第3話 神の騎士団【3】
「あの、ありがとう」
「いいや、大した事してないさ。僕はルーカス。よろしく」
「俺はアシェル。よろしく」
先程の嫌味な少年とは違い、とても爽やかで気さくなルーカスにアシェルは好印象を持つ。
「変なのに絡まれちゃったわね、あなた。アシェルでいいかしら」
「うん。アシェルって呼んで、さっきはありがとう」
「どういたしまして! 大したことしてないわ。そして、ルーカス? だっけ? 噂話が聞こえちゃったんだけど勇者って本当なの」
「あー、そう呼ばれる事もあるね。でも、ここではただのルーカスだよ」
「わぁお! それでも本物の勇者様に会えて自己紹介までできるだなんて。さすが神の騎士団本部! 改めまして私は虫人族のアーリヤ! 気軽にアーリィって皆呼んでね」
これまた愛らしいピンクの髪色をして大きな黒い瞳が印象的な虫人族の少女アーリヤ。
ルーカスと同じように明るく溌溂とした彼女も、アシェルを助けてくれた一人なので彼は感謝をきちんと述べる。
「いやはや、若人の勢いには負けておられんとつい拙者も口を挟んでしまった。拙者は刀の付喪神の倶利伽羅丸。拙者の事も好きに呼んでくれ」
「あら! 付喪神って聞いたことあるわ! 神族の一種なんでしょう?」
「まぁ、その一端ではあるが妖とも言われることもあるな」
「へぇ、そうなの」
「倶利伽羅丸? も、さっきは味方してくれてありがとう」
「かっかっかっ! 大したことではござらん。気になさるな」
今度はアシェルやルーカス、アーリヤよりは年齢層は高めだろうか。凛々しい顔立ちである付喪神の倶利伽羅丸が自己紹介してくれたので、もちろんアシェルは倶利伽羅丸にも感謝を忘れずに述べる。
神族の一端という事は、見た目の年齢と実年齢は関係ないのだろうか。ふと、アシェルはそこが気になった。
たまたま出会ったメンバーが、心強く味方してくれたことにアシェルは本当に感謝をしていた。自分一人だけだったら言い負かされて惨めな思いをしていたかもしれないから。
彼らのおかげで、嫌みを言ってきた奴の味方をして嘲笑ってきていた奴らも、いつの間にかどこかへ行ってくれたので本当に感謝しかないと思っていた。ここで感謝を述べていなかったら男が廃るという思いもある。
「それにしても、いつになったら騎士団に入れるのかしら。私かれこれ一時間は待ったのよ」
「そうなの!?」
「拙者はついさっききたからなぁ」
「僕も一時間以上は待っているよ」
「そんなに!? 俺、来るの遅かったかなあ」
「そもそも、集合時間が曖昧であったのだ。拙者もあまり遅く来たつもりはないので大丈夫であろう」
つい先ほど来たばかりのアシェルや倶利伽羅丸は、アーリヤとルーカスの言葉に驚いた。
集合時間が午前中と曖昧な時間設定だったため早くもなく、遅くもない時間に来たアシェルと倶利伽羅丸。
アシェルは、早く来た人がそんなに前から騎士団本部前で待っているにもかかわらず騎士団内に、入れないとは何故だろうと不思議に思う。
それは、その場にいる誰しもが思っていることだった。
そして、それはその後アシェルも思い知ることになるのだった。
アシェルが騎士団本部前について一時間半後。
「ま、まだ入れないのかな。騎士団に」
もうあと二時間弱もすれば正午になってしまうという時間になったにも関わらず、アシェル達は騎士団内に入れずじまいであった。
「さすがにもう待ちくたびれちゃったわよー。話しのネタも尽きるってもんだわ」
アーリヤの言う通り、たまたまとはいえせっかく自己紹介をした仲なのだからと、アシェル達は交流を深めようと自分達の事についてお互い話をしていたのだが、待つ時間が長ければそれだけ話のネタも尽きてくる。
お互いが初対面な為、まだできる会話はあるもののアシェルや倶利伽羅丸よりも先に来ていたアーリヤやルーカスは待ちくたびれたものだろう。
「いったいいつまで待たせるつもりなのでござろうなぁ」
「これも何かの試験なのだろうか」
「えぇ! これが試験なんて何の試験よ!?」
倶利伽羅丸の言葉にルーカスが、このただ待つだけの時間が何かの試験なのかと言い出すのでアーリヤがそれに驚愕を示す。
しかしルーカスの言葉もあながち完全否定できるものでもなくて、これだけの人数をこれだけの時間待たせているのであれば、何かしらの理由があるのは確実だろうとも考えられる。
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