてる職業の人は大体冒険者になるね。」


 「私も職業が知りたい!何処でわかるの?」


 「町ごとにあるギルドでわかるんだけど、ここから一番近い町にもある筈だよ。」


 どっちみち、町へは向かわないと行けないな。楽しみな気持ちと、不安な気持ちが入り混じっている。


 すると、そのとき


 「エリスって、何も知らないんだね?」


 ドキッッ


 ナーフに、怪しまれているかもしれない。果たして、真実を隠し続けて良いことはあるのだろうか。


 神様の話だと、町の治安は悪そうだ。絶対に仲間がいた方がいい。私はこの世界のことを何も知らないから.....


 (ナーフは、私を助けてくれているし、慈愛の神を熱心に信仰している様だ。信用が置ける人物だと思う。)


 全部伝えるべきか....


 これからの事を考えると、嘘を突き通すのは難しい。バレたら折角の信頼がなくなってしまうかもしれない。


 「ナーフ、ごめん。嘘ついてた」


 自分が転生者であること、神様から依頼を受けたこと、謎のスキルや、神様から貰ったスキルの話、自分の全ての話をした。

 ナーフは、ずっと静かに聞いてくれていた。


 「わかった。びっくりしたけど、話してくれて嬉しいよ。」


 「信じてくれるの?」


 「うん。君はこの世界の奴らと全然違うもの。この世界の奴じゃ、命を懸けて人を助けたりしないから。」


 ナーフは柔らかい笑顔を向けてくれた。


 「だが、<舞姫>と<舞神>と言うスキルは聞いたことがない。スキルや、この世界について、わかる限り話すよ。」


 「まず、スキル。スキルは先天的に神から与えられる物と、後天的に得られる大きく二つに分けられる。」


 「先天的なスキルは大体分かると思うけど、後天的なスキルは、強い印象によって身についたり、何度も同じ行動を繰り返すと、それがスキルになったりする。」


 「僕も鑑定して良いよ。」


 「鑑定」


ステータスウィンドウ

 名前 ナーフ

 年齢 15歳

 職業 魔法使い

 レベル 6

 スキル <器用Ⅹ><料理Ⅴ><魔力操作Ⅰ><魔力適正Ⅰ><鑑定Ⅱ><隠蔽Ⅰ><速度上昇Ⅰ>

 

 称号 無し

 魔法 <雷球><雷><雷光><火雷><神罰><束縛><聖域><空><空><空>

 ステータス

 HP 30/30

 MP 102/102

 攻撃力 24

 防御力 18

 素早さ 25

 精神力 122


 スキルの数が圧倒的に多い。ステータスは、やはり魔法に特化している。見たことのないスキルも有るので、鑑定してみた。


 (鑑定)


 <魔力操作Ⅰ>

・魔力の扱いが上手くなる。より少ないMPで魔法を発動する事が可能。職業<魔法使い>になると手に入る。


 <魔力適正Ⅰ>

・全ての属性の魔法が使い易くなる。適正の無い魔法の威力が上がる。


 <速度上昇Ⅰ>

・MPを消費すると、少しの間素早さが上がり、脚が速くなる。


 これは...?


 <隠蔽Ⅰ>

・鑑定を阻害する事が出来る。一部分だけ隠したい情報を隠せる。


 何か怪しいスキルだけど、ナーフに隠す物でも有るのか?


 まぁでも、兎に攻撃された時、<突進>が得られたのは強い印象を受けたからなんだな。納得だ。


 <舞姫>が得られたのは神様のお陰。先天的なスキルになるのか。全然役に立たないスキルだったが。


 <舞神>は...


 「多分、話を聞く限り<舞神>は今までの経験からスキルになったものじゃ無いかな。前の世界での踊りの経験から、何かがスキルとして現れたんだと思う。」


 その線は濃厚かもしれない。ここではまだその仮説を否定する材料が無い。


 (舞神...。)


 名前だけ見ると、舞の神様と関係のあるスキルなのだろうか。うーん。


 「<舞神>も<舞姫>も特殊ユニーク特殊スキルだと思うよ。」


 「特殊ユニークスキル?」


 「持ってる人の数が極めて少ないスキルの事だよ。君のスキルは聞いたことがないもの。」


 <舞姫>.....あの使えねースキルも一応特殊スキルなのか......


 「いずれ分かることもあるよ。」


 「そうだね!いつか分かる時が来る。それまで気長に待とう!」


 「でさ、僕、君の旅に着いて行きたいと思ってる。」


 「えっ?」


 「僕は慈愛の神様を信仰してるって言っただろう?僕も神様の役に立ちたい。それに、君は警戒心が無いし、危なっかしくて見てられないから。」


 こっちの世界の人が着いてきてくれるのは心強い。二人なら上位猪の様な強い魔物何とか出来るかもしれないし。


 「着いてきてくれるならありがたい!私はこの世界の事何も分からないし...」


 「じゃあ決まりだ。」


 異世界に来て、初めての仲間が加入した。朗らかな笑みを讃えながら、

 二人、無言でがっしり握手をした。


 「夜明け、だね。」


 「うん。」


 「新しい出発って感じがする。」


 前世で何回も見た光景なのに、不思議と嬉しく、特別な、大事な物の様に感じた。

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