第2話 森、進一です。

うぅん......」


 むくりと体を起こすと、日が当たっていて眩しく感じる。樹々の隙間から日光が差し込んでいた。


 (森だなぁ.....)


 さっきの白い部屋はなんだったのだろうか。子ども二人もいつのまにか居なくなっている。


 「夢?」


 しかし、これは何処だろうか。辺りを見渡しても、知らない景色が広がっているだけだ。家にも職場の近くにもこんな自然は無かった様に思う。


 お約束。頬を目一杯、夢から覚めろと願いつつ叩いてみる。


 パチンッ!


 だが、ただただ頬が痛むだけだった。


 意識もやけにはっきりしているし、今までの出来事もはっきり覚えている。夢だとすると、特殊過ぎる夢だ。


 (美少年のサラちゃんに美少年のエリアスくん)


 白い空間で会った、子ども達の話も全て覚えている。


 確か、鑑定に聞けば何でも分かると言っていた。


 口に出せば良いんだろうか?


 「鑑定」


 ステータスウィンドウ

 名前 鈴木国子

 年齢 15歳

 スキル

 [New!]<鑑定Ⅰ> [New!]<言語取得Ⅹ> [New!]<舞姫Ⅰ>

 称号

 「慈愛神の加護」「舞神の加護」

 ステータス

 HP 12/12

 MP 5/5

 攻撃力 7

 防御力 6

 素早さ 7

 精神力 12


 目の前に、さっきと同じ文字が浮かんだ。


 「本当に出た...」


 子供達の会話を思い出すと、私は20歳で死んで、異世界に15歳として飛ばされてしまった。というところだ。


 これ、めっちゃ死んだっぽい。


 私の父も、私が生まれる前に死んでしまったらしい。何処で死んだかもわからないと聞いた。遺骨も、勿論帰ってきていないと。

 

 私も同じ運命を歩んでしまった。お母さん、心配してるかな......。


 (人は呆気なく死ぬんだな....)


 死んでから痛感する事になるとは。


 ダンサーとして一流になって、人気者で、前世での生活はとても楽しかった。友達や、親のことも好きだった。


 夢ではないという現実を突きつけられたのに、不思議と涙は出てこなかった。


 でも、感謝は、これまでに無いほど深く深く、感じていた。


 頭の中で、何度も聞いた音楽を再生する。

リズムに合わせて、以前と同じように踊った。私が、何処までも深い感謝を表せるのは、これくらいだ。


 前世との決別。今までの人生への感謝。


 一曲終わる頃には全ての迷いが吹っ切れた。全力で子供達に与えられたこの人生を生きると決めた。


 (この人生では、また一流のダンサーになって、決して二十代で死なない様に、長生きしよう。もう一度幸せになろう!)


 そう、固く決心した。


 ピロン♪


スキル<舞神Ⅰ>を取得しました。


 突如として頭の中に音が鳴り響いた。


 涙を拭い、文字を読もうとする。


 「なに...?あぁ...消えちゃった。」


 一瞬だけ浮かんでいた文字は、すぐに消えてしまった。


 しかし、今いる場所といい、この文字といい、さっきの子ども達。


 あの子ども達(神様?)の言葉から察するに、地球とは違う場所に飛ばされてしまったという可能性が浮かぶ。


 異世界だとしたら、どうやって生きていけば良いんだ?


 困惑しつつも、今の状況を確認する。


 「鑑定」

 

 やはり、この言葉を口に出すと、さっきの文字が浮かぶようだ。

 

 もう一度、ステータスの欄を見ると、HPと精神力が突出している。今まで一晩中踊っていたから、そこだけ強くなったのかな?と思うと面白い。


 にしても、ここは何処なのか、今は何年なのか。ステータスの効果や、スキルも、分からないことがだらけだ。


 「はぁ。わからない。」


 ともかく、少しずつ状況を理解していかなければ何も進まない。


 (わかることから一つずつ。全力で生きると決めたんだから。)


 「鑑定」


 ピロン♪


<鑑定Ⅰ>が<鑑定Ⅱ>にレベルアップしました。


 さっきと同じ音と文字!今度はちゃんと読めた。


 <言語取得Ⅹ>

・言語を理解しやすくなる。最大まで強化されています。 


 <鑑定Ⅱ>

・物の名前と、効果がわかる。


 <慈愛神の加護>

慈愛神に気に入られた物だけが得る恩恵。

・人を助ける時、全てのステータスが50%上がる。10秒持続。5時間に1回使用可能。


 <舞神の加護>

舞神に気に入られた者だけが得る恩恵。

・踊っている時、全てのステータスが20%上がる。

 

 <鑑定Ⅰ>が<鑑定Ⅱ>になっている。<言語取得>はⅩだったから、最低でもⅩまではレベルが上がるのかも。

 さっきの機械音は、鑑定の性能が向上したことを告げていたんだろう。


 それに加え、確かレベルアップしたのは、鑑定を使ったすぐ後だった。


 「使用回数でレベルアップするのかな?」


 この考察は正しい筈だ。今のところデメリットも無いわけだし使いまくる以外ない!色々なものに向けて使ってみよう。


 今思い出したが、昔から何でも試す性格のせいで、何度もはしゃいで熱を出して寝込んでいたな.......




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 「鑑定!鑑定!鑑定!」


 走り回りながらそこかしこの物を鑑定していく。新鮮で、童心に帰った様だ。


 <リリス樹>

・建築に適した木


 <リリス栗鼠>

・リリス地方に生息するリス。


 <石ころ>

・ただの石の破片。


 ふむふむ。リリスというのは地名のようだ。これも鑑定できるのかな?謎解きの様で面白い!


 「鑑定!」


 <リリス地方>

・大陸の最西端。


 私がいるのは大陸で、孤島ではないらしいな。それは喜ぶべきだが、人は住んでいるのだろうか。私も年頃の乙女だ。野宿はしたくない。


 (人がいる村か、町があれば良いんだけど。)


 子供達の依頼と、トップダンサーに成りたいという私の願いはそこまで違わない。

 しかも、文字通り第二の人生を与えてくれたのだから、恩に報いるのが道理だろう。そのためにも人に出会うのは重要だ。


 「人は居るのかな.....」


 ガサッガサッ


 茂みに何かいる。


 「なんだ?人か?猫か?」


 結果。音の主は人でも、可愛いもふもふの猫でも無かった。


 「うわっ!!」


 それは凶悪な顔をしている白い兎だったのだ。前世でこんな兎は見たことが無いので、異世界ならではの生き物だろう。


 ここは地球とは違うのだ。危険な生物が彷徨いている可能性も考えるべきだった。


 とにかく走る!逃げないと殺される。


 「ハァ、ハァ、ハァ」


 ピロン♪


スキル<危機感知Ⅰ>を取得しました。


 タッタッタッタッタ


 力強い足音が近づいてくると共に背中にピリッとした感覚があった。その瞬間、背中に鈍痛が走る。


 ドンッ!


 兎の攻撃を背中に、モロに受けてしまった。倒れそうなくらい痛い。それでも振り向かず、走り続ける。


 ピロン♪ピロン♪ピロン♪


スキル<痛覚遮断Ⅰ>を取得しました

スキル<突進Ⅰ>を取得しました

スキル<耐久Ⅰ>を取得しました


 新しいスキル!何かこの状況を脱するものは.........


 「ッ!<突進Ⅰ>!」


 一番使えそうなスキルを咄嗟に口に出す。すると、不思議に体が勝手に動き、兎に向かって突進した。


 うぉぉぉ!何だこれ!


 体の主導権が奪われた感覚だ。


 「ギュィィ!」

 確かな手応えがあった後、汚い断末魔をあげ、兎は絶命した。後には石のようなものと、兎の死体が転がる。


 ピロン♪


 レベルが1→2にアップしました。


 「ハァ、ハァ」


 咄嗟の判断だったが、上手くいった。やはり<突進Ⅰ>はその名の通り突進するスキルのようだ。


 「はぁぁぁ....」


 気が抜けてへたり込む。


 「よかったぁ......」


 てか何あの兎。こっわーー。絶対殺しに来てただろ。


 対処できたから良かったものの、二度とこんな思いはしたく無いと思ったのだった。


 しかし、さっきの戦闘でスキルをたくさん取得していた。それに、レベルも上がった。


 「鑑定」


 ステータスウィンドウ

 名前 鈴木国子

 年齢 15歳

 レベル 2

 スキル

 [New!]<鑑定Ⅱ> <言語取得Ⅹ> [New!]<舞姫Ⅰ> <舞神Ⅰ> [New!]<危機感知Ⅰ> [New!]<痛覚遮断Ⅰ> [New!]<耐久Ⅰ> [New!]<突進Ⅰ>

 称号

 「慈愛神の加護」「舞神の加護」

 ステータス

 HP 1/20 +8

 MP 10/10 +5

 攻撃力 12 +5

 防御力 9 +3

 素早さ 10 +3

 精神力 20 +8


 スキルが爆裂に増えているし、HPと精神力もかなり上がった。だが、そんな事よりも


 「HP1!?」

 

 兎には一度しか突進を食らっていないのに、11も削られていた。今迂闊に歩き回って、戦闘になりでもしたら確実に死ぬ。


 (襲いかかってくる動物もいるなんて......)


 さっきの石と、兎を引きずり何処か良い隠れ場所はないかと周囲を探すと、丁度良い洞窟があった。


 (ラッキーだ!)


 「ここで寝よう。」

 

 中はひんやりとして気持ちいい。草や木で入口を隠せば、敵も見つけられない筈だ。


 「鑑定」


ステータスウィンドウ

 名前 鈴木国子

 年齢 15歳

 レベル 2

 スキル

 <鑑定Ⅱ><言語取得Ⅹ><舞神Ⅰ><舞姫Ⅰ><危機感知Ⅰ><痛覚遮断Ⅰ><耐久Ⅰ><突進Ⅰ>

 称号

 「慈愛神の加護」「舞神の加護」

 ステータス

 HP 20/1

 MP 10/10

 攻撃力 12

 防御力 9

 素早さ 10

 精神力 20


 ステータスを開き、じっくりとスキルの効果を読み込む。


 まず突進だね。

 <突進Ⅰ>

・敵に突っ込む。


 敵に突っ込む、だけだ。これじゃ何もわからない。鑑定を強化すればもっとわかるのか?


 ならば.......


 「鑑定鑑定鑑定鑑定」


 そこらの植物や、生き物を鑑定しまくる。

 

 <薬草>

・傷を癒す


 <魔石>

・魔物からドロップする石


 新しく発見した物が二つあった。他は前世でも見知った植物達だった。


 「魔石はさっきの兎から落ちたやつか。あの兎は魔物っていうのね。」


 薄い紫色で、綺麗だったので拾っておいた。


 傷を癒すため、むしゃむしゃ薬草を食べてみる。すると、体の痛みが少しマシになった。HPも僅かに回復していく!


 「凄い!まだまだ生えてるから、摘んでいこう!」


 適当な葉っぱと木の蔓を合わせて、小さな鞄を作り、その中に入るだけ詰め込み、魔石も入れておいた。


 その後も鑑定をしまくり、10個ほど鑑定したところで、


 ピロン♪


 <鑑定Ⅱ>が<鑑定Ⅲ>にレベルアップしました。


 「おぉ〜!」


 これにより、より詳しい効果がわかるようになった。


 <危機感知Ⅰ>

・攻撃を加えられた時、当たる前に認識できる。


 <突進Ⅰ>

・敵に突っ込む。一時的に加速し、素早さの二倍の速度で突進する。消費MP3


 <耐久Ⅰ>

・自身の耐久力を5%底上げする。消費MP毎秒1


 <痛覚遮断Ⅰ>

・痛覚を感じにくくする。


 今のところ、使える攻撃手段は<突進Ⅰ>だけだ。


 さっきの兎も鑑定してみる。


 <下位兎 レッサーラビット>

・兎種の中で最も弱い。食物連鎖の底辺にいる。


 さっきの兎、最弱なの!!??最弱に大分苦戦した気がするが......先が思いやられる。


 待てよ?一つ効果が分かっていないスキルがあったぞ。


 「そうだ!!」


 ずーっとスルーしていたが、神様から一つスキルを貰っていたのだった!字面だけで選んだスキルなので、どんな効果かは知らない。


 (<舞姫>なんて強そうな名前!敵を一瞬にして殲滅できるスキルかもしれないな!)


 強くなれるスキルだと予想してわっくわくで鑑定を発動させた。


 <舞姫Ⅰ>

・速く踊れる様になる。スキルレベルが上がる度、素早さにバフがかかる。Ⅰ→1.2倍、Ⅹ→4倍


 ガビーン


 速・く・踊・れ・る・様・に・な・る・。だ・け・のスキル.......


 全く役に立つ未来が見えない。絶対に選択を間違えてしまった感がある。


 スキルを選ぶ際、勇者や魔王、賢者といった、明らかに戦闘に適してそうなスキルもあった。こんなに危険だと知っていれば、そっちを選んだのにっ.......


 今更言ってもどうにもならない事はわかっている....分かっているが....


 (まぁ、トップダンサーになるときには役に立つスキルだ....落ち込まず、気を取り直して行こう.......)


 自分はこの森で最弱なのでは無いだろうか。第一の目標に、トップダンサーより、子供達の依頼より、最低限強くなる事が設定された。


 (しょうがないしょうがない!子供達もわかってくれる筈!それに、依頼を達成させたいならもっと強くしてから送らないとダメだよな。)


 本当にその通りだ。あの二人は私を本当に生きさせる気が有るのか??


 誰も頼れる人が居ないとなると、自分で生き残る道を考えるしか無いだろう。それにはスキルや攻撃手段が必要になってくる。


 <耐久Ⅰ>は、命に関わるスキルのようなので、出来るだけ優先してあげていきたい。

まだ、明確な上げ方がわからないのでどうにもならないが。


 (もしや、敵に攻撃されないと上がらない...?)


 (まさかね....へっへっへ)


 そんな、嫌な想像をしていると、最初は無かったスキルが増えている事に気づいた。


 「あれ?」


 <舞神Ⅰ>

・$&@硪*¥=%。#+*(/


 文字化けしていて、効果が読めなくなっている。


 「んーーー?」


 最初らへんに見逃したやつか?


 そうこうしているうちに、日が暮れ始めた。森は段々薄暗く、不気味になっていく。


 夜は魔物が出てきても見えないから外にいるのは危険過ぎる。


 洞窟に入って、暫くは月を眺めていた。今が何時かわからないが、せいぜい8〜9時にしかなっていないと思う。少しも眠く無い。

 

 踊れば丁度良く眠くなってくるだろうか。


 (一曲くらい踊ってから寝るか。)


 可哀想だし<舞姫Ⅰ>も使ってやろう。心なしかスキルも嬉しそうだな。


 「<舞姫Ⅰ>」


 まだ一度も使われて居なかった<舞姫>を使って、1.2倍速のダンス。今回はランバダを踊ってみる事にした。一人で踊るランバダ程寂しい踊りはないな。


 (って...あ...れ....?)


 強烈な眩暈がした後、そのまま地面に倒れこんだ。立ち上がれない。


 (なにが......起きて......)


 そこで私の意識は途絶えた。

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