第3話 プッツン猪
ピチュチュチュ
鳥の囀りと、あたたかい陽の光で目を覚ました。しかし、優雅な朝でも無い。
「ふぁ〜。頭痛い。」
私はいつ寝たんだっけ?確か昨日、新しいスキルを鑑定した後、急に眩暈がして...。
何が起こった?
昨日の晩、なんの前触れも無く倒れ、そのまま寝て居た様だ。
モンスターの攻撃?誰かにスキルで眠らされた?明らかに外からの要因で強制的に眠らされたとしか考えられない。
とすると、
(誰かが近くにいる?)
喜ぶべきか、敵が居ると落胆すべきか。だが、眠らせるだけ眠らせて、何もしないのは妙だ。
何か引っかかる....
初めて出会う人がそんな奴なのは嫌だが、もし人であるなら、接触できれば村の場所を教えてもらえるかもしれない。
どうしても、この世界について何か情報が欲しいな。
無闇に動き回るのは危険だと、昨日の下位兎との戦闘で自分を戒めたはずだが、どうにも、この好奇心には勝てそうに無い。
「人か魔物か分からんが、絶対に見つける」
そうは言っても、どうやってそいつを見つけるか....相手から居場所を知らせてくれたら良いんだけどな。
何かいい策は無いか、思案していると、
「gsiaoneo!!!」
「!?」
今、遠くの方から人の声が聞こえた気がする。
人の叫び声?聞き慣れない言葉だけど、昨日私を眠らせたやつか?
願いが叶ったかのような幸運に恵まれた。この好機を逃すまいと全力で走る。
声の主に話が聞ければ、停滞したこの状況も変わるかもしれない。
声のする方に進んでいくと、前方に一人の少年と、大きな猪が見える。
段々と近づいて来ると、その全貌が露わになってきた。
「誰かっ!sjけvhkくれ!」
(少し聞き取れる!絶対、スキル<言語取得Ⅹ>のお陰だね。)
ブロンドの髪に青い瞳の、エリアスくんに勝るとも劣らない絶世の美少年が、そこには居た。
黒い、少し古いが上等そうな生地のローブを身に纏い、斜めがけの鞄を持っているが、他に持っている物は何も見当たらない。
その少年が、この世の物とは思えない程でかい猪に襲われて居た。
少年は助けを求めているようだ。猪は3m以上ありそうな巨体をものともせず、少年に突進していく。
このままでは直撃する。
あいつ死ぬぞ...!
「とりゃっ!!」
間一髪で少年を引っ張り、攻撃を避ける。
「き...君は!?」
大分動揺した様子だ。そんな事が言える余裕はないのだが。猪は、もう一度突進の準備をしている。
「そんなのいいでしょう!今はアイツよ!」
私を眠らせた犯人でも良い。絶対に情報を手に入れる!まずはこの窮地を脱しなければ。MPを1消費するが、仕方ない。
「鑑定!」
中位猪ノーマルボア
ステータス
年齢 3歳
レベル 10
HP 48/48
攻撃力 58
素早さ 37
防御力 88
精神力 12
鑑定がレベルアップしたせいか、ステータスが見れるようになっている。私のMPは....
MP 9/10
寝たせいなのか、回復していた。
3歳。それであの体躯。これから成長すればどれだけの大きさになるのだろう。
この魔物は中位。下位兎の比にならない程のオーラだ。ステータスも差があり過ぎる。普通に戦えば、どう見ても勝ち目はないだろう。
(素早さで圧倒的に負けている。逃げるのは無理だ。でも、攻撃を一発でも食らえば死ぬ。)
(今効果がわかるのは<突進Ⅰ>のみ。)
だが、この状況から抜け出すには足りない。
(<舞神Ⅰ>が物凄いスキルで有れば、倒せるかもしれない。)
<舞神>の効果に賭け、猪を真正面から睨みつけた。
猪がこちらへ体当たりしてくる。
「<舞神Ⅰ>!!!!」
............?
「嘘っ!」
何も起こらない。
猪はもう寸前に迫って居た。避けるには間に合わない!
「<突進Ⅰ>!!」
空に飛ばされる寸前、突進を使って傍にそれる事ができた。
MP 8/10
何も起こらない?1減ったのは突進の分だ。MPも消費していない
考えているうちに、少年が何か呟き出した。
「偉大で慈悲深き慈愛の神よ、我に、害をなす獣を討ち払う力を与えたまえ。主の力で我を救いたまえ!」
「ライトニング!」
少年が呟き終わったあと、雷が猪に落ちた。人間ではとても耐えきれそうにない。
(かっこいいい。あれが子ども達の言っていた魔法?)
だが、相手は中位の猪。兎なら死んでいただろうが、猪を倒すには威力が足りなかった。
幸か不幸か、右肩に火傷を食らわせるとはできた。
しかし、圧倒的弱者と思っていた相手に傷を負わされ、怒り狂う猪。攻撃を食らわせた主に突進する。
(初めて得られた手がかりなんだ!!殺させるわけにはいかない!)
<舞神Ⅰ>がダメでも、<慈愛神の加護>で攻撃力を強化し、さらに<突進Ⅰ>を何度も使えば倒せるかもしれない。
可能性と言えば、それしか無い。
一か八かに賭ける!
「まぁてぇぇぇぇぇ!!」
猪が、一瞬怯んだ。
<慈愛神の加護>発動。攻撃力が一時的に強化されます。
「<突進Ⅰ>!!!」
「グォァァァァ!!」
HP 32/48
ッ!まだだ。まだ全然足りて無い。
攻撃を食らえば死ぬ?攻撃をする暇など与えさせなければいい!!!
「突進!突進!突進!」
痛い。ぶつかったところがズキズキと痛む。でも、まだ削りきれない。
HP 21/48
<突進Ⅰ>が<突進Ⅱ>にレベルアップしました。
まだだ!もっと、もっと!
「突進突進突進突進突進突進!!!」
「グゥ!グウッ!グゥゥ!」
HP 5/48
効いている。もっと!もっと!あと少し!
「<突進Ⅱ>!!!」
「グァァァァァァァァ!!!」
大地が揺れるほどの叫び声を上げた猪は、そのまま崩れ落ちた。
ドォォォォォン
HP 0/48
ピロン♪
レベルが2→10に上がりました。
「ゼェ、ゼェ...」
少年は心配そうな目でこちらをみている。体はなんとも無いようだ。
「よか...った...。」
安心して、ふっと気が緩んだ。
少年が駆け寄って来る。
「貴女!ちょっと!!」
ドサッ
わらし.....しぬ?.....
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