第2話 神の騎士団【2】

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「ここが、神の騎士団本部!」



 半年前の神の騎士団本部前。

 そこには、黒い団服を着る前の少年、アシェルの姿があった。


 その日は新たな神の騎士団の入団者を決める入団試験が行われる日。

 アシェルは、ここへ、世界のエリート達があつまるとされる神の教団へ入団するために来たのだ。



「やっと、やっとここまで来たんだ!」



 幼い頃から神の騎士団へと入る事を夢に見ていたアシェル。

 その彼の瞳は夢と希望で輝いていた。


 アシェルの周りには他の入団希望者も続々と神の騎士団本部の城壁の中へと入って行っており、アシェルも一度止めていた足を大事に踏みしめて一歩ずつ歩き、騎士団本部の城壁内へと入って行く。

 騎士団の門をくぐり中へと入ると、はっきりと見えてきた大きな騎士団本部の姿。

 その姿を目にしてアシェルはわくわくが止まらない。


 しかし、騎士団本部前の門の前で人だかりができていて、どうやら本部の入り口の門が閉まっていて入団希望者らしき人物たちが中に入れずに固まっている様子だ。

 どうして中に入れないのだろう? 今日は入団試験日ではなかったのだろうか。


 そう思い、アシェルは前の方へと行ってみようかと足を踏み出したところ。



「あっ、ごめんなさい」



 一歩足を踏み出しただけだが、人が多く集まっているせいか、すぐ隣の誰かに肩がぶつかってしまう。

 瞬時にぶつかった相手に謝罪を述べたが、当たった人物が、どうやら悪かったようで。



「…………君、どこの出身だい? 見た所随分とみすぼらしい格好をしているが」



 知らない同い年くらいの男の子にジロジロと見られた上に、みすぼらしい格好と言われてしまったアシェル。

 今日は騎士団入団試験だという事で、彼にしては背伸びした綺麗なシャツとベスト、ズボン、靴下、靴をそろえてやって来たつもりだ。



「…………アガート国の外れの方から来たけど」

「アガート! あの小国の! それも外れの方から来たら相当田舎から来たんだろうね。見てすぐわかるよ」

「そりゃあ、田舎の村から来たさ。それのどこが悪い?」

「田舎者がこのエリートの集団の騎士団本部でやっていけると思うか? エリートだぞ。エリート。せめて、僕の様に貴族ではないと」

「っ…………貴族じゃなくたって、認められれば入団できるのがここのはずだ!」

「ははは! そんな夢物語本気にしているのかい!? 結局は権力や力のあるものが選ばれるにきまってる! 君にどんな力があるというんだい。何か使えたとしても大したことないんだろう?」



 あははと大きな声で嘲笑うその少年、彼の後ろには彼と同じ出身者か貴族なのだろうか。

 一緒になってこそこそと嘲笑う者がいる。



「っく、俺だって!」

「何やっているんだい」



 今にも一触即発な雰囲気になってきたその時。

 涼やかな声が響いたことで、その雰囲気が一瞬にして収まった。



「誰だお前は」

「僕はルーカス。ルーカス・クラーク」

「……ルーカス、クラーク?? …………っは! まさかあの!」



 涼やかな声の持ち主である少年の名前を聞いた途端、嫌味を言って来た少年の表情や、周りの空気まで変わってしまった。

 アシェルにはその意味がよく分からず、周りのよく聞こえるひそひそ話に耳を澄ませて様子を見て見る事に。



「ねぇ、ルーカス・クラークって、あの大国で勇者と神のお告げがあったとされた少年の名前じゃなかった?」

「えっ! じゃあ、あの人がそのルーカス・クラークってこと?」

「わからないけど。本当にそうなのかも」



勇者?? 勇者と言ったら国によってその待遇や地位は違うけれども、大国の勇者ともなればそれなりの地位の人物に違いない。

 こいつもこの嫌味ったらしい喧嘩を売ってきた奴と同じなのだろうか。と、アシェルは疑ってしまう。

 しかし、その考えは露となって消えた。



「君、ここをどこだと思っているんだい。ここは完全中立の神の騎士団の本部だよ。ここに来たのなら貴族もそうでない者も立場は一緒のはず。君が言っている事は差別だ。彼に謝りたまえ」

「それは、その…………」

「謝りたまえ。それともこれから入団希望をするというのにそんな事も言えないのかい」



 なんと、ルーカスと名乗った少年は、アシェルの味方をしてくれた。



「そうよ! 謝りなさいよ!」



 突如、頭上から声が降ってきたので空を仰ぐと、そこには美しく大きな蝶の羽を広げている少女の姿があった。



「よっと」



 彼女はひらりと空から降りてくると、パァッと光って羽が無くなった代わりに、大胆に開いているデザインの服から丸見えの背中に、先程広げていた羽と同じ美しい模様が浮かび上がっていた。

 そんな彼女は、くるりとアシェルとルーカスの方を向くと。



「初めまして、私はアーリヤよ」

「初めまして、僕もルーカスだ」

「は、初めまして…………た、アシェルです」



 彼女は気さくに挨拶をし、握手までしてくれてどうやらルーカス少年と同じようにアシェルの味方をしてくれる様子。



「カッカッカッ! それならば拙者も倶利伽羅丸というものだ。拙者の事もよろしく頼む」



 なんと更にアシェルの後ろからは背の高い大柄な青年がアシェルの肩を叩きながら挨拶をしてくれた。


「よろしく! アーリヤよ」

「よろしく、ルーカスだ」

「アシェル、アシェルだよ。よろしく!」



 自分の味方をしてくれる人物が、こんなにもいてくれる事に嬉しさを感じたアシェルは勇気を貰った。味方が増えたおかげか、角があった雰囲気も解消され。

 そして、それとは反対に気まずくなったのだろう。

 嫌味を言ってきた少年は苦虫を噛み潰したような顔をしてついには。



「っぐ……、すまなかったな」

「ぇ、いや。俺の方こそぶつかってすまなかった」



 偉そうに嫌味を言ってきた少年はしぶしぶといった感じではあったが、アシェルに謝罪をし姿を消していった。











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